僕とGと外敵と
カサコソと、たまに足場によって足音が鳴る。
そして、自分の後に続いて、大量の足音。
どうやら自分の兄弟姉妹たちが後に続いているらしい。
僕はファーストペンギンということだ。
僕が止まると、皆んなも止まる。
そして不思議そうに触覚をちょこちょこ動かしているのがわかる。
まだ幼虫であり、脱皮もしていない。
薄ら明るくなってきたため、少し観察してみたが、背中には幼虫であることを示すのか、皆一様に白いドクロの様な模様がついていた。
クロゴキブリの幼虫には、白い模様が背中に横一文字に入っている。
そういった類のものだろうか?
自分の知識には無い状況に少し興奮する。
しかし、幼虫なので出来ることは走ることくらいだ。
早く成長して、何が出来るのか知りたいところだなあ。
そう思いながら再び走り出すと、穴倉の脇にもう一つ穴を見つけた。
空気の流れがある。かなり奥へと続いているのか…。
少し偵察してみよう。
と、壁際に沿って慎重に進んだ。
少し異なる臭いがする。
獣臭…?あまり深追いはしないほうが良いな。
そう思い、後退しようとした所で、兄弟たちの背後、入り口の上から何かが落下してきた。
「ギィイイイ!」
尖った四つの前歯、殆ど毛の生えていない、哺乳類。
どうやら、前世で見たことのあるハダカデバネズミに似たネズミの巣穴に入り込んでいた様だ。
ネズミとゴキブリ。体の大きさも、強さも圧倒的に差がある。
もちろん生まれたてのネズミと成虫のゴキブリであれば逆転が起こることもあるが…そもそも、ゴキブリは
スカベンジャー(腐肉食、掃除屋)であり、積極的な狩りをしない。
対してネズミは、生態系ピラミッドの中では下位層ではあるが、小さな昆虫や動物も食べる立派な捕食者だ。
明確な死が迫っている。
人間社会では感じたことのない恐怖に、頭の中で生存本能が警鐘をうるさい程に鳴らしている。
さっきまで僕の後を走ってきていた兄弟たちがなす術もなく食べられている。
まずいまずいまずい!
とりあえず奥へ…と、前を向くと、無数のネズミがこちらに向かってきていた。
どうやら生態は、見た目同様ハダカデバネズミの様になっているのだろう。
兵隊ネズミと労働ネズミ、色々いる中の頂点に女王ネズミがいる。
アリの様に高度に社会を作るのは面白いと思っていたが、敵になると非常に厄介だ。
兵隊ネズミの物量を捌く手段は自分には何も…と、万事休すと天を仰いだ。
天…?
ネズミたちより少し高い天井。
そうだ!
壁の粗い表面を足の微細な毛で感じ取りながら必死に登る。
天井へと辿りつき、そこから入り口の方へ全力で走った。
地面よりも凹凸が酷く、走りにくいが贅沢は言えない。
「キュッ!」
みんな!こっちだ!と叫びながら天井にしがみつき駆け抜ける。
運良く生き延びた兄弟の一部も凹凸に阻まれながらもなんとかついて来ている。
前方から来ていた兵隊ネズミは、犠牲になった兄弟たちに齧り付いた兵隊ネズミが邪魔で通れない。
何とか必死に脚を動かして、脱出すると、そのまま穴倉の出口へと急いだ。
かなり減ってしまった兄弟たちは、すこしへばっているのかよろよろと歩き、触覚をひくひくとさせている。
皆への申し訳なさと、命を失うかもしれなかった恐怖が一気に押し寄せる。
今自分は虫。しかも戦う手段を持たない。
圧倒的な弱者だ。
武器は逃げることと、自分の知識だけ。…簡単に死ぬんだ。
もっと真剣に、必死に!なんとか生き延びてやる!