僕と一国一城の主2
ヒーラーはホワイトローチというらしかった。
回復の魔法が微弱ながら使用できるらしい。
体力や攻撃は強くないが、タンク役のモ、グ、ラ達を回復させながら延々と突撃させられるゾンビ戦法的なことが出来るのはあまりに強い…!
クロや僕はなかなかに物騒な種族名をしているが、ゲームなどでよくある回復でダメージを受けるということは無さそうであった。
ニードルは、どうやらスモールソードローチというらしい。
尾角が変化して出来たそれは、剣というより棘のように見える。まだ進化を残しているからだろうか?
時折ブンブンと振り回して、ホワイトローチ達の食べやすいように餌を切り刻んでいた。
物理攻撃のリーチが長いのは強いことだ。これも戦力アップだろう。
そんなこんなで兄弟たちの進化と、取れそうな戦略を考えて、ついにこの巣穴を完全に攻略することとした。
ハダカデバネズミは虫ではないので詳しくはないが、おそらく異世界でも大きく生態は異ならなさそうだった。
きっと女王が奥深くにいるはずだ。
兵隊ネズミはほとんど倒したはず。どんなに成長が早くてもきっと今なら守りは手薄なはず…!
(攻めるなら…きっと今だ!)
陣形を組んで、皆と巣穴の奥を目指す。
途中兵隊とは出会わなかった。道中食糧庫や、子供部屋など色々な部屋を見つけたが、警備もおらず、労働役だけだったため、これと言ったこともなく楽に切り抜けられた。
(タイニーデスローチの時は立場が逆だったのにな。)無惨に食い尽くされた兄弟たちを思い切なくなりつつ、進化によって強くなっていることを実感した。
穴蔵の奥、そこだけ大きくくり抜かれた部屋。
中からは、今まで感じたどの気配より濃密な、大きな気配がした。女王はここだ。すぐにそうわかった。
周りに申し訳程度に兵隊ネズミと労働ネズミがいるらしいが、大したことは無さそうだ。
「キュッ!」小さく兄弟たちに呼びかける。
合図で飛び出して総力戦に持ち込む。数では向こうが有利だろうが、練度はこちらが上だ。
「「「キュイ!」」」皆がバッチリだと言わんばかりに小さく鳴き、触覚を震わせている。
(やる気十分みたいだな。ここを僕らで乗っ取る。そこからこの異世界で生き延びる道を模索していこう…)
僕は触覚を高く上げ、ブンッと前に振ると同時に駆け出し、部屋に向けてダークボールを数発放った。
(よし!いくぞ!!!)
頭上をクロが風を切りながら走り込んでいく。
天井の凹凸もなんのその、目視困難な速さで頭上から麻痺毒の噛みつきで襲いかかる。
「コヒュッ…!」
「ヂッイイ…」
兵隊や労働ネズミは胴体に穴を開けられ、麻痺毒を喰らって息が出来なくなり倒れ込んだ。
部屋の中央。少し台座のようになった所に、魔法兵ネズミより更に2回りほど大きな女王ネズミがいた。
頭上に王冠のような突起が付いているのはここが異世界だからだろう。
魔法による防壁と、ネズミたちの肉壁によって無傷だったらしい女王は、辺りを見回すと、ビキビキと青筋を立てて、赤黒く濁った目でこちらを睨みつけながら、「ヂィイイイイイイイイイイ!」と、鼓膜があったら破れそうなほどの叫び声をあげた。
そうしてブチ切れた様子のまま、こちらの体ほどもある石の槍を複数飛ばしてきた。