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僕と下剋上3

目の前が霞む。

触覚も脚ももう感覚がない。

(何匹だ…あと何匹なんだ…。)

朦朧としながらも、生き延びたい本能と意地だけで動く。

(止まるな。死ぬぞ!)噛みつき、突進する。


モ、グ、ラもクロも、もう限界の様だった。

指示を出そうにも声が出せないし、その余裕も無いせいで、ひたすらに目の前の敵を各個撃破するしかなかった。

モの鎧は凹みが出来ているし、グは前足が折れている。

ラに至っては、タイニーを守りながらのため、頭の甲殻が今にも砕けそうになり、脚は数本無くなっていた。


チラリとその姿を見て、出ない涙が出そうになる。

(すまない、皆。僕の指示が上手く行っていれば。侵入されていなければ…)と、懺悔しながら身体を引き摺ってダークボールを放つーーー


プスッ

気の抜けた様な音だけが鳴り、ネズミが突撃してくるのが見える。

(魔力切れか…くそ!くそ!くそぉおおお!)

噛みつこうと体を捻るが、素早く動けない。

発動しなかったダークボールに魔力を持って行かれたせいらしい。


死にたくなッーーーズブッ!!

「ヂュヂィイイイ!」吹き飛ばされながら目に入ったのは、僕の羽と足を口からぶら下げて笑うネズミの姿。

モ、グ、ラとクロが、今にも倒れそうになりながら、それでも力を合わせてネズミに一斉に襲い掛かる姿。



ドガンッ!!…ドスッ!

下から抉られたからだろう。天井に飛ばされて、地面に落下する。


(痛い!痛い!痛い!!!)

もうダメかもしれない。

ごめんよみんな。…何日生きたか分からなイけど…もっト生きたかッ………



気付くと暖かな光に包まれていた。

また死んだのか。せっかく転生させてもらえたのに、穴倉の中でネズミにやられるなんて。

目を閉じながら、一人考える。

(…きっとあの時のワモンゴキブリも、たくさんのことを乗り越えてたんだろうな……)




しかし前とは違う明るさな気がする。

なんだか揺れる気もする。

どこかから、何か擦れるような高い音と、僕の体が意思に反して揺すられている。


思わず目を開けた。

すると、白っぽく輝く光と、歯型の溝が残る土でできた穴倉…よく見慣れたネズミの巣穴の天井が見えた。


飛び起きると、まだ体が軋んだが、それでも先ほどより動くことが出来た。


見るとラの背中に乗せられて、周りに見慣れない白いゴキブリが3匹。

僕と、ラに向けてこの白く暖かな光を放っていた。


(どういう事だ…?羽も脚も治ってる!!)

考えながら体をふと見ると、先程までの致命傷レベルの傷が治っている。


どう考えてもこの白いゴキブリたちの力らしいことがわかった。

癒しの魔法だなんて、ゴキブリと正反対のイメージだから中々理解出来なかったが、きっと何か素質か、条件が合っていたのだろう。

ヒーラーゴキブリ達のおかげで、一命を取り留めたらしかった。


(でも、こんなことしたって何も……)

半ば諦めながら戦況を見ると、モとグが今にも倒れかかりながらも突進し、ラは時折飛んでくる土塊を避けて僕を守り、クロは飛び上がりながら気を引いてなんとか場を持たせてくれていた。

皆の背中から、「まだ生きたい!」と、弱りきっているはずの体と正反対の強い意思が伝わってくる。



(誰も諦めてない…ごめんよ、僕がしっかりしなくちゃ。生きるんだ!!!)

身体中に力が漲る。魔力も満ちてきたらしい。


(ダークボール!ダークボール!ダークボール!)

モとグに噛み付いているネズミを一斉に吹き飛ばし、2度と起き上がれないようにしながら、クロを狙うネズミの身体にも大きな風穴を開けた。


撃ち漏らした一体がこちらへ突っ込んでくる。

ダークボールの操作に立ち止まっていた僕は避けきれない。


(だめだぶつかる!!)

ドッーーー


という音と共に、ネズミが長い棘に貫かれた。

目の前の出来事が理解出来ない。

「キュギッ!」聞き慣れない掠れ気味の鳴き声に振り返ると、見慣れないゴキブリが1匹。

体から長い棘を生やしたチャバネゴキブリのような姿で…触覚が片方だけ縮れている。


(そうか!ネズミどもに嬲られていた兄弟だ!)

ニードルとでも言おうか…ニードルはおそらくヒーラーたちのおかげで助かったんだ。

そして進化して助けてくれた!


このチャンス逃すわけには行かない!

棘で地面に縫い付けられながらも、まだ魔法を放とうとする魔法兵ネズミに噛みつき、0距離でダークボールを放った。


ドッ…パァアアン!!!



ネズミが中身をぶちまけながら飛び散る。

入り口から来る後続を警戒してすぐに走り出す。



…気配はもう無くなっていた。

あれほど巣穴を揺らした足音も無い。

周りを見渡すと、通路へ続くほとんど死体で埋め尽くされた穴。

壁がえぐれ、凹み、天井にもネズミの死骸が刺さっている。

(あれはきっとグの突進だな。)

部屋の中は戦いの余波でだだっ広い空間となり、その空間の半分以上をネズミの死骸が埋め尽くしていた。


(そうか…勝ったのか…)

思った瞬間押し寄せてくる感情の波。

怖かった。ダメかと思った。痛かった…。

そして、ぞくぞくと全身が震える。生きているという強烈な実感。

皆を見つめる。皆も僕に向けて触覚をぴこぴこと動かしながら見つめ返してくる。


「キュウウゥウウ!!!!」触覚を高く掲げて叫ぶ。

意味などない。ただ、生き延びたという実感と、感動がそうさせた。

「ギュゥウウウ!」皆も同様に叫んでいた。


捕食者を。成体のハダカデバネズミを。

しかも魔法を使ってくるとんでもないやつを。

ただ少し特殊なゴキブリが。

生きたい本能で奴らに上回った僕らが、打ち倒したのであった。

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