僕と闘争
こっちに来ている数は1匹だけ…気づかれずやり過ごすには流石に部屋が狭い。
必ずバレる。
逃げ切ろうにも、おそらく間に合わない。
どうにか先手を取って、仲間を呼ばれる前に始末しなくてはいけない。
人間だった時には喧嘩もしたことがなかった僕がやれるのだろうか…?
いや、やらなければ死ぬだけだ。
しかも僕だけじゃない。兄弟たちも巻き添えだ。
覚悟を決めろ!
自身を奮い立たせて、迫り来る気配の中必死に考える。
そうして、入口より手前で影に潜んで姿を隠して、背後から仕留める僕と、部屋の中から質量で押しつぶすようにして迎撃するスモールアーマーローチと、隙をついて麻痺毒の一撃を入れるスモールデスローチに役割分担することとした。
その他の兄弟には、いざという時逃げ延びられる様に天井の窪みに隠れてもらうことにした。
手短に、各自の位置を伝える。
なんとかわかってもらえたようで、それぞれ持ち場についてくれた。
部屋の外の壁の影に潜みつつ、その時を待った。
体感にして1分経ったか否かというところで、先ほど怒られていたハダカデバネズミがやってきた。
まだ不満そうに小さく唸っており、咥えたゴミに歯を強く立てている。
チャンスだ!
口が塞がれていれば音が出づらいはず。仲間を呼ばれるリスクが下がった!
僕の目の前を通過していくハダカデバネズミ。
どうかそのまま通り過ぎてくれ…。と思わず心の中で祈る。通過にかかる時間がひどく長く感じる。
胴体の半分ほどが通過したところで、急にピタッと止まると、鼻をひくつかせてスンスンと辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
まずい!バレたのか?進化してゴミの色々な汁を浴びていないせいで匂いが違うのか…?
いっそここで…いや、ここを通る敵は少ないが、血などで汚れてはすぐにバレるし、狭い通路だと数的有利を活かせない。
早く去ってくれ!!!
心の中の強い願いが通じたのか、はたまた偶然か。
ハダカデバネズミは再び歩き始め、部屋の入り口まで到達した。
僕は素早く影から飛び出して距離を詰める。
同時に、部屋の中の異変を察知したのか、ゴミを落として叫ぼうとするハダカデバネズミにスモールアーマーローチが強烈な体当たりをした。
叫ぼうと吸い込んだ息を吐き出しながら、一気に壁際まで押し飛ばされるハダカデバネズミ。
苦痛と、仲間を呼ぶために再度声を出そうとしたところに、スモールデスローチのぬらぬらと光る顎から麻痺毒の魔法が掛かった牙が襲いかかる。
柔らかい腹の皮膚を貫通して、瞬時に毒が注入される。
よし!いいぞ!!!
そうして、首を伸ばして硬直したところへ僕の噛みつきで喉笛を噛み切った。
ゴフッ…。っと小さく血を流す音を立てたのを最後に、ハダカデバネズミは麻痺毒による痙攣も無くなり、力尽きた。
やった!ついにやったぞ!
…生きるためとはいえ生き物を殺した。申し訳なさと安堵が胸に広がる。
しかし、人間だった頃も家畜の命を間接的に奪っていたのだ。弱肉強食の中に置かれてよくわかった。
これが生きるということだ。
生きたい。あっけなく死ぬのは嫌だ。
強く、強くなろう。
このままにしておくとすぐに兵隊ネズミ共に気付かれてしまうため、素早く皆で部屋に引き摺り込むと、今持ってこられたゴミと共に食べ尽くすことで証拠隠滅とした。
何とか勝った…しかしこれは場所とタイミングがよかっただけだ。
相手はハダカデバネズミ。アリの様に数で、連携で攻めてくる。
より戦力を増してから出なくてはリスクが大きすぎる。
触覚をぴこぴこさせて喜んでいる兄弟たちを見つつ、僕は次の生存に向けた戦略を考え始めたのだった。