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第8話 サンディエゴ襲撃


 サンディエゴ沖でイ201は深度150で懸吊したまま獲物を待っていた。

 深度150まで潜ってしまうとスクリュー音などはかなり接近していないと聴音できないが、敵の軍港近くに接近している以上やむを得ないと明日香は考えている。


 とはいえ、敵艦を見逃したくはないので明日香は3時間おきに潜望鏡深度までイ201を浮上させ、潜望鏡を一周させることで周囲を探った。


 明日香がそうやって潜望鏡をのぞくたびにB17らしき大型機が飛行しているのが遠望された。

 大型機は潜水艦を捜索しているのだろう。


 獲物がいない以上明日香は暇である。

 従って例のごとく鶴井静香艦長に向かって講釈を垂れ始めた。

「撃沈トン数で割のいいのは戦艦だが、魚雷を最低でも3本当てないと沈まないからちょっと割が悪いよな。

 いや、3万トンの戦艦を3本で沈めれば1本あたり1万トン。となると、そこまで割が悪いとは言えないか。

 1万トンの巡洋艦を沈めるのに魚雷2本使うことを考えればお得か。

 輸送船に乗ってる乗組員は人員輸送船でもない限りたかが知れてるが戦艦となれば人数乗ってるだろうしな。

 とはいえ一番効率のいいのは空母だな。サラトガみたいな巡洋戦艦改造空母だと硬いが、新しいやつは2発で沈められるからお得だ」

「そうですね」

 いつも通り鶴井艦長が明日香の話に合わせる。

 艦を沈めるのに必要な魚雷の本数によるお得さ(・・・)という考え方は確かに斬新だ。

 ただ、その斬新な概念も目の前の司令以外には無意味な概念だろうと静香は思った。


「ところで、サラトガって何人くらい乗組員がいるんだろ?」

「赤城と似たようなものでしょうから、1600人から多くて2000人じゃないですか?」

「どうせ沈めるならたくさん乗っててほしいな。飛行機もマシマシで」

「マシマシで?」


「そう。マシマシで。

 そう言えば、空母に乗ってる飛行機も空母が沈めばお釈迦だろ?」

「それはそうでしょう」


「となると、正確な数字はもちろんわからないが、ミッドウェーで空母を3隻沈めたから、わたしはわが軍で一番アメリカ機を撃墜した撃墜王じゃないか?」

「いやー、撃墜はしていないのでは?」

「それじゃあ、破壊王だな。破壊王とはあまりいい響きじゃないが、事実は事実。

 冷静に受け止めよう」


「少なくとも司令は撃沈王確実ですからそれで十分じゃないですか?」

「いや、そうでもないんだ。

 いずれ将官となった時、鼻息の荒い航空畑こうくうばたの連中が何か言ってきたら、わたしは空母3隻と一緒に相当数アメリカの航空機を破壊していますが、とことでお宅、何機破壊しました? ってエラそうに言えるだろ?」

「確かに」


「わたし自身、いつまで潜水艦に乗っているか分からないが、将官になった暁には少なくとも戦果に見合う予算は分捕ってやるからな!」

「期待しています」


「うん。

 そろそろ時間だ。

 潜望鏡深度まで浮上してくれ」

 鶴井艦長の操艦指示でイ201は潜望鏡深度まで浮上した。


「潜望鏡上げ!」

 潜望鏡に取りついた明日香がいつものように素早く一回転させてすぐに潜望鏡を下ろした。


「いたぞ。

 戦艦が1隻に巡洋艦が2隻、駆逐艦が8隻以上だ。戦艦の艦型はおそらくノースカロライナ級だ。

 戦艦を先に食ってから雑魚を始末してやる。

 空母がいてくれればよかったがないものねだりしても始まらんからな。

 戦艦であろうと95、3発で沈むと思うが、念のため4発命中させれば確実に沈むだろう。

 駆逐艦を全部沈められれば刈り放題だが、数が多すぎる。巡洋艦で我慢しよう。

 全艦魚雷戦用意! 後部発射管室、機雷戦用意」

 艦内を乗組員たちが慌ただしく走り回る。

「面舵、……。

 舵中央」


 方位盤に取りついた明日香が操作を終え、艦首、後部発射官室に発令し始めた。

「前部魚雷発射管室1番から6番、諸元送った。

 1番から4番、調定深度7。5番、6番、調定深度4。

 後部発射官室、8番、9番、調定深度4。機雷の調停深度は2」

『『了解』』


 ほとんど間を置かず前部魚雷発射菅室から、答令が返ってきた。

『1番から6番発射準備完了』

 後部魚雷発射菅室からも、答令が返ってきた。

『9番、10番魚雷発射準備完了、7番、8番機雷射出準備完了』


「1番から4番注水」

『1番から4番発射管注水完了』

「1番、2番、3番、4番発射」

『1番、2番、3番、4番発射完了』

 魚雷が発射されたわずかな振動と一緒に、発射官室からの報告が帰ってくる。


「5番、6番注水」

『5番、6番発射管注水完了』

「5番、6番発射」

『5番、6番発射完了』

 発令所内でもかすかに魚雷の駛走音が聞こえる。


「前進微速、180度回頭、面舵一杯」


 イ201が180度回頭を終えたところで、


「後部発射管室、9番、10番注水」

『9番、10番注水完了』

「9番、10番発射」

『9番、10番発射完了』


「後部発射管室、2分時間をやるからその間に機雷を撒けるだけ撒け。調停深度は全部2メートルだ」

『後部発射管室了解。

 7番、8番注水。……。7番、8番射出。……』


「的距(注1)30や40で外しはしないから、このままずらかろう。深度150まで潜航して逃げる」


「面舵一杯。下げ舵30度、前進強速(12ノット)、深度150まで潜航」

 鶴井艦長の操艦指示のもとイ201は30度の急角度で潜航を続けている。


「副長、的距は30(さんまる)35(さんご)

「120秒と140秒です」と、安田副長が線図を見て返す。


「深度130」

「潜横舵水平、舵中央。後部バラストタンク注水」

「艦水平、深度150、方位240」

 いつも通りぴたりと狙った深度でイ201は水平になった。


「艦長、機雷をもう少し撒いておくからこのまま進んでいてくれ」

「了解」

「前進第2戦速(18ノット)

『前進第2戦速(18ノット)



 ストップウォッチを持った安田副長が、時間を数えていく。

「110秒、11、12、……、119、120」

 ここで爆発音が4つ連続で聞こえてきた。

 そのあと間を置かず魚雷の爆発とも思えない大きな爆発音が1度聞こえてきた。


「今のはどう見ても魚雷じゃないよな。火薬庫に誘爆したか? 撃沈確実としておくか」


「……、137、138」

 20秒ほどおいて2回連続した爆発音が聞こえてきた。

「141、142、143」

 それから2度続けて爆発音が聞こえてきた。


 後部魚雷発射管室から報告が入った。

『後部魚雷発射管室、機雷8個射出完了』

「了解。機雷はあと29個だな」

『はい』


「艦はしばらくこの深度で進むからあと20個ほど機雷を射出してくれ。調停深度は2のままでいい」

『了解』



 しばらくして聴音室に詰める聴音手から、

『聴音、多数の艦艇が走り回っています』

「それはそうだろう」


「司令、戦艦の他は何を狙ったんですか?」

「巡洋艦を2隻。ちょっと豪勢に2本ずつ魚雷を恵んでやった」

「恵まれた方はたまったもんじゃありませんね」

「それはそうだ。3隻とも撃沈確実でいいだろう」


 こういった会話をしているあいだ、かなり遠方から連続して爆発音が艦内に届いてきていた。


 後部魚雷発射管室から20個の機雷射出完了の報告があった。


「200まで潜って、第2戦速(18ノット)で30分、その後原速(9ノット)で1時間。そこで懸吊して夜を待ち浮上だ」





 当日現地時間午後7時。

 イ201は海上に浮上して進路をクェゼリン方向にとって遁走を開始した。

 このときイ201の武装は前部魚雷2、後部魚雷2、爆雷数は9となっていた。



 戦後明らかになったことだが、イ201が放った魚雷により、戦艦ワシントン、重巡インディアナポリス、重巡ミネアポリスが撃沈されている。


 イ201のばらまいた機雷については、1隻の巡洋艦、6隻の駆逐艦と2隻の駆潜艇、そして貨物船2隻が触雷し、巡洋艦は中破。駆逐艦は4隻沈没、2隻大破。駆潜艇2隻が沈没した。

 戦艦ワシントンについては火薬庫に誘爆して轟沈した関係で生存者は皆無。

 重巡インディアナポリスはキールを折られて一瞬のうちにほとんどの乗組員を道連れに沈没している。


 さらに沈没した艦船から海上に投げ出された乗組員の救助が難航した結果、死傷者が大幅に増加している。



 翌日。

 パナマ運河経由でロサンゼルス港に向かっていた2隻の貨物船がサンディエゴ沖から流された機雷に触雷して沈没している。



注1:的距

標的までの距離、ここでの単位は100メートル。


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