初めに
気がつけば、そこに「自分」がいた。
急に自我が芽生えたとか、そんな話ではない。
たた単純に、目が覚めたと、意識が戻ったという話である。
あたりは鬱蒼としげった草木が所狭しと生えており、ぬぎゃーぬぎゃーと訳のわからない生き物の叫び声があちこちでする。
「ここどこ?」
突然だが、僕の名前はカズキ。苗字はわからん。記憶も曖昧だが、自分が何者かと考えたら日本人という単語が頭に浮かんだ。それ以外はさっぱりだ。
そんな自分がどこにいるかと言うと、ジャングル? みたいな所。湿気がひどくて、汗が滝のようにでてくる。
額に浮き出た汗を脱ごうとした時に、自分が手に何かつかんでいるのに初めて気づく。
メッセージだ。
「世界を知れ、その為の力は用意した」
茶色端切れそう書かれてあった。
中学二年生の作文かな?
僕は、すーぱーぱわぁを持って異世界転生(転移?)したらしい。
角の生えたゴリラから引きちぎった腕を右手に持ち、そう思った。はっきりと断定できないのは、ひょっとして、自分が正気を失っただけかもしれないからだ。
あれから、ジャングルっぽい場所から歩く事2時間。
2時間だ。短パン、Tシャツにサンダルを履いて、草木が茂っている所を石や岩に、上り道に下り道の悪路を休むことなく2時間も歩いた挙句、さっき横から突然ものすごい力で腕に左腕に掴みかかった角付きゴリラに、ワレ、ナニスルンジャ! と反射的に右手でつかんで振りほどこうとしたら、角付きゴリラの腕が、鮮血とともに千切れてしまった。
哀れ角付きゴリラ、悲鳴を上げる暇なく絶命!
人型っぽい生き物を殺した悲哀の感情は、まったく生まれず、ああ僕ってすごい力があるんだなと思った。
そして、それは腕力だけではなかった。
ファイアーと言えば、手から炎が出て、アイスと言えば手から炎がでた。
結局、炎一択かよ。
セルフつっこみをした所で、吹雪を強くイメージして、アイスと言えば突風が突然現れ、牡丹雪のような雪や雹が当たりに吹き荒れだした。
「ス、ストップ! ストップ!! やめ、やめ」
吹雪がとまった。
その後、ファイアーと言って吹雪を再び呼び出した。
結局、イメージでどうにかなるのかよ。
吹雪を起こした事で、周囲の生態系を乱したかもしれん。
少し前まで聞こえていた。なんだかわからない生き物の声が聞こえなくなり、あちこちにさっきのゴリラのような生き物や体調が2mもありそうな鳥でできた、氷の彫刻ができているからだ。
環境保護とか、絶滅危惧種とか、複雑な言葉が頭に流れ出し、後ろめたい感情に駆られてその場を走りだした。