北の奪還作戦
その夜半、カーミラは腰痛を理由に城下町へと出て町医者のラグの元へ行き水筒に入れた夜食に含まれている毒を調べるように告げたのである。
「あんたが医者は暇なのが一番なんてほざくヤブ医者だって分かっているけどね」
これは本当に重要なんだよ
「ジョン皇子のお命が掛かっているんだ」
ラグは水筒を受け取り
「ジョン皇子の…」
と呟くと、立ち上がり
「あー、そこで横になってな、カーミラのおばさん」
腰痛なんて嘘なんだろう
と奥の部屋へと入って行った。
そこには多くの薬草の入った瓶が並んでおり、水筒から中身を出すと小さな透明の小皿に中身を分けて入れた。
フィオレンティーナは侍女に与えられる寝室のベッドの上に身体を預けながら天井を見つめた。
自分が城に忍び込んだ時に兵士は騒めいていた。
それから入れ替わり立ち替わり兵士が忙しく動いているのがモップを掛けながら伺い見ることが出来た。
恐らくはアルフレッド皇子の北の防衛線作戦とカイルとルイス男爵の北の有志軍の動きが見え隠れしているから城内が少し手隙になって来ているのだろう。
それだけカイルの身も危険だということだ。
そして同時にカイルが何故ある程度動きを悟らせながら動いているかを考え彼女は目を閉じると
「…カイルお兄様…同じ名前を持つ皇子にお力を」
そして
「このアイスノーズと三人の皇子たちにお力を」
と祈るように呟いた。
今、フィオレンティーナにできる事はただただ祈ることだけであった。
翌朝、カーミラがラグから預かった薬と手紙をフィオレンティーナに渡した。
「ヤブでも分ったみたいで」
本人は偶々と言ってましたし
「でも一応医者は医者のようでした」
そう呆れたように笑んで告げた。
フィオレンティーナは手紙を読むと大きく目を見開いた。
「これは…ヤブじゃないわね」
町医者がこのレベルって
「北の技術的なものはかなり高いのかもしれない」
彼女は薬と握り飯と水筒を服の下に隠し朝食の給仕に向かった。
何故、オズワンドの人間が最も離れた北に手を掛けてきたのか。
何故、アイスノーズが三人の皇子にそれぞれの地を与えたのか。
そして、一つの土地が欠けることで崩壊へと向かうのか。
フィオレンティーナには理解できたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




