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食堂食べ歩き?

町の食堂は朝から忙しい。

鍛冶屋や大工、また役人など様々な職種の人間が入れ替わり立ち替わり食事に訪れるからである。


フィオレンティーナは中央で空いている席を見つけると既に座っている男性に

「ここ、良いだろうか?」

と聞いた。


男性はスクランブルエッグをパンに挟んで食べながら

「あ、ああ」

どうぞ

と返した。


彼女は目深に被っていたフードを払い近寄ってきた店の女性に

「トーストとスクランブルエッグを」

と告げた。

「あ、あと紅茶」


女性はメモを取りながら

「はーい」

と答え、厨房に向かって

「トースト、スクランブルにティー1つ!」

と叫んだ。


活気、活気、活気である。


フィオレンティーナはフフッと笑むと目の前の男性に

「この町は活気があるな」

と告げた。


男性はパンを飲み込むと

「あ、ああ」

貴女は旅の人みたいだが何処から?

と聞いた。


剣を腰に掛けフードを被っているが中は動きやすそうなズボンである。

オーソドックスな旅人の服装である。


フィオレンティーナは笑みを深め

「サザンドラからオズワンドを抜けてアイスノーズに入ったところだ」

と答えた。

「先王が亡くなったと聞いて…仕事が無いかと思ってね」


男性はホォと驚いたように

「傭兵志願か」

腕に覚えがあるみたいだな

と告げた。


フィオレンティーナは目を細めて

「まあね」

と答えた。


男性は腕を組み

「そう言う仕事はなぁ」

と答えた。

「ここはウィルソン伯爵にスミス伯爵、それからウッド伯爵がカイル皇子を要にして結束しているからな」

先王が亡くなっても動乱はないな


フィオレンティーナは驚いて

「…そうか」

と答えると

「諸外国に放逐されるくらいだからダメ皇子だと思っていたけど…脇が硬かったみたいね」

でも国内が動乱しているという噂が流れていたけど

とふむふむと心で呟いた。


男性はそっと顔を寄せると

「だが、北は良くない噂が流れてくる」

と小声で囁いた。


彼女は周囲を注意しながら

「北というと?」

詳しく教えてもらえないだろうか?

と聞き返し、店員の女性を見ると

「コーヒーを1つ追加で!」

と手を振って告げた。


もちろん、男性への奢りである。


店員の女性が「はーい」と答え、先程のトーストとスクランブルエッグと紅茶と序でにコーヒーを持ってくるとフィオレンティーナはコーヒーを男性に差し出した。


男性は驚きつつも笑みを見せると

「悪いな」

と答え

「北は第一皇子のジョン皇子が中心に治めているんだがヒューズ伯爵とクラーク男爵は一番年長のジョン皇子が先王の後を継ぐべきだと第二皇子のアルフレッド皇子に対抗意識を燃やしている」

それをルイス公爵が止めようとしているんだが北のその御三家が武力でぶつかり合う可能性がある

と告げた。


フィオレンティーナは腕を組むと

「なるほど」

と言い

「年長の第一皇子のジョン皇子がすんなり後継者にならないということは…第二皇子か第三皇子が正妃の子供か」

と呟いた。


男性は頷いて

「カイル皇子は側室のリサ様の御子で王位継承権から言っても三番目だ」

もっともカイル皇子は王位を継ぐつもりはないだろうな

「王位継承の混乱が一番国力を弱めると理解してる方だからな」

正妃の御子は第二皇子のアルフレッド皇子だ

「なので中央を治めている」

と告げた。


フィオレンティーナは「そうか」と答えつつ

「あらあらあら…意外と信頼が厚いのね」

ただの腹黒皇子かと思っていたけど

と心で突っ込んだ。


なんせ、面倒見る代わりに国内の密偵をしろと言ってきたのだ。

彼女からすれば

「は?面倒見るってタダじゃないのね?」

と言う印象である。


彼女はトーストとスクランブルエッグを食べて紅茶を飲み干すと

「良い情報をありがとう」

と告げて立ち上がり、店を後にした。


昼までに他にも3件ほどの食堂を回って情報を集めた。

流石に全て食事できるほど大食漢ではないので紅茶を飲みながら相席の相手と町に流れる噂話を交わしたのである。


フィオレンティーナにとってカイル皇子は身元引受人だが『お人好しで良い人物』というニュアンスはない。

つまり、優しく清らかに育った妹のルイーザの手紙のような自分を快く引き取り幸せにただただ導く男には到底見えなかったからである。


『我が国アイスノーズで密偵を請け負って欲しい』

交換条件ということだ。


彼女ははふっと息を吐き出すと

「ま、ただほど高いモノはないっていうわね」

と城へ向かいながらぼやき、今朝抜け出してきた使用人口の前に着くとフードを取って門番を見た。

「入れてもらえるわね?」


門番は恭しく一礼すると

「ご無事で何よりでございます」

とフィオレンティーナを中へとそっと通した。


一度通った道は忘れない。

それはサザンドラで様々な公爵や男爵の館を駆けまわる時に身に着けたモノで移動する際に角を抜けた瞬間に振り向き反対側から見る景色を脳内で記憶するという方式を使っているからである。


だが、その前に彼女の帰還を待っていたアンが

「ご無事で…ご無事で…ご無事でぇ…」

と泣きながら駆け寄ってきたのである。


フィオレンティーナは驚いたものの静かに笑みを浮かべると

「心配かけたわね」

ごめんなさい

と言い、まさか謝られるとは思っていなかった驚いたアンに

「少し書きものをしたいから部屋に戻ったら紙とペンを用意してもらえるかしら」

と告げた。


アンは頷き

「はい、フィオレンティーナ様」

と答え、部屋へとフィオレンティーナを案内した。


素直で。

擦れたところが無い。


フィオレンティーナはアンの背中を見ながら妹のルイーザを思い出し、懐かし気に目を細めた。


彼女が帰還するのとほぼ同時にロッシュ・エバンスも城へと戻りカイルの執務室に姿を見せた。

赤い髪をした精悍な顔立ちの人物で一見優男に見えるが剣の腕はカイルのお墨付きであった。


彼は敬礼して中へ入り

「失礼いたします」

と足を一歩踏み出すと

「ただいまフィオレンティーナ様が城へお戻りになられました」

と報告した。

「カナンの食堂から始まり8件ある食堂の内の南から西に回っての半数4件を回られました」


カイルはペンを止めるとロッシュを見て

「食堂食べ歩きか」

と呟いた。


ロイはう~むと

「まさか城の食べ物に危険を感じておられるとか」

と真剣に悩んだ。

が、カイルは笑って

「いや、恐らく情報収集だろう」

と言い

「彼女は賢い女性だ」

なるほどな

「だから側室か」

と笑みを深めた。


ロイはちらりとカイルを見て

「カイル皇子…フィオレンティーナ様について詳しくお聞きする必要があると判断いたしましたが」

お話しいただけるのですよね?

と見た。


カイルはロイとロッシュを見ると頷き

「彼女がやるつもりがあると分かった以上は話しておく」

と告げた。


フィオレンティーナが本当に契約を果たすつもりがあるのか。

または側室と言う立場に胡坐をかぐつもりなのか。

カイルとしてはその実どちらでも良かったのだ。


だが、彼女が動き出した以上は万全のフォローをするつもりであった。

彼は二人の信頼できる幼馴染を前に唇を開いた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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