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終りの始まり

そこは薄暗い断罪の場であった。


目の前の中央にはサザンドラの王と王妃が座しその手前に王子とこの混乱の中で生き残った重臣4人が座っている。


リザ・フォン・グリューネワルトは両手に枷を付けられて両側に警備の兵に付き添われて彼らの正面に立った。


周囲三方には国の公爵男爵が立って裁判の行方を見つめている。


「リザ・フォン・グリューネワルト」

汝はグリューネワルト公爵夫妻と共に半数の重臣を甘言で陥れて失脚させ国を転覆させようとしたことに相違ないか?


彼女は笑みを浮かべると王子たちを見つめ

「間違いありません」

と答え

「残念ながら国守護を担う聖女ルイーザを陥れられなかったのが残念でありませんが」

とチラリと王子の横に立つルイーザ・フォン・グリーンランドに視線を移した。


黄金の髪に白磁の肌。

整った容貌は正に聖女であった。

勿論、姿だけでなく心も穏やかで優しく…そして清らかであった。


ヒロインに相応しい少女である。


王はリザを見つめ

「リザ・フォン・グリューネワルト」

汝の罪は死に値する

「グリューネワルト公爵家は建国以来長く王族に仕え働いてくれていた」

その代々の働きを無にすることは出来ない

「自ずから死を選ぶことを命じる」

と告げた。

「既に公爵夫妻もあの世で汝を待っている」


リザはにこやかに微笑み、美しく華麗に礼をすると彼女を連行しようとした兵を見て

「この期に至って逃げたりいたしません」

と凛と告げて歩き出した。


笑いが喉元から零れそうになった。

あの男と女が…グリューネワルト公爵夫妻が自分を黄泉路で待っているはずがない。


リザは自分を見つめ続ける聖女に至高の笑みを見せて王宮の裁判の場を後にするとグリューネワルト公爵邸へと向かう馬車の中で目を閉じた。


思い出すのは13年前。

自分がまだリザという名前ではなくフィオレンティーナと言う名前だった時のことである。

公爵であった父アレクサンドル・フォン・コルダが母であるシェリル・フォン・コルダと共に反逆罪で捕らえられて処刑され、兄のカイルも15歳を迎えており禍根を断つように同罪として処刑された日のこと。


「フィオにルイーザ…父も母も俺も無実だ」

グリューネワルトが仕組んだことなんだ

「だから何があっても胸を張って生きていくんだ」

何も悪いことはしていないから

「いいね」

それが兄の最期の言葉だった。


2つ下のまだ3歳だったルイーザは幼過ぎて二度と会えないことが分からないまま泣いていた。

「お母様は?お父様は?」

お兄様はどこへいくの?


お父様!

お母様!

お兄様ぁ…あーんあーんと泣き声だけがガランとした大きな館の中で響いていた。


フィオレンティーナは2人だけになるとルイーザに笑みを見せた。

「ね、ルイーザ」

ルイーザは何時も良い子にしているの

「誰に対しても優しく」

誰に対しても温かく接するの


…それがルイーザを守ることになるから…

「良いわね」

良い子にしているのよ


フィオレンティーナはそう告げた。

「私が…悪役になるわ」

お父様とお母様とお兄様の復讐をする

「だからルイーザは良い子にするのよ」


…聖女になるの…


父親を陥れながら善人ぶって己かルイーザを引き取ると言ってきたグリューネワルト公爵の元へとフィオレンティーナは身を寄せ、ルイーザにはもう一人引き取ることを申し出たグリーンヒル伯爵の元へ行くように押し付けた。


フィオレンティーナはリザと名を改めてグリューネワルト公爵の子女となったのである。


フィオレンティーナは馬車が館の前に着くと見届け人のカイル・フォン・ワイズに付き添われて降り立ち空を見上げた。

「あの日と同じ」

お父様、お母様

「カイルお兄様…もう良いわね」


…ルイーザはきっと幸せになるわ…

「あの子の幸せを邪魔する存在はもういないもの」

この国を揺るがす奸臣は全員いなくなったもの


この時…青く青く晴れ渡った空が頭上高く広がっていた。

そして、国中では『稀代の悪徳令嬢に自害判決』と噂が出回り、フィオレンティーナの死を喜び安堵の声が広がっていたのである。



悪徳令嬢は奸臣に無双する



「は!?」とフィオレンティーナは声を上げた。

もう何もないグリューネワルト公爵邸のエントランスでのことである。


見届け人であるカイル・フォン・ワイズはにこやかに笑むと

「ここでリザ・フォン・グリューネワルトは死んだ」

今いるのはフィオレンティーナ・フォン・コルダ

「冤罪で処刑されてしまったコルダ公爵の娘」

と告げた。

「君が陥れたモリス公爵にベイカー男爵、そして、クーパー伯爵にベイリー伯爵は全員この国…サザンドラを中の国オズワンドに売ろうとしていたことを王も王子も分かっている」

グリューネワルト公爵を筆頭に全員が与していた


フィオレンティーナは青い瞳で冷静にカイルを見ると

「貴方は…誰?」

と聞いた。


かなり詳しく調べたと理解したのである。

そう、グリューネワルト公爵を含め、4人は国の中で反乱を起こして国力が弱まったところでオズワンドへ侵攻を呼びかけようとしていたのである。


オズワンドの王族と繋がり国を売ろうと画策しており、フィオレンティーナの実の父であるコルダ公爵はその事を知り、王に進言しようとしたところを罠に嵌められてその全ての罪をなすりつけられたのである。


だから、同じ手で全員を破滅させてやったのである。


カイルは笑みを深め

「君のやり方は実に素晴らしかった」

その美貌とグリューネワルト公爵の名前で息子たちに取り入り情報を集め

「最後はグリューネワルト公爵自身の罪を白日に晒した」

見事だ

と告げた。

「どうだろうか?」

我が国の為に働いてくれないだろうか?


フィオレンティーナは肩にかかった黒く長い髪を手でファサと払い

「私がこの国で自由に動けるわけがないでしょ?」

死者なのですから

と告げた。


カイルはあっさりと

「勿論、この国では君は悪徳令嬢…国を傾かせた傾国の美女だ」

だが

「我が国では俺の配下の公爵の娘として動いてもらえる」

と返した。

「いや、俺の側室でも良いが」

そうなると君が自由に動くことができなくなる気がするが

「そこは君の自由で良い」


…我が国アイスノーズで密偵を請け負って欲しい…


フィオレンティーナは目を見開くと

「アイスノーズ…まさか…確か先日先王が死んで国が混乱していると聞いたけど」

誰の配下の臣下か知らないけど先ずは主君を守るべきでしょ?

「こんなところで女引っ掛けに来て良いの?」

と怪訝そうに見た。


カイルはヒタリと汗を浮かべると

「あー、いや」

俺はアイスノーズの第三皇子カイル・ホワイト・アイスノーズだ

「訳あって各国の様子を見聞していたんだがその間に父が亡くなって国が危機的状況にあると聞いて戻るところで」

ここの王子に君のことを頼まれたんだ

「迷ったが先の弾劾裁判での君の様子も見させてもらって使えるとおもったので」

引き受けることにした

と告げた。


フィオレンティーナは目を細めて

「胡散臭い」

とポソリと呟いた。


カイルはハハッと乾いた笑いを零すと胸元から手紙を取り出し

「これは君宛てだ」

この国の…南の守護聖女ルイーザ嬢からのものだ

と告げた。


フィオレンティーナは差し出された手紙を受け取りその内容をみた。

文字は間違いなく唯一の肉親となった妹のルイーザのモノであった。


『愛しいフィオお姉さま


私が背負うべき責任を一人で背負いどれほどお辛かったかと思います。

ただただ祈るしかできなかった私をお許しください。

私はお姉さまに口止めされておりましたが全てを王子と王とに話しました。

王子も王も父と母と兄のことを大変悔やみお姉さまの助命に力を貸してくれると仰ってくださいました。

この状況では国でご生活されることは出来ないとアイスノーズの信頼できるカイル皇子に後見人になっていただき穏やかな日々を送っていただけるように取り計らってくれるとお聞きし安堵しております。

お姉さまには幸せになっていただきたい。

何処にいてもどれほど離れていてもお姉さまの幸せを祈っております。


ルイーザ』

フィオレンティーナは僅かに目を潤ませながら、自分を見ているカイルを横目で見た。


カイルは笑むと

「まったく噂とは怖いものだ」

妹の手紙で涙するそんな君が国を転覆させる悪徳令嬢とは

と呟いた。

「だが、その力を貸してもらいたい」

君の身の安全は最大限守るつもりだ


フィオレンティーナは『タダで…と言うわけじゃないのね』と内心突っ込みつつ

「良いわ」

妹のルイーザが願ってくれているのですもの

と言うと腕を組み

「但し公爵家の娘ではなく貴方の側室として乗り込むわ」

もちろん色々条件を付けさせてもらう

「でも貴方の願い通りにアイスノーズの奸臣を洗い出す仕事はするわ」

そうね

「貴方と私はビジネスパートナーよ」

と告げた。


カイルは一瞬驚いたものの皇子の顔つきになると

「わかった」

君がそう望むのなら

「君と俺は国を守る契約者だ」

立場はウィンウィン

「それで良いね」

と告げた。


フィオレンティーナは綺麗な笑みを浮かべると

「ええ」

と応えた。


その日の夜半。

精悍な青年と美しい黒髪の女性を乗せた馬がサザンドラの国を後にしたのである。

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