ENGAGE WITH PIECES ~ジグソーパズル令嬢は歯車男爵と手を組みたい~
「……思い出した」
私が時計を組む内職をしていた時のこと。たいへんな数の歯車をピンセットで組み立てていくのだけど、その日に送られてきた部品はとても精度がよかった。普通はかちりかちりと噛み合わせていくけど、精度がいいとふすっふすっと噛み合っていく。
歴史ある地方貴族とはいえ零落激しいラインヴァル家、内職も慣れたもので、私は最後の歯車を中央におさめる。ふすり、という小気味いい音を立てて歯車を埋め込んだ、その時。
目の奥に火花が散った。
そして思い出した。私は以前、日本で会社づとめをしていた女性。趣味はパズル全般、特にジグソーパズル。部屋の壁と言わず天井と言わず完成したパズルで埋まり、飾りきれないので壁がパッチワークみたいになっていた。
「……あ、大変。この世界にジグソーパズルない」
私はエプロンとピンセットを机に起き、小走りでお父様とお母様のいるリビングへ。
「お父様! ジグソーパズルです!」
お父様はといえば書類の山を眼の前に置いてタイプライターを叩いている。母はその脇で機械編みをしていた。糸をセットして、ハンドルを回すと色鮮やかな布が出てくる機械だ。
正確に言うと父は借金を待ってもらう手紙を書いていて、母は内職だ。ラインヴァル家は破産寸前なのだ。
「どうしたのだカルコ」
「ラインヴァル家の子女がそのように走り回るものではありませんよ」
逼迫してるはずなんだけど、両親はあまり緊張感がない。生まれついての貴族のためか。
この私、カルコことキャルコット・ラインヴァルは声を張り上げる。
「お父様! ジグソーパズルを作りましょう! それを売り出して事業を始めるのです!」
「ジグソーパズルとは何かね?」
私はなるべく丁寧に説明した。両親はじっと黙って聞いてくれたけど、最後までぽかんとした顔のままだった。
「それは売れるのか?」
「たぶん」
…………
……
かなり長い空白。
「それで、作るのにいくらかかるのかね?」
「工場を建てて……本格的にやるなら一億ぐらいでしょうか」
単位はギアール、一億ギアールというと一億円ぐらいだ。わかりやすい。
「いえ、印刷工とか写真の技師も都市から呼ばないとだし、販路を作って宣伝もして、パズルを切り抜く機械についても最初からの開発だから……やっぱり三億ぐらいは」
父は何度かまばたきをして、天井を見上げてから言った。
「時期がよくないな」
貴族らしい答えだと思う。
さて、そこから私は頑張った。
まず作ったのはキューブパズル。木を立方体に切って、六つの面それぞれに絵を描く。
このキューブは四個で一組、あるいは九個で一組になっており、正しい面を上にして、きちんと並べれば6種類の絵ができる。
これを朝の市場に持っていく。一ヶ月で十個売れた。家の借金は増える一方。
だけど諦めない、続いては絵合わせパズルだ。
これは九枚一組のタイルを使ったパズル。
それぞれのタイルには上下左右に動物の絵が描いてある。前半分、あるいは後ろ半分。
正しく並べないと牛の頭にドラゴンのお尻、トラの頭にネズミのお尻という塩梅になってしまう。すべての動物が正しい姿になるように並べるのが目的。
これは結構売れた。一ヶ月で25個。家の借金は膨らんだ。
その後も私は知恵の輪とか、知恵の板とか、スゴロクとかドミノとかガラスで蓋がされた箱の中で棒に輪っかを入れるおもちゃとか作ってある日それをベッドに放り投げた。
「焼け石に水っ!」
というより手が足りない。一人で作るのは時間がかかるし、木工職人さんを雇うとお給金だけで赤字だ。うちの領地は人も少ないし、市場の規模も小さいのだ。
やっぱりジグソーパズルしかない、と私は思う。パズルと名のつくおもちゃは数あれど、私の知る世界ではジグソーパズルより成功したパズルはない。
そしてジグソーパズルを作るには都市に行くしかない。私は両親に相談する。
「ギアラッドに行きたいのか、うむ、せっかくだから芝居を見てきなさい。デルベルトホールの回転舞台は素晴らしいぞ」
「替えのドレスはたくさん持っていくのですよ。サロンではガスワインは控えるように。泡立っていて口当たりが軽いけれど、強いお酒だったりしますからね」
そして汽車代をぽんと出してくれた。私はジグソーパズルの共同事業者を探しに行くと説明したんだけど、あまり伝わってなかったらしい。
馬車から汽車へ、この世界はそれなりに技術が進んでるけど、どうも断片的に残る前世の記憶とは違ってる。汽車は鉄のレールではなく、地面にぎっしりと並んだ歯車の上を走るのだ。見た目に反して揺れないし、カーブも滑らかな乗り心地。
そして国内どころか大陸でも指折りの工業都市、歯車と炎の街、ギアラッドへ到着。
聞いていた通り霧が濃い。工場から出る微細な粒子が霧を呼ぶのだとか。それは雲の怪物のように、大通りをのっそりと歩くかに思える。
馬ではなく蒸気じかけの駆動馬に引かせた馬車。かちゃかちゃと旗あげゲームのように動く信号機。そして硬貨を入れると盛大に蒸気を拭き上げ、冷えた飲み物が出てくる自動販売機。どれもラインヴァルの領地にはなかった機械だ。
街のあちこちから響く歯車のきしみ、煙突から吹き上がる黄色い炎。青い航跡の雲を残しながら飛ぶ飛行船。
妙に違和感がある眺め、私の前世とは機械の仕組みが違うからだろう。
とりあえずホテルに荷物を置いてから、街で一番大きな工場に。
「たのもう!」
この呼びかけは絶対に間違ってたけど、まあ注目は浴びた。鎧の小手みたいにゴツい工作手袋をつけた工員が、のっそりと振り向く。
「……何だい、お嬢さん」
「ジグソーパズルを作りたいの! 私と共同で事業をやってくれない?」
ドレスを着た女に怒鳴られて、マッチョな工員たちは顔を見合わせる。
「いま忙しいから、また今度……」
「いや待て、事業の申し込みはすべて社長に回すようにと……」
「バカお前、こんな子供を紹介……」
何やらモメている。ちなみに私は16だ、この国の成人年齢は15なので、子供呼ばわりした工員を睨みつけてやる。
そのとき、男たちの向こうでざわめきが起こる。
「俺に用なのか」
樽のような頑健な男を押しのけて、背後からぬっと出てくるのは長身の男性。
燃えるような真紅の髪。
鋼のように黒く艶のある眼。
頬についたススを指で拭う、その一瞬の仕草に獣のような野性味がある。
その人物は工員が着るような木肌色のツナギを着ていた。十字形のスパナを腰のホルスターに収納する。
「カム坊ちゃん」
工員の一人がつぶやく瞬間、その背中をばしんと叩く。
「坊ちゃんじゃない、社長と呼べ。あと俺のコートを持ってこい」
「す、すんません」
坊ちゃん……ではなく社長はかなり背が高い、185を超えてるだろうか。手の指は節くれだってごつごつしており、故郷で雇っていた木工職人よりも無骨に見える。
ふわりと香る機械油と石炭の匂い、好奇心旺盛そうな大きな目玉と高い鼻。そして炎のような赤い髪。彼は私に近づく。
「何の用だ」
「ええと、あなたがここの社長?」
カム男爵。
名前は聞いたことがあった。貴族としては下位の家に生まれながらもその商才で名を馳せ、7つの工場と7つの鉱山、そして数えきれない関連企業を取り仕切る豪腕の人。どこかの公爵家令嬢と婚姻を結んでさらに事業を拡大しているとか。
その二つ名は歯車男爵。
カム=ギア男爵、その人だ。
「その通り、俺が社長を務めている」
「ジクソーパズルを売り出したいの、その開発を共同でやりたい」
「パズルか、単価はいくらだ」
いきなりそんな角度で聞かれたので、私は少し面くらいながら考える。
「ええと、ピンキリだけど一般的な千ピースなら2000から5000ギアールぐらい。上は数万ギアールぐらいのものも」
「他をあたれ」
と、そのとき先ほど指示を出していたコートが到着する。ギア男爵はそれを受け取り、ぶわりと大きく翻して、私にかける。
「え」
「石炭の粉が飛んでる。返さなくていいから着て帰れ」
と、きびすを返して工場の奥へと消える。
「ちょっと!」
「さあさあ、社長はお忙しいんだ、よそをあたってくれ」
屈強な工員が数人並んでその場に壁を作る。私がどこぞの貴族なのは察しているのか、けして乱暴をしようとはしない。しかしもう私の話は聞かないという構えは明らかだ。
その時。私の胸がかっと熱くなる。
例えるなら熱いおでんを飲み込んだときのような、内臓が焼ける感覚。
「……?」
これは何だろう。予想していた感情とは少し違う。
確かにあんなに簡単に追い払われて悔しかったけど、ちょっと無理があるとも思っていた。門前払いは覚悟の上だったはずだ。それなのに何故こんなに熱くなるのだろう。
「……そうか、これって」
厚手のコートはそれなりに重い、霧と煤煙に生きる男のコートだ。私はその襟をぎゅっと握る。こんな街をドレスでうろつく馬鹿な女と思われただろうか。だがそれもどうでもいいこと。
「あなたの悔しさなのね、カルコ」
おそらく、この熱はカルコという少女の感情。
この体は私のものでもあるし、カルコのものでもある。人格は混ざっている。私というピースとカルコのピース。2つが噛み合って、一つの人格になっているのだ。そして今、カルコの部分が激しく燃えている。
考えてみれば当然のこと。ラインヴァル家はもう崖っぷちなのだ。
私は自分のためにジグソーパズルが欲しいし、できればこの世界にも広まって欲しい。
だが、カルコにとっては家の存亡をかけた訴えであったはず、それを簡単にあしらわれたことに怒っているのか。
「あなたたち」
私は並んだ工員に呼びかける。
「な、なんだい」
「歯車男爵にもう一度だけ話を聞いてもらいたい。あんな一言二言のやりとりでは納得できない。改めて面会を申し込ませて」
「……それなら事務所の方に回って約束を取り付けてくれるか。社長は忙しいから、正式に話をするとなると何ヶ月も先になるかも……」
「いいえ! 今! 聞いてほしい!」
私はがん、と鉄板の貼ってある床を踏み鳴らして進む。工員はやや気圧される。
「お、お嬢ちゃん、乱暴はしたくねえんだ、手を出させないでくれ」
「一度は質問しておきながらあの態度! ふざけてる! ジグソーパズルは簡単に切り捨てていいものじゃないの!」
そう、私は小娘だ。
前世の記憶があるとはいえ、ひどく断片的。いえ、たとえ前世でどんな人生を生きていても、とても本物の貴族さまと渡り合えるはずがない。
だから、足りない分は気合いで埋める!
私は怒りの顔を憑依させつつ歩を進める。工場内はざわつき、何人もの工員が集まってくる気配。大型のクレーンの前にいたカム社長はぎょっとして振り向く。
「カム社長! もう一度話を聞きなさい!」
社長はその体躯で少しあとじさり、それが妙におかしくて皮肉っぽい笑いが出てしまう。
「お、お前……」
「お前ではありません! 私の名はキャルコット・ラインヴァル! カルコと呼びなさい!」
そして大型クレーンの基部に背中をつけた男爵を見て、すばやく真横にあった木の椅子を引き抜き、それに飛び乗って壁に張り手を打つ。
「ジグソーパズルの話を聞きなさい!」
「……う」
動揺はしかし一瞬だった。さすがは怪物とも恐れられる男爵。すぐに瞳の揺れを抑え、ぎりっと奥歯を噛んで体を前に出す。鼻が触れそうだったので椅子から後ろに降りる。
「……ジグソーパズルが何なのか知らんが、それをくさす訳じゃない。俺の工場で扱うには単価が安すぎる。俺は七つの工場を仕切っているが、どれも船や大型重機を扱う工場だぞ」
なるほど、確かに巨大ロボでも開発できそうな工場だ。天井もすさまじく高い。歯車を駆使した見たこともない機械が並ぶ。あちこちの大型の釜が蒸気を吹いている。
私はそれをちらと見て、ほとんど真下から男爵の顔を見上げる。
「大は小を兼ねる! 私が必要としてるのは十分な設備と熟練の人材! ジグソーパズル260年の歴史を数年で走り抜く! それにはこの国で最高の工場じゃないとダメなの!」
「? わ、わけのわからんことを……一体そのパズルの何がそんなに特別なんだ」
「ジグソーパズルの魅力はそれこそ語りきれない。ある人はくだらないとか時間の無駄とか言う。でも私はその魅力を表せる言葉を知ってる! それは」
ごくり、と誰かが息を呑む。
工場内から槌音が消えていた。誰もがこちらを見ている。
私はその全員に呼びかけるように、高らかに言った。
「作ってみればわかる!」
カム社長は目をまんまるにして、何度かまばたきをする。呼吸を落ち着けると、私の腕をそっと押しのけた。
そして私を見る。なんて綺麗な黒の瞳だろうか。黒曜石のようだ。
品定めをされているのか、私は緊張のためか体が熱くなるのを感じる。負けじと睨み返す。
「わかった……話を聞こう」
ざわざわ、と周りの工員たちから意外そうな声。どうやら普段のカム社長では起こり得ないことが起きたようだ。
「その説明にどのぐらいかかる」
「一時間ください」
「……これから新造船の進水式に出る。経営会議もあるし、本当に時間がないんだ。一時間ほど体が空くのは七日後……」
カム社長は私をちらと見て、そして周囲を見て。
なぜかわざとらしい咳払いをしてから手をひらひらと振る。周りの男たちがざわつきながら遠ざかっていった。
「わかった……食事をしながらでいいか」
「え、食事というと」
自宅に招かれた。
家全体がほんのりと温かい熱気配管。異様に明るいガス灯。使用人は多く調度は目もくらむよう。
私はやや緊張しつつ紅茶をかき混ぜる。体温に反応して先端が回転するスプーンだ。これほど細緻な細工物になると芸術品としての価値が出てくる。
ギアラッド中央市街にある庭付きの邸宅。敷地の五分の四が森になっており、よく茂った広葉樹が煤煙を遠ざけている。かなり機械の手が加えられているが、元は古風で瀟洒な邸宅だったことがわかる。新進気鋭であるカム=ギア男爵とはだいぶイメージが違うような。
「あ、そうか、社長、確かご結婚されてるとか」
見たこともないほど上等な肉を切りつつ尋ねる。
「社長は会社と工場の中だけだ。屋敷ではカム、または男爵と呼べ」
「はあ」
めんどくさいなあと思いつつ話を続ける。
「男爵様、奥様は同席されないのですか」
「不在だ。どうせサロンに出ている。妻とはこのところ少し距離があるのだ。もともとあいつは工業に理解を示さない、骨の髄まで社交界に染まった女だからな」
「……」
広いテーブルには私と男爵だけ。使用人も部屋の外に出ている。奥様のことなど初対面でするには踏み込みすぎた話な気もしたが、そこは掘り下げている場合ではない。
私はジグゾーパズルについてつらつらと話をする。成り立ちについてはこの世界の話ではないので省略したが、その概要、組み立て方、バリエーション、素材や画題など。
「技術も知識も必要ない、必要なのは少しの根気、それがジグソーパズル、この世で最も楽しいパズルです!」
「ふむ……組み立てるパズルというだけでなく、飾りものとしても価値がある、か」
「そうです。作ってるときも楽しみが色々あるんです」
端っこのピースを選り分ける作業。一つのピースをじっと見つめてどこの部分か推理してる時間。ピースがさっくりとハマったときの快感。青一色の空の部分を総当り的に埋めていく辛さも。
あるいは買う時もだ。専門店を何件も回って物色する日々。家のどこに飾ろうかと考えている時間。2000ピースの箱を持ったときの異様な重さ。あのとき買い逃したジグソーに何年か越しで出会えた感動……。
「……まだ世界にないパズルだろう? そんなことまで考えているのか」
「あ、ええと……子供の頃からこのパズルのことだけを夢想していたもので」
「ふむ、なるほど」
「素晴らしいと思いませんか。広い店内を埋め尽くすジグソーの箱。世界に名だたる名画も、一生行くことのない絶景も手に入るんです」
「飾るなら写真や絵画でよかろう……印刷技術もこのところ進んでいることだし」
「いいえ! ジグソーで組み上げた絵は特別なんです! 大きいものでは一ヶ月近く向き合うんですよ! 完成したときの愛着はひとしおです!」
カム社長はワインをあおり、私の目を見据える。
「……名はカルコ……正しくはキャルコットだったか、地方貴族の出か」
「はい、ラインヴァル家の娘でございます。かなり辺鄙な土地なのでご存じないかもしれませんが」
「その事業に予算を組もう。工場に出入りできるように、正式に社員として雇う。お前が事業にふさわしい人材を集めるのだ」
「えっ」
「しばらくギアラッドに滞在することになるな。住むところがないなら客間を貸そう。使っていない部屋がたくさんある。それでいいか」
「だ、大丈夫です、これ以上ないほどの厚遇です」
私は両親に手紙を書き、滞在の許諾を得る。かくしてギアラッドでの事業が始まった。
私はギアラッドの中央、社長の邸宅から出勤する。どれだけ早い出勤でも社長はいつもそれより早い。
私はまず印刷、製紙、金型の職人を集めて工場にラインを作った。
ジグソーパズルは土台となる厚紙に印刷紙を貼り付けて作られる。厚紙は1.9ミリ、表面の印刷紙は0.1ミリ、どのメーカーでもあまり変わらない。
同時に写真班も組織する。オリジナルのイラストでもいいのだが、やはり最初は風景、そして名画だろう。
私は汽車であちこち移動して、王城フライスウィール、リベット峡谷、ニッパ湖などを撮影して回る。博物館の名画などもマグネシウムを炊いて撮影。歯車男爵の名前を出すとどこでもすぐ許可が下りた。
そして金型の作成。ジグソーはカッターを使って厚紙を切断して作る。このカッターを金型と呼ぶ。縦のラインと横のラインで二種類が必要だ。さすが熟練工というべきか、私の何となくな説明できっちりと金型を仕上げてきた。
私が見学したことのある工場では、ベルトコンベアに乗せられた台紙がまず進行方向に対して平行に切断され、次に直角に切断される。直角方向が先だと、ベルトコンベアの振動で少しずれてしまうのだ。
最初から升目状に組まれた刃を使うことはできない。十字になった部分で紙が潰れやすいからだ。
しかし理想を言うなら、台紙はいっさい動くことなく、カッターのほうが動いて縦と横の切れ目を入れるほうが精度が高まるだろう。職人たちは見事にその仕組みを作り上げた。台紙が一辺1メートルほどの鉄塊に乗せられ、上空をカッターが移動して切り付けていく。しかも動力はハンドルと蒸気、仕組みは歯車である。この世界の技術力に驚かされる。
さてそんな日々の中、意外だったのはカム社長が何度か顔を出したことだ。
「なぜこんなに複雑な形状なんだ?」
「簡単にばらけないようにです。精度の高いジグソーは、隅っこの一枚を持って全体を持ち上げられるんです。飾るときにはこの精度が必要なんです」
「ふむ、歯車のようで親しみが沸くな……待てよ、この形状なら全てのピースを異なる形にできるんじゃないか。膨らんだ部分の大きさや、隣のピースと接する部分の角度などで……」
「そうです! ジグソーパズルは違う場所にハマることは……たまにしかないんです!」
またある時は。
「絵を立ててしまうとピースが剥がれてこないか」
「そのために糊で固めるんです。いま具合のいい糊を探してて……」
「なるほど、そうなると厚紙の方にも耐水性が必要だな……いや、そうか、出荷の際は乾燥して縮んでいて、組み立てる最中に空気中の水分を吸って膨らむことで……」
社長はさすがと言うべきか、私が説明するより早く要点を掴んでくる。
社長は誰よりも忙しそうだった。いつも数人の男を引き連れて工場を歩き回り、機械の様子を見たり指示を飛ばしたりしている。数千個の歯車で組まれた工作機械の不調を見抜き、勝手に手順を省略している工員を見つけ出す。社長は私が工場に出勤するとすでにいて、私がどれだけ遅くなってもそれより遅く帰宅した。
試作品ができた。しかしまだカッターの精度が甘いのか、切断した際にいくつかピースが潰れてしまった。表面の薄紙も剥がれている、改良を重ねないといけない。
そんなある日のこと。
「まあ、誰なのお前は」
カム社長の奥様に出会ったのはその頃だった。食堂のテーブルに広げていたのはいくつかの図案。写真をルーペでよく見て、変なものが写ってないか確認していたのだ。
奥様は城のように重厚なロングドレス。つぶ貝のように髪を高く結い上げて、宝石で飾られた手袋で口元を隠している。
私は右目のルーペを外して深々と礼をする。
「カルコと申します。カム社長に事業のことでご助力を頂いており」
「事業? 事業ですって? あいつはまた私に黙って何か始めてるのね」
「姉さん、落ち着きなよ」
後ろから出てくるのは、もっさりとあごひげを生やした大男。背丈はカム社長とほぼ同じだが、こちらはとにかく筋肉の塊、しかも古傷が無数にあり、歴戦の兵士という風情。しかし熊のような毛深さのせいで、ぱっと見たときは山賊とかに思えてしまう。
「お嬢さん、なぜこの家に?」
物腰はそれなりに穏やかだった。私は正対して答える。
「ええと、少し前から社長に雇っていただいておりまして、この屋敷にお部屋も世話していただいて……」
「ち、なんだ社員か」
露骨な舌打ち。前言撤回、私が何者か分かるまで慇懃にしていただけか。
「ふざけた男だ。俺に断りもなく人を雇う。部屋を与える。この家の財産は自分のものだと言いたげじゃないか、なあ」
同意を求めてるのか何なのか、のしかかるように声を投げる。私は何も言わない。
そこで思い出した。カム男爵の奥様には弟がいて、名前はたしかレンチ。社員として名を連ねてるはずだが、どの工場でも見たことはない。
「まあいいさ、どうせあいつに家は渡さん。せいぜい肥え太るがいい」
レンチ様はそう言って、私の見ていた図案にバンと手を置き、ぐしゃりと握りつぶす。
「あ」
「あの赤髪に伝えとけ。俺をオッカムの金鉱山の役員にしろってな」
そして部屋を出ていく。奥様の方も私に露骨な顔を向ける。なるほどこれが汚いものを見る目か、一発で理解できた。
「ああ嫌だ。この家は我がシュトラウフ家代々の邸宅ですのよ。そこに商売っ気を持ち込むなど汚らわしいこと。歯車のきしみですら聞きたくないのに」
奥様は私から何か臭うとでも言いたげに、顔を背けて立ち去ってしまう。
そう、シュトラウフ公爵令嬢。押しも押されもせぬこの国で最高の家格の一つ。二桁ながら王位継承権の序列まで持つ名家だ。
その夫である男爵はええと、王位継承権14位とかになるのだ。
「帰っていたか」
入れ替わりに現れるのはカム男爵。彼はコートを侍従に預けると、私の広げていた図案を見る。
「なぜ皺が寄っているんだ?」
「ちょっとしたトラブルです」
なぜ公爵令嬢である夫人がカム男爵と結婚したのか?
語れば長い話らしいが、つまりは経済的事情である。
シュトラウフ家は近代化していく時代についていけなかった。むしろ投資で多数の失敗を出し、没落しかけていたのだ。
だがそこは公爵家というべきか、広大な領地に多数の鉱山を持っていた。その採掘権をカム男爵が莫大な額で買ったのだ。
だが鉱山とは領地そのもの。複雑ないざこざがあって、カム男爵がシュトラウフ家に婿入りすることで手を打ったらしい。巷では経済結婚だとか領地の売買だとか色々言われている。
しかしカム社長は下級の爵位である男爵のままなので、シュトラウフ家から冷遇されているのは明らかだった。複雑な力関係のある家なのだ。
フリンジ=ギア=シュトラウフ夫人と、その弟レンチ=シュトラウフ。
街の噂で聞いている、この二人が男爵の悩みの種なのだと。
「先ほど、奥様がおられましたよ、弟様も」
「そうか」
「ええと、弟様のほうが、俺をオッカムの金鉱山の役員にしろとか」
「そうか、わかった」
淡白な受け答えだ。あまり二人のことを考えたくないというのがにじみ出ている。
だが抑えきれるものでもないらしい、ごく短いため息が漏れた。私はそのタイミングで話しかける。
「何か心配なことでも」
「先月、印刷会社がひとつ買収された。その前は穀物加工会社が潰れた。あの二人の放漫経営のためだ」
心のなかに堰き止めてたものがあったのか、語りだすと言葉が湧き出てくる。いかに無茶な経営をしていたか、社員に苛烈に当たっていたか、などの話だ。
「俺が作り上げてきた企業は多い。それがシュトラウフ家の鉱山、農地、牧畜などの一次産業と結びついている。俺はすべての会社を一つに連動させ、大きな産業構造を作りたいと思っているんだ」
カム社長はポケットからリベットを出してテーブルに並べる。できる男はいつもリベットを携帯してるのだろう。
「材料の調達から製造、運送に販売まですべて完結する企業体だ。その経営理念も画一的にならない程度に共有させておきたい。一部の会社とはいえ勝手にされては困るのだ」
小麦に見立てたリベットが加工会社に回され、船に見立てたリベットがそれを運ぶ。加工会社の機械も社長の会社が作り、販売まで手掛ける。小麦は最初から最後までカム社長の支配する世界で動いていくわけだ。
「なるほど」
なるほどとしか言えない。私のような小娘には大きすぎる話だ。
「だが、あの二人はどこに移動させてもろくなことにならない……」
「……」
どくん、と、胸が高鳴る。
その変化に私は戸惑う。なに? 今そんな興奮する要素あった?
これはカルコの本来の感覚だろうか。もしかして今、何か気づいたの?
男爵には少し憂いが見える。今日も工場でたっぷりと仕事を片付けてきたのだろう。彼はいつも精力的であり、同時にいつも疲れて見える。
なるほど、いま彼は弱っている。
ジグソーパズルに割いてもらっている予算はまだまだ少なく、工場内に家庭内手工業を組んでるような状況だ。
本来はジグソーパズル専門の工場をどーんと建ててもらいたい。
そのために今がチャンスということか。
今、私をより一層売り込むチャンスと、そういうことなのねカルコ。
「カム男爵」
私が親しみの響きを込めて呼んだからか、彼は意外そうな顔でこちらを向く。
「どうした」
「カム男爵は15パズルというものをご存知ですか? スライドパズルとも言いますが」
「15パズル? いや、聞いたことはないな……」
そうだろう、私が認識できるこの世界の知識にもない。どうもこの世界はパズル全般の進化が遅れてるようだ。
「ぜひお目にかけたいんです。作ってきますね」
「う、うむ……」
その翌日。
私は工場の中でも木工が得意な職人に声をかけ、やや大きめ、縦横60センチほどのサイズでそれを製作する。ささくれが刺さらないよう私が紙やすりをかけて、塗装もきっちり三度塗りである。
そして完成。それは牧場を見下ろした図だ。
枠組みの中に1から15までの数字が描かれたパネル。外縁部は森とか家とかも描かれている。パネルはよく見れば羊が並んで数字の形になっている。
そしてまた公邸にて、夕食を終えた男爵にそれを見せる。
「これが……15パズルか?」
「そうです」
私は左下、羊のいないパネルを取り外す。全体が60センチ四方であり、パネル一枚の大きさは10センチ四方ある。つまり外縁部はパネルとほぼ同じ太さがある。
私は猫を撫でるように丁寧にパネルを動かす。
「これを元通りに並べられますか?」
「ふむ」
男爵は少し考え、そして手早くパネルを動かしていく。
無骨な指ながら確実な動き、目まぐるしくパネルが動いて、まず1234の上一列が埋まる。セオリー通りだ、さすが社長。
そしてほとんど引っかかることもなくパズルが完成、一分弱というところか。
「簡単すぎるな、パズルというより作業に近い。最小手数を求めよと言われれば大変だが」
男爵はまず端から揃えていくという方針だけ決めて、迷いなくガンガン動かしていく。やはりそういうタイプだ。ジグソーパズルにも向いてるタイプ。
「では男爵、少し後ろを向いててください」
「? いいだろう」
後ろを向く。うなじの生え際が炎が燃え上がるかのようだ。私はパネルを並べ替える。
「さ、もういいですよ、また組んでみてください」
男爵は振り向く。見たところは先ほどと同じ、バラバラになっただけのパネルである。
「……何が違うんだ?」
「いいからいいから」
男爵はけげんな顔でまた手を動かす。
そして、最後の数枚というところで。
「……なぜだ? 組み上がらない」
男爵は一度周囲のパネルを組み替えてみたり、大きく迂回させるようにスライドさせたり、一度完全にバラバラにして仕切り直そうとしたりしてみた、だがいずれも失敗。
「どういうことだ……?」
「男爵様、こういうものを想像してみてください、全体がチェックに塗り分けられたボードゲームです」
この世界にチェスはないが、チェスだと分かりやすいだろう。あるいは将棋盤をチェックに塗り分けてもいい。
「ある駒は斜めにだけ動けます。その駒を黒のマスから動かし始めて、白のマスへ移動させることはできますか?」
「それは……それはできない。どう動かしても必ず黒のマスにしかたどり着けない」
これは盤面を大きくしたり、長方形にしてみても変わらない。
私はにっこりと笑って言った。
「偶奇性というものです」
「偶奇性?」
「そうです。斜めに動ける駒というのはひとマスだけ移動したように見えても、実は横に一つ、縦に一つ動いています。どのように移動しても、実は2の倍数だけ動いているんです」
「……なるほど、確かにそうだ」
「このパズルも同じです。例えばここ、7のパネルの横が空白になっています、ここで7を横にスライドさせると何が起きますか?」
「……! そうか、わかったぞ! 7を動かすと同時に空白のパネルも動いている! このパズルは、一手で必ずニ枚のパネルが動いているとも言えるのだ!」
びっくりするほど理解が早い、さすが男爵。私なんかこれ理解するのに一日かかったのに。
「この15パズル、実は偶数の状態と奇数の状態が存在します。偶数の状態では、何をどう動かしても決して奇数の状態にならないんです」
もしこのパズルを売っているのを見かけたら、袋の注意書きを読んでみるといいだろう。こう書いてあるはずだ。「パネルを台座から取り外してバラバラにした場合、完成させられない場合があります」と。
「……ということは、これは最初から完成不可能なのか」
「いいえ!」
完成させられないパズルほど退屈なものはない。男爵の貴重な時間をそんなイタズラには使えない。
私はパズルの外枠を撫でる。そこに描かれた一軒の家。おそらく牧童が住まうささやかな家。
そして気づいただろうか。このパズル、1のパネルだけがほんの少し薄くなっていることを。
私はパネルを動かし、その1のパネルを家に、すっと収める。
「なっ!?」
セオリーどおり上の列から組んでいては見つけられない。なにせこの隙間に入れられるのは薄い1のパネルだけなのだ。
パネルが二枚消えた場合、偶奇性を変えることができる。実際にはパズルが解ける状態になってるか見極めてから戻すので少し難しいが、私はてきぱきとパネルをスライドさせ、見事に羊たちを並べ終えた。
「というわけです」
「なるほど……」
男爵は何やらじっと考えている。私は男爵もたまには家でゆっくり休んでほしい、みたいなメッセージを込めてみたのだが、伝わっただろうか。
「2つのパネル……。なるほど、妻とレンチだな。小手先であの二人を動かしても解決に至らない。もっと大枠で手を打つべき、そう言いたいのか」
間。
「ええと、ええ、そうです」
「確かにその通りだ。俺は会社同士の繋がりを乱したくないがために、影響の小さい会社ばかりあてがっていた。だがそれではダメだな、もっと大きな変化を……」
何やら納得してしまっている、まあ上手く行ったならいいか。
その翌日。工場を建てろと言われた。
「工場ですか!?」
「なんだ、それが願いだったのではないのか」
男爵、いや工場にいるから社長か。彼はノリのきいたシャツを着こなして言う。
「すべてをグループに収めようとしてたのが間違っていた。連動といえば優れたことに聞こえるが、そのために思い切った手が打てない状態だったのだ。お前の工場は俺の個人資産から融資を行い、シュトラウフ家とも切り離された存在になる。同じようにあの二人にも会社を新たに興させる。グループとの繋がりは持つが、毒されぬ程度にな」
社長はにやりと笑い、そしてとんとんを机を指で弾く。
「それよりジグソーパズルの完成品はいつできる」
「あ、はい、金型と台紙の改良も終わってるので、試作品なら今日にでも」
「よし、持って来い、今日は会食で遅くなるが、深夜でも構わん」
何やら夢の中のようである。すべてが一日二日の間で目まぐるしく動き、私は工場を持てるようになった。
何だか足取りが軽い、私だけでなくカルコも喜んでいるのだろうか。私は夜半、そっと部屋を出て男爵の書斎へ。
「来たか」
男爵はゆったりとした部屋着である。書き物をしていた手を止めて私を見る。
そして私はパズルを見せた。王道は千ピースだが、男爵は初心者だし150ピースがいいだろう。
「何だこれは、うちの工場か?」
最初の図案をどうしようか、ずいぶん悩んだ。定番なら城だし、山とか花とか猫も悪くない。ジグソーの歴史に名を残す大ヒット、「恋人たちのパリ」のようなカップルの写真も捨てがたい。
だが、私はこの工場にした。この世界に工場萌えがあるのか知らないが、大きくて立派な工場は絵になった。それに男爵と最初に出会った場所だし。
「まず外枠をより分けて、次に同じ色のピースを集めていくんです」
「ふむ、まあどう組んでもいいのだろう?」
男爵は私の助言を無視して、手に取ったピースをそれっぽい場所にどんどん置いていく。やや酸化して赤くなった鉄材、造船用の大型クレーン、私が置いた鉢植え。なんというスピードだろうか、まったく可愛げがない。
だが私は胸が熱くなるのを感じた。これはたぶん達成感だ。カルコもようやくここまで来たと喜んでるのだろう。
「ふむ……面白いといえば面白いが……これをずっと続ける感じか?」
「そんなドカンと面白いものじゃありませんよ」
それに、と私は指を立てて言う。
「ジグソーパズルを必要とする人には2種類います。一つは暇を持て余してる人。もう一つは毎日忙しくて、気の休まる暇もない人です」
「……ほう」
実際、欧米では高給取りのビジネスマンなどにも愛好家は多い。
ジグソーパズルの刺激は、言ってみれば人間にとって丁度いい強さ。弱すぎず強すぎず、退屈な人には興奮を、忙しい人には安寧を与えてくれる。
「なるほど、そうか、わかるぞ」
「あ、男爵、そのピースはですね、形状に工夫を」
指摘しようと乗り出した瞬間。ぐいと頭を抱かれる。
「え」
「すまなかった」
すごい強さ、しかも何だろう、心臓が全速力で動き出した。どういうこと?
「心配をかけていたな。お前はずっと、俺のことを思っていてくれたのだな。こうしてジグソーパズルを前にして、それがよくわかった」
「……ありがとう、ございます」
あれ、なんか口が勝手に動いた。
ほとんど無意識に出てきた言葉だ。今のってもしかして、カルコの言葉?
え、ちょっと待って。男爵の腕ってカチカチ。万力みたいな力が出てる。ぐいぐい引き込まれる。抵抗しようにも体に力が入らない。
え、あれ。もしかして。
……今までのもそうなの?
そういえば何かおかしかった。カム男爵に関わる場面で、意味不明に体が熱くなったり、鼓動が早まる場面があった。
そうだ! それは最初、社長にあのコートをかけてもらった時から!
ちょっと待ってカルコそれはヤバいって! ほとんど愛情なさそうだったけどシュトラウフ夫人と結婚されてるのよ! 私は田舎貴族だし! まだ小娘だし!
そして熱い繋がりが。
私は脳が煮えそうになる。何も考えられなくなる。今この時間、屋敷にご夫人がいるのかどうかも気にならなくなる。指先にまで熱い血がみなぎるような高揚が。
そうだ、おかしいと思うべきだった。
なぜ私は試作品の図案を工場にした?
なぜ弱っていた社長を見て15パズルを用意した?
そうだ、没落した田舎貴族とはいえ、私は成人したばかりの娘。
なぜこの邸宅に住むことを受け入れたのか。
そして男爵もだ! なぜ男爵は私をこの家に! そしてジグソーパズルに協力を!
……。
ええい! どうにでもなれ!
どうせ私は前世の記憶。人生の主導権はカルコにある。
それに、男爵のこのたくましい腕、厚い胸板。理知的ながらも野性味を秘めた眼には、私の人生など一飲みにするほどの力がある。
これから何が起きるのだろう。
私はたぶん仕事に明け暮れるようになって。
男爵はご夫人とその弟君の問題に立ち向かって。
田舎貴族のカルコはきっと大変な泥沼に迷い込んで、それでもきっと幸せで。
そして世界には、ジグソーパズルが与えられる。
……それなら、まあいいか。
今はただ、流れに身を任せよう。
近代化していくこの世界に、あるいはカルコという肉体が持っていた情熱に。
そして私というパズルを解こうとする、男爵の熱い指先に……。
(完)