episode.06
「………という事があったんです」
「ははは。それは災難だったね」
放課後の図書室は人影もまばらだ。借りていた本を返しに来たルーラに用もないはずのフィリオが着いてきたので、ついでに昨日の話しをしたのだが、あまりに呑気な反応が返ってきたのでムッとする。
「笑い事じゃありませんよ」
「でも、上手く切り抜けられたんだからいいじゃない」
「おかげで私はシャイな性格だと誤解されたままですが」
不満を隠す素振りも無い様子にフィリオはつい、クスクスと笑みをこぼした。
「………何ですか」
「いいや?」
「……………」
未だ笑いを堪えきれていないフィリオが絶対何かを隠しているのは明白だが言うつもりがないのも何となく分かるので問い詰めるだけ無駄だ。
それに、ルーラが言いたい本題はここからだ。
「今回のような事がそう何度も起こっていては困ります」
「それはもちろん、僕も同感だよ」
「カモフラージュの為の対策を講じる必要があると思うのです」
「………例えば?」
このフィリオ・ランベルトという男は時々、妙に強気で挑発的な表情を浮かべる。ルーラがこの後どんな事を言うのか、どんな反応を見せるのか楽しんでいるのだろう。
これまでの自分の行いに非は無いという自信も相まっている気がする。確かに、今回疑われたのはルーラの態度のせいではあるけれど………。
だが、ルーラも負けじとフィリオを見上げる。
「有効な手立てはやはり軽いスキンシップでは無いかと。あなたは嫌かもしれませんが」
「僕が?どうして?」
「…………そういう事はもうしないと言われたばかりですので」
強気でいるつもりが、つい視線を逸らしてしまった。
フィリオにはつい先日、キス(未遂)の謝罪と共にもうしないと言われたばかりだ。突然キス(未遂)をしたのには事情があると言っていたが詳しい事は聞いていない。
本当に好きでは無い人とそう言う事をするという事に嫌悪感を抱いたのかもしれないし、誰かに見られる事を嫌ったのかもしれない。
「軽いスキンシップって、どこまで?」
「手を繋いだり、ハグをしたり……その程度です」
だが、ルーラが今提案している事と言うのは、少なからず誰かに見られなければ意味を成さない。あえて見せつけるとまではいかないが、見られる事を前提としている。
「嫌でしたら他の方法も模索して――」
「いいよ」
「えっ…?」
自分で言っておいてなんだが、あっさり了承されると驚く。
「よろしいのですか?」
「いいよ。っていうかそんなに驚く事?」
「嫌がると思っていたので」
「ハグぐらいなら大丈夫かな」
元々何を考えているのか分かりにくい人ではあるが、フィリオの考えがますます分からなくなる。スキンシップが嫌という事では無いという事なのだろうか。
「……あの、無理にとは言いませんよ?」
「それは僕のセリフでもあるけど?」
「わ、私は、キスも必要であれば構わないと……」
トン、とフィリオの立てた人差し指がルーラの唇に当てられて言葉を遮る。
「それはダメ」
「……………」
本当に、何を考えているのか分からない人だ。
フィリオの真剣な表情に耐えられなくなったルーラは咳払いをしならが一歩身を引く。同時にフィリオも屈めていた体をスッと元に戻した。
「………では、そう言うことで」
「ちょっと待って」
逃げるように半ば強引に話を終わらせようとしたルーラだったが、フィリオはそれを許してはくれなかった。
「まだ何か?」
「僕に良い考えがあるんだ。週末、付き合ってくれない?」
「……?構いませんが何をするんですか?」
「まあちょっとね。外出許可取っといてくれる?」
全寮制のこの学園では、学園の門の外へ出る際には外出許可を取る必要がある。担任教師の他に2人の教師からの許可を得られなければ外出は許されない。日頃の行いの良し悪しがこう言ったところで影響するのだが、生徒会ともなれば外出許可を取るのは簡単とも言える。
そして、外出許可を取ると言うことはつまり、どこかへ出かけると言うことだ。
「どちらへ?」
「それはナイショ。楽しみにしていて」
フィリオが何を企んでいるのかはちっとも分からないが、悪いようにはならないだろうと思うぐらいの信頼はある。
モヤモヤと気にしてしまう気持ちもあるが、得意げにフィリオが笑う時は教える気がない時なので致し方ない。
「分かりました」
ルーラが手短に返事をして生徒会室に戻るために歩みを進めると、その可憐さに男子生徒は上気し、隣にいるフィリオが「楽しみだね」と満足げに微笑むとそれを見ていた女子生徒は歓声を上げていた。




