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クリミア学園生徒会の恋愛事情  作者: 黒猫とと
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episode.02



学園を代表する2人の交際の噂は瞬く間に学園全体に広まった。恐らく浮かれた学園長が裏で根回しをしたに違いない。


何らかの方法で周囲に認知させなければと思っていたが、その必要が無くなったのは利点だった。だが、信憑性に欠ける"噂話"として広まってしまったが故の欠点もある。


「あの…ルーラさん…!!」


昼休みに友人のメアリーと中庭で昼食を食べていると、モジモジと僅かに頬を赤らめた数人の女子生徒に声をかけられ、ルーラは食事の手を止めた。胸のバッチの色を見ると下級生のようだ。


なぜ声をかけられたのか、なにを聞かれるのか、大体の予想はついている。もう何度目かも分からないが、生徒会として無碍にも出来ず作り笑いを浮かべる。


「何でしょう?」

「あの…フィリオ副会長と交際を始めたのは本当なのですか?」

「ええ。本当ですよ」


ルーラが穏やかな口調で答えると、聞いてきた当人たちはキャッキャと騒ぎ立てる。近くで聞き耳を立てていた数人の男子生徒が落胆している事にルーラは気づきもしなかったが、この様子だと誰も偽装恋愛だとは微塵も思っていないようで安堵する。


聞きたい事は聞けただろうからこれで終わりだろうと小さく息を吐いたルーラだったが、彼女達は興奮を隠す事なく更に続けた。


「あ、あの!告白はどちらからされたのですか?」

「やだわ、サラったら!フィリオ副会長からに決まってるじゃない!」

「どんなお言葉だったのか、教えていただけませんか?」

「私たち、お二人がお付き合いされたら良いのにってずっと思ってたんです!」


目を輝かせながら矢継ぎ早に質問してくる彼女達に、ルーラの表情がほんの僅かに引き攣る。


当然、告白なんてものはされていない。適当に繕う事も出来なくはないが、万が一フィリオの言い分と矛盾や食い違いがあれば関係を疑われてしまう。


安易に答えるのは得策では無い。


「そう…ですね………」


ルーラが言い淀むと、これまで隣で静観していたメアリーがため息混じりにサンドイッチを膝に置いた。


「ちょっとあなた達!今、食事中だって見て分からないの?そんなに気になるならフィリオ・ランベルトに直接聞いたらいいじゃない!」


正義感の強いメアリーの言葉に、彼女たちはハッとしたような表情だったり、遠慮する素振りを見せた。上級生に指摘された事に恐縮した様子も伺えた。


「す、すみません、ルーラさん!私たち、随分舞い上がってしまって…」

「いえ、構いませんよ。それ程関心を持っていただけるのは光栄です。後でまたゆっくりお話ししましょう」


後で、が今後実現するか否かは置いておいて、にっこりと微笑みを浮かべると、彼女達にも笑みが戻り、そそくさと退散していく。


「ありがとうメアリー」

「良いのよ。でも、ルーラもきちんと断るべきだわ!何でも受け入れていたらキリがないんだから!」

「…そうね。気をつけてみるわ」


これほど親身になってくれるメアリーにも本当の事は言えていない。隠し事をしている罪悪感から視線を落とす。


「どうしたの?具合が良くないの?」

「…え?」

「大変、顔色が悪いわ。今日はずっとこんな調子だったし、いくらなんでも疲れたわよね。医務室で休んだ方がいいわ」


無邪気な割に世話焼きで心配性で可愛らしい親友。彼女に恋心を抱く男子は多い。


メアリーの慌てた様子にルーラは思わず笑みをこぼした。正直、今日は朝からあまり調子が良くなかったが平然を装っていた。しかし、メアリーには隠しきれなかったらしい。


「やっぱり、メアリーには敵わないわね」

「何言ってるの。ほら、立てる?付き添うから」


それはちょっと大袈裟だと思いながらもメアリーの手を借りて立ち上がる。しかしそれは大袈裟ではなかったようで、立ち上がると血の気が引いてフラっと目が回った。


「ルーラっ!?」


小柄なメアリーだけでは幾らなんでも支えきれない。身体の力が抜けて地面に倒れ込むのを覚悟したのだが、その痛みは襲ってこず、誰かに抱えられて難を逃れた。


「大丈夫?」


地面とルーラの間に入ってルーラを軽々と支えたのは、突然現れたフィリオだった。メアリーは、フィリオと一緒に居たらしい同級生のギルバートに肩を支えられながら立ち尽くしている。


ふと、フィリオが囁く。


「合わせてね」


その言葉だけで、ここから演技の始まりだという事をルーラは理解した。


「大丈夫?」

「…ええ、ごめんなさい。少しふらついてしまって…」

「無理しすぎだよ。ほら、掴まって」

「へっ?わっ…!?」


気づいた時には、ルーラの体はすでに宙に浮いていた。


混乱している間にキャアキャアと歓喜の声が聞こえてきて、余計に頭がクラクラする。


「だ、大丈夫ですから!降ろしてください!!」

「そんな青い顔で言われてもね」

「それはあなたがこんな事するからで……」

「良いから掴まってて。()()()()これぐらい普通でしょ?」

「っ…!」


ニヤリと口元に笑みを浮かべながら得意げに見下ろしてくるフィリオに言葉が詰まる。全ては恋人らしく見せる為の演出という事のようで、そう言われるとルーラは弱い。


ルーラが口を噤むとフィリオはふんっと鼻で軽く笑って、ルーラを抱き抱える腕に再度力を込めた。





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