episode.12
生徒会室と繋がっているバルコニーには、今日も学園一憧れのカップルと謳われる2人の姿がある。
仕事の合間に外の空気を吸うのは良い気分転換になる。隣にフィリオがいる事は、未だに少し緊張するのだが…。
「そう言えば、また学年一位は君だったね。そろそろ僕に譲ってくれても良いと思うんだけど」
「でも、剣術のテストはフィリオさんが一番だったと聞きましたし、座学も今回は四位ですから悪いとは思えません」
「………彼女より成績が悪い男は格好がつかないでしょ」
拗ねたように話すフィリオに、ルーラはクスッと笑みをこぼす。
「私を含めて、あなたを目標にする生徒はたくさんいますよ」
「………でも、君は僕を嫌っていたでしょ」
それは、以前にも聞いた事がある言葉。恋人同士になったと言うのにどうやら今でも気にしているらしい。
「嫌ってなどいませんが……あなたを脅威だと感じていたのは事実です」
「………脅威?僕が?」
「あなたは何でも卒無くこなしてしまいますし、生徒からの信頼も厚いですから。勉学しか取り柄のない私からそれすら奪っていってしまうのでは無いかと……。心が狭くていけませんね」
「………」
嫌うと言うより、嫉妬と言った方が正しいだろう。
醜い感情でフィリオに不快な思いをさせていたのかと思うと申し訳なく思うと同時に、そんな自分がなぜ好かれているのか疑問にも思う。
「私はいつも自分に自信がないんです。正直、生徒会長の器でもありませんし、自分がフィリオさんに選ばれるような人間だとは思えません。今でも夢心地なんです。」
両親に褒められた記憶は今も昔もほとんど無い。今、ルーラにどれだけの賛辞が届けられようとも、幼少期から感じていた劣等感というしがらみは簡単には無くならず、ルーラの自己肯定感は極めて低いままだ。
「前にも言ったと思うけど、僕は君じゃなかったら学園長の申し出を引き受けていないよ。僕は最初から、君の事が好きだったからね」
「………ありがとう、ございます…?」
フィリオに好きだと伝えられる度に、どうしたら良いか分からない程胸がギュッと締め付けられる。自分も同じ気持ちだと伝えられたら良いのだろうけれどそう簡単な話でも無い。
「でも、君の気持ちもよく分かるよ。君が本当に僕の恋人なのか、時々不安になるんだ」
「………なぜです?」
「僕らの始まりはあんな感じだったでしょ?だから、君が本当に僕の恋人になったのは、僕がそれを望んでいるから見せられている夢か幻想なんじゃないかって。」
「そんな事…」
そんな事はない。ルーラは正真正銘フィリオに恋をしている。だが、それを伝える手立てをあまり持ち合わせていない。
でも、好きになってしまったのだから逃げてばかりもいられない。隠そうにも隠しきれずに溢れてくる。
「好き………ですよ…」
こうして気持ちを伝える事に慣れる日は来るのだろうか。どうしたって羞恥で全身の熱がどっと上がる。
細々と消えありそうな声だが、やっとの思いで絞り出したルーラの言葉はフィリオにきちんと届いただろうか。それを確認しようにも恥ずかしさで顔を上げられない。
そして、時折こうして恥じらいながら思いを伝えてくるルーラの、普段人前で見せる堂々たる姿とのギャップを見られるのは自分だけだと言う状況にフィリオは高揚する。
「わっ…!?」
突然手を引かれたルーラはよろめきながらバルコニーから生徒会室の中へと引き込まれる。
そのまま窓際に追いやられると、カーテン越しでも背中にガラスの冷たい感触が伝わってくるのだが、ジッとフィリオに見つめられると自ずと体温が上がり、背中の冷たさなど全く気にならなくなる。
「本当に、僕の事が好き?」
「………」
甘い声色に全身が痺れる。さっきそう言ったばかりなのに、答えが分かっているのにこうして聞き返してくるなんて本当に意地悪な人だと思う。
ルーラは顔を赤く染めながらコクコクと頷くのが精一杯だったが、フィリオは満足してくれたようで、クスッと笑みをこぼすと軽くルーラと唇を合わせる。
「僕も好きだよ。もう逃がしてあげられないから、覚悟してて」
逃げるだなんて………いや、正直この状況からは逃げ出してしまいたい。ドキドキと心臓が高鳴って苦しくて、これが何度も続けばきっと早死にしてしまう。
「逃げはしませんが…出来ればもう少し手加減してもらえると嬉しいのですが………」
「手加減?」
「あまりその…ドキドキ、させないで……」
恥じらいながらそんな事を言うルーラを目にしたら、加減なんてしたくても出来なくなってしまう。クールで媚びない高嶺の花の鎧を着た少女、フィリオはそんな姿のルーラも好きだが、本当は可憐でいじらしい、自分にだけ見せるこの姿にはより好感を持てる。
「ごめんね。それはちょっと、約束出来ないかも」
「っ!?」
謝罪の言葉とは裏腹に、もっと彼女の本質を見てみたいと思う欲を抑える事は出来ない。フィリオが悪びれる様子もなくルーラの手の甲に唇を寄せると、ルーラはまたその強すぎる刺激に頬を紅く染めた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
至らない所ばかりだったとは思いますが、これにて完結とさせていただきます。
次作も既に構成中ですので、またまたスローペースかとは思いますが楽しんでいただけるよう頑張りたいと思いますので、その時はまた目を通して頂けると幸いです!
黒猫とと




