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クリミア学園生徒会の恋愛事情  作者: 黒猫とと
12/14

episode.10



「あの……何かあったのなら詳細を…」

「何も無いよ」

「………では、なぜあの場に?」

「ただ、君を迎えに行っただけ」

「……………」


怒っている、そう思わざるを得ない。素っ気ない態度で目も合わない。だが、フィリオが何に対して怒っているのかがルーラには分からず眉間に皺を寄せた。


過ごし慣れたはずの生徒会室も、静寂に包まれた今は居心地が悪い。居た堪れなくなったルーラは咄嗟に話題を変えた。


「そう言えばこのブレスレット、とても評判が良いんですよ。皆さん羨ましいと言ってくれるんです。先程はバルド先生にも気づかれまして、先生は細かい変化によく気づく人ですよね。他人に慕われる理由が分かります。私は他人の変化に疎いのでもっと興味を持たない、と……!」


照れ隠しにフィリオに背を向けていた事と、ブレスレットに気を取られていたせいで、いつの間にかフィリオがすぐそばまで近づいてきている事に気付かなかった。


ふわっと甘い香りが鼻を掠めた時にようやく気づいても手遅れで、ルーラは最も簡単にフィリオに背後から抱きしめられると全身が緊張に包まれ固くなる。


「君は今、僕の恋人だよね?」

「………そう、ですけど…?」


なぜそんな分かりきった事を尋ねてくるのかルーラには全く分からない。それにこの状況に緊張しすぎて上手く頭も回らない。


「だけど僕達の関係は本物じゃ無い。もし君が、本当の恋を知ったと言うのなら、僕達はもうこの関係を続けられないのかもしれない」

「っ………!?」


ルーラの心臓がこれ以上ない程に締め付けられる。呼吸をするのを忘れてしまうほどルーラは動揺した。


フィリオに抱く特別な感情に気づかれていた。ルーラ自身も最近自覚し始めたばかりだ。絶対に悟られてはいけないと思っていたのにこうも簡単に知られてしまう程分かりやすかったのだろうか。


かつて自分もそうだったように、フィリオにとってもこの関係は生徒会の仕事でしか無いのだ。特別な感情を抱かれた所で迷惑でしかないと言う事なのだろう。それもそのはずだ。フィリオは今後あったかもしれない、もしくは既に抱いていた恋心を捨ててルーラと偽装恋愛を余儀なくされた被害者なのだから。


ルーラは震える声でなんとか訴えかける。


「恋…と呼べるかどうかは、まだよく……」


自分で言っておきながら、往生際の悪さに悲観する。例え偽りだったとしても、関係を解消する事を嫌だと思っている時点で、つまりそういう事なのだろう。


教育に厳しい両親は、いつだって出来の良い兄とルーラを比べて卑下した。剣技の才は無いと悟ってからは、せめて勉強だけでも認められたい一心で努力してきたルーラを、フィリオはいつだって讃えてくれていた。


そんなフィリオの事を好きになっている。


フィリオは相変わらず頭を項垂れてルーラの肩に乗せたまま、再びため息を吐くと、ルーラは驚いて僅かに体を硬らせた。


「相手が教師じゃあね、躊躇うのも無理は無いよ。」

「……………え?」

「最近香水をつけ始めたのはあの先生の為?このブレスレット、本当は見られたくなかったんじゃ無い?」

「なに言って……」

「あの人の前だとあんな風に笑うんだね、君。大丈夫、誰にも言ったりしないよ」


こんなにも話しを聞いてくれないフィリオは珍しい。焦っているような、何かを恐れているような……。どんな顔をしているのかは分からないがそんな雰囲気を感じる。


「あ、の……」

「だけど、卒業まで…」

「……え?」


油断していると聞き逃してしまいそうな程のか細い声。


「教師が相手じゃ、どのみち卒業までは君も下手に動けないよね。だったらそれまで、僕をこのまま恋人にしてくれないかな」

「いや、あの……」

「僕を利用して良いから。それでも僕は、君の隣に居たい」

「っ………!」


ルーラは息を呑んだ。呼吸がままならず、胸が苦しい。


これではまるで、本当の告白のようだ。


「それはつまり、私の事が好きだと言う事ですか…?」


お互いの顔が見えないのを良い事に勢いで聞いてしまった。聞いてしまったがその途端に恥ずかしくなって、カァッと顔に熱が集まる。もし違ったら自意識過剰にも程がある。


ルーラは慌てて再び口を開いた。


「そっ…それとも何か、私といる事でフィリオさんに利益がある…とか……」


慌て過ぎて、ほぼ無意識にフィリオの方に体を向けてしまった。フィリオと目が合い、その切なげな表情にまた苦しくなる。


「それを言ったら、君を困らせるだけだから」

「……………」


それはつまり、そういう事と捉えて良いのだろうか。


浮かれそうになるのも束の間、なぜかこんな状況なのにルーラはハッと別の事を思い出した。


「あ、あの…もしかして私は、バルド先生に気がある事になっているのでしょうか?」



ルーラはその瞬間、ピタッと空気が張り詰めるのを感じた。





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