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クリミア学園生徒会の恋愛事情  作者: 黒猫とと
11/14

episode.09



ルーラは特に薬学の授業には力を注いでいる。故郷の医者や薬師は常に人手不足だし、何をするにしても覚えていて損になる事は無い。


「今日はここまでにしましょうか」

「………はい、ありがとうございました」


放課後、生徒会の仕事の合間を縫って、ルーラは薬学の教師であるバルドの課外授業を受けている。バルドは気さくな性格で、多忙な中でもこうして生徒のために時間を割いてくれる優しさには感謝しかない。


バルドは立ち上がると紅茶を淹れてくれたので、ルーラはありがたく頂く事にした。カップを口元へ運ぶと制服の袖が僅かに下がり、見えたブレスレットにバルドがすかさず反応を見せた。


「そう言えば、フィリオ君とはうまくいってるみたいですね。そのブレスレット、彼も同じものを付けているのを見ましたよ」

「………えぇ、まぁ」


ルーラは約束通り毎日身につけているブレスレットに視線を落とす。お揃いのものなんて初めてで、指摘されると気恥ずかしくなって素っ気ない返事を返してしまった。


「正直、あなた達の噂を聞いた時は周りの生徒達が面白がっているだけだと思ったので、事実を知った時には驚きましたよ」

「…私が誰かと恋愛するのはおかしいでしょうか」

「そんな事はありませんよ。ただ、あなたもフィリオ君も入学当初から注目度の高い二人でしたが今まで浮ついた話を聞いた事が無かったので驚いたんです」

「それは、そうかもしれませんね」


フィリオの事はさておき、ルーラはこれまで恋愛に興味を持つ暇もなく勉学に時間を費やして来た。その結果がルーラが生徒会長たる所以なのだがまさかこんな事になるなんて誰が想像しただろう。


引くに引けず啖呵を切って引き受けたものの、フィリオの足を引っ張っているのは否めない。最近は上手く出来ない自分に嫌気が差すばかりだ。全員がこの交際に肯定的では無い事も分かっているつもりで分かっていなかった。


「………私では、ダメだったかもしれません」


つい、弱気な言葉が吐いて出る。元々、みんなが思うほど強くも無いし要領が良いわけでも無い。


こんな所で弱音を吐いたって仕方が無いのだが、バルドは気を悪くする様子も無く、話を聞こうと静かにマグカップをテーブルに置いた。


「フィリオ君と何かあったんですか?」

「いえ……。フィリオさんにはとても良くして頂いています」

「では何が…?」

「……………」


問題は、ルーラ自身にある。


フィリオが優しくしてくれる度に、恋人として扱ってくれる度に、それが偽りだと分かっているのに胸が締め付けられる。


必ず終わる事が決まっているのに、彼の気持ちが本心だったらと夢を見て涙が出そうになる。


こんな事を思っているなんて、絶対に悟られてはいけない事も分かっている。もしも知られたら、自分の恋愛を捨ててこんな茶番に付き合わされているフィリオが気の毒だ。


「あなたが辛い思いをしているのなら、それは正しい関係とは言えないのではないですか?」


バルドが眉を下げて心配そうに覗き込んできた事で、ルーラは自分がそんな表情を晒してしまっていると気づいて、気を抜いていた事を自重するように笑みを浮かべた。


「いえ、そうではありません。私は今、幸せです。彼はたくさんのことを私に教えてくれますから」


これが、学園長の言っていた“恋愛”なのだろうか。これを“恋”と呼んでも良いのだろうか。答えは簡単には出そうに無い。


バルドはポンとルーラの頭に手を乗せると、緩やかに頭を撫でる。こんな子供を宥めるような事をされたのは幼少期以来だった。


「恋愛は、良い事ばかりではありませんから。想い合っていてもすれ違ってしまう事もあるでしょう。僕でよければ、いつでも話を聞きますよ」

「……ありがとうございます」


実際にバルドに何かを相談するか否かは別として、こうして誰かに気にかけてもらえるこの状況は嬉しい、なんて考えていたその時…。


「ルーラ。ちょっと良いかな」


いつからそこにいたのか、教室の扉の前に佇んでいたフィリオに呼び止められてルーラは心臓が高鳴る。確かに名前を呼ばれたはずなのにフィリオの視線はバルドに向けられているようでルーラとは目が合わない。


「どう、しましたか…?」

「ごめんね、勉強中に」

「いえ。先程おわったところなので問題ありませんが…」


何か問題が起きたのかとこちらに向かってきたフィリオを見上げていると、突然グイッと手を引かれてバランスを崩したルーラをフィリオは簡単に受け止める。


ふわりと自分のものでは無い甘い香りが鼻をついて胸が締め付けられる。それと同時に何かピリッとした空気感のようなものも感じて、ルーラはフィリオの胸に張り付いたまま首を傾げた。


「………あ、あの…」

「もう終わったなら僕に付き合ってくれる?」

「私は構いませんけど……」


フィリオはルーラの肩を抱く腕を緩める事なく、バルドに対して鋭い視線を向けた。敵視するようなその視線の意味を悟ったバルドは僅かに口角を上げる。


「今日の勉強は終わっていますから、私の方も問題ありませんよ。生徒会も何かと忙しいでしょうし、片付けは私がしておきますから」

「すみませんバルド先生」

「いいえ」


終始穏やかなバルドに相対して、今日のフィリオは珍しく性急で腕を引かれて教室を出たルーラは本当に何か問題が起こったのかと気を引き締めた。



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