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クリミア学園生徒会の恋愛事情  作者: 黒猫とと
10/14

episode.08



フィリオに連れられて立ち寄ったお店は、アクセサリーや香水等が並ぶ雑貨屋さんで、そのどれも目を惹くものばかりだった。


「ここ、知り合いの店なんだ」

「そうでしたか。とても素敵なお店です」


あの賑やかな繁華街にありながら、一歩店内に入ると穏やかな時間が流れていて安心する。


「ちょっと待ってて」


繁華街に来たついでに知り合いに顔を見せに立ち寄ったのだろうと、ルーラは素直にフィリオを見送る。


手持ち無沙汰になったルーラは店内をうろうろと物色し、光の当たり方でキラキラと色の変わる香水の小瓶が並んだ棚に目が止まった。香りのサンプルをスンスンと順番に嗅いでいく。


ふと、覚えのある香りの前で足を止める。


強すぎずほのかに甘い、ルーラが好きな優しい香り。薄紫の小瓶を前に、ルーラは無意識に笑みを浮かべた。


少しして、同じ香りが後方から聞き覚えのある声と共に風に乗ってふわりとやってくる。


「何か気になるものでもあった?」


フィリオに声をかけられたルーラは自分が無意識に表情を崩していた事に驚きつつ、何事もなかったかのように振り返った。


「素敵なものばかりで目移りしていました」

「欲しいものがあったらプレゼントするけど?」

「いえ、自分で…」


ルーラは並べられていた香水のうちの一つ、フィリオと同じ香りを買う勇気は無かったので次に気に入った金木犀の甘い香りがする黄色の小瓶を手に取る。


フィリオが払うと申し出てくれたのだが、どうしても自分で払いたかったので断ると、少し残念そうな顔をしながらもルーラの意見を尊重してくれた。


「じゃあ出ようか。屋台で何か買って食べよう」


そう言って店を後にすると、フィリオにあれもこれもと屋台の食べ物を買い与えられ、あっという間に時間が過ぎた。


外出には門限があり、守られなかった場合、どんなに普段の生活態度が良くとも次に外出許可を得るのはかなり厳しいものとなる。


「そろそろ時間ですね」

「そうだね。帰ろうか」


17歳の門限にしてはまだまだ陽も高いが、繁華街が夜の姿に顔を変えるとたちまち治安が悪くなる。そうなるにはまだまだ時間があるのだが、時間には余裕を持っておこうと立ち上がったルーラはフィリオが後に続いていない事に気づいて振り返る。


「………?どうかしましたか?」


不思議に思って訊ねたルーラに対し、フィリオはなぜかクスッと笑いながら歩み寄ってくる。


「ごめん、ちょっと懐かしい事を思い出してて」


何事もなかったかのように颯爽と試験会場を後にしたあの日のルーラも真っ直ぐな黒髪を揺らしていた。入学してからも男子生徒との関わりがほとんど無いルーラに気軽に声をかける事も出来ず、しばらくの間フィリオはその後ろ姿を追うばかりだった。不意にそんな日の事を思い出していた。


それが今は隣に並んで、休日までをも一緒に過ごすまでになるとは、そうなりたいと願ってはいたけれど夢のようだった。ルーラとの恋人関係は偽りのものだと分かっているつもりでも、どうしても独占欲を抑えられない。


『懐かしい事』に心当たりの無いルーラが首を傾げていると、フィリオから手のひらサイズの綺麗な小箱を手渡された。


何かとフィリオを見上げれば、「開けてみて」と微笑まれ、ルーラは訳もわからないままリボンを解く。


蓋を開けるとそこには、シルバーのブレスレットが2本入っていた。ワンポイントに紅と蒼の輝く石がそれぞれに付いていて輝いている。


「僕と君で一つずつ付けたら恋人らしいかと思って」

「え………」


ルーラはすぐにその意味を悟った。以前、メアリーが半強制的に貸してきた恋愛小説に書いてあった。つまりこれは『お揃い』というものだ。


「………どうかな?」

「素敵です」

「良かった。じゃあ、付けてあげるよ」


なぜかフィリオは緊張が解けたように吐息を吐くと、ルーラの持つ小箱の中から蒼の石が輝くブレスレットを取り出した。


石の色がお互いの瞳の色だという事は分かっていて、てっきりルーラのは紅い石の方かと思っていたので一瞬驚いたが、フィリオがブレスレットを付けた後、蒼い石を見て微笑んだのを見ると間違えて付けたわけでは無いらしい。


「では、次は私が」


付けてもらったのだから今度はルーラがフィリオの腕にブレスレットを回す。


手に取って分かったのだが、2本のブレスレットはお互いの腕にピッタリになるように作られていたようだった。細身とは言え鍛えられているフィリオの腕はルーラより太いのだが、ちょうど良いサイズになっている。


「あの、ありがとうございます」

「僕の自己満足だよ。気にしないで」

「でも、私も何かお礼をしたいのですが」


こんな馬鹿げた事に巻き込んだ挙句、フィリオにはいつも助けられてばかりだ。その上、貰い物までしてしまったので何かお返しがしたい。


「じゃあ、毎日付けてくれる?」

「それはもちろんです」

「お礼はそれで十分だよ。今はね」


それではお礼になっていないと反論したのだが、結局フィリオはそれ以上何も答えてはくれなかった。




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