先輩令嬢との出会い
私が学園に入学して早々と一週間が過ぎていた。
地元にいた頃の緩い学校生活とは違い、朝から夕方までみっちりとある授業と、不慣れな寮生活の始まりで、エミールとの再会は先延ばしになっていた。
入学して最初の週末の土曜日は、最初の授業の復習と課題を片づけるので一日が終わってしまった。
そして日曜日になってようやく時間に余裕ができた。
(はあ、ようやく落ち着けた。今日はエミールのいる魔法科の男子寮に行ってみようかしら)
私は一人で魔法科の男子寮へと足を運ぶことにした。
魔法科の寮の近くまで行き、とりあえずどうしようかと悩んでいた。
(女子だから、男子寮に入るのはまずいわよね。どうしよう)
その時、突然後ろから声をかけられた。
「ここで何を? 誰かお探しかしら? あなた新入生?」
振り向くとそこには、一人の女子生徒が立っていた。
(この人は確か、入学式の時にエミールの隣にいた人……)
可憐で上品な彼女の立ち振る舞いは、確かに貴族令嬢のようだった。胸の辺りまであるピンク色の髪はゆるくふわふわとウェーブがかかっている。
「私、生活科の新入生です。あの、ここって魔法科の寮ですよね、エミールって人を探してまして」
「エミール? さあねえ、そんな男子いたかしら」
彼女は自分の髪をイジりながら、私になどまるで興味がない素振りでそう言った。
(なんなんだろう。この人、この前エミールと話していたはずなのに、てかこの人香水付けすぎじゃない? 匂いがキツイわ)
彼女の態度を不信に思ったが、相手は一応先輩である以上、冷静になりもう一度確認した。
「エミールって男子生徒がここにいるはずなんですが、彼に会いたくて来たんです」
そう言った瞬間、彼女の私を見る目が釣り上がった。
「はあ? エミールに会いに来たですって? エミールなら今は課題が忙しくて時間がないと思うわ。また今度にしたら?」
「あの、あなたは誰なんですか?」
「私? 私はローラよ。魔法科の三年生。あなたの2つ上の先輩だけど? ていうかまず自分から名乗りなさいよ」
(なんだろう。なぜかすっごい敵意を感じる)
「私はナタリーって言います。エミールの幼馴染です。あなたエミールを知ってるんですよね?」
「だったら何よ? だいたい、あなた幼馴染だからって休日にズカズカと魔法科の寮まで来てるんじゃないわよ。少しは立場を考えなさい。これだから新入生は困るのよ」
どういうことだろう。魔法科と生活科の縄張り争いみたいなことを言ってるのだろうか。そういうのはないって聞いていたが、実態としてはあるのかもしれない。
「とにかく生活科の新入生ごときが、魔法科の寮の傍をウロウロしてんじゃないわよ!」
(なんなんだろうこの先輩は、この嫌味な立ち振る舞い。とにかくエミールに会うまで引き下がるもんですか)
彼女は殺気立ち、何か今にも魔法を飛ばしてきそうな勢いでこちらを睨みつけている。
(教師の目の届かない休日はうってつけってわけか)
彼女は私の身体を上から下まで見まわすとこう言った。
「ねえ、あなたもしかして魔力がないんじゃないの?」
「え」
「新入生じゃ知らないか。普通にしてても魔力って全身から少しずつ出てるものなのよ。感情的になったりしたら溢れだす人もいるわね。でもあなたの身体からは魔力がちっとも出てないわね」
言われてみればローラの身体からは魔力が溢れ出ているのが見えている。感情的になっている証拠だろう。
「新入生で、魔力のコントロールが出来るとも思えないし。あなたもしかして魔法も使えないんじゃないの?」
(こいつ、痛いところついてくるわね)
「ええ、使えませんけど。魔力もないわ」
「ウソでしょ? 魔力がないのによくここに入ってきたわね! 魔法が使えなくても入れるってのはさ、そんなの建前に決まってんじゃん! バッッッカじゃないの?」
ローラはピンク色のゆるふわウェーブを振り乱しながら大笑いしている。
その時、向こうから人が出てくるのが見えた。
それはなんと、エミールだった。
彼は私の方を見て立ち止まり叫んだ。
「あれ! ナタリー! ナタリーじゃないか! どうしてここに?」
彼は今度は目をそらさず、まっすぐに私の目を見て名前を呼んでくれた。
久しぶりに聞く彼の声は、声変わりしたてだったあの頃より更に低くなっていて、素敵な声になっていた。
ローラの顔が引きつったのがわかった。




