エミールの葛藤
エミール視点です
(はあ、早くナタリーに会いたいなあ)
僕はこの二、三日授業に全く集中出来ないでいた。気付いたらナタリーの事ばかり考えている。
入学式で彼女を見かけた時、最初は誰かわからなかった。二年前と髪型が変わっていたからだ。彼女が入学することはもちろん知っていて楽しみにしていたのに一目見て気付かない自分を恥じた。
(髪の毛伸ばしてたのか。手紙では言ってなかったのに)
二年前はショートヘアだった彼女は肩くらいまで髪を伸ばしていた。
久しぶりに会った彼女は遠目でもわかるくらい、とても綺麗になっていた。
彼女のことだから自分の容姿には相変わらず無頓着なんだろうけど、あれじゃ他の男子生徒もすぐに彼女の魅力に気付いてしまうかもしれない。
生活科は男子より女子のほうが生徒数が多いがそれでも心配だった。
(やっぱりさっき中庭で見かけた時、声をかけに行けばよかったなあ。ローラが大事な話があるって言うから聞いたけどまたどうでもいい話だったし)
授業を終えて寮に戻ると、寮の入り口で後輩が話しかけてきた。
「あ、先輩、おかえりなさい」
「ああ、なんで入り口にいるんだ?」
「また来たんですよ。生活科のミーハーの連中が。だから追い返してやりました。お前らの相手をするほどエミールさんは暇じゃねえって!」
「おいおい、もう少し柔らかく追い返してくれよ?」
「あはは、冗談ですよ。実際は丁寧にお引き取り願いました」
魔法科と生活科の校舎は中庭を挟んで、東と西に分かれている。
校舎の奥に寮があり、食堂もそれぞれの寮に隣接してあるので、中庭以外で互いの科の生徒が出会うことはめったにない。
中庭の中にカフェもあったりするが、一部の上流階級の令嬢たちが社交場のように使っていて近寄りがたい。僕は一度も行ったことはなかった。
2つの科は敵対しているというわけではないが、用もないのに安易に互いの生活圏に入ることを気にする生徒もいる。
「先輩は人気者だから、新入生が一目見ようときちゃうんですよねえ」
「恥ずかしいから、やめてくれ。どんなやつだった?」
「へー? 気になります? かわいい女の子だったら部屋に入れちゃうんですか?」
「あのな、前から言ってるだろ。僕には幼馴染がいて今年から生活科に入学したんだよ」
「わかってますよ。先輩の幼馴染って人が来たら通せばいいんですよね」
「というかこんな所で門番みたいなことしてないで部屋で課題でもやったらどうだ」
「門番やってるつもりはないですよ。ただ俺の部屋は入り口に一番近いから誰か来たら窓から見えちゃうんですよ」
このお調子者の後輩の名前はビクターと言って魔法科の2年生である。僕が学園で一番気を許してる相手かもしれない。
彼が入学してからの付き合いなので付き合いはもう一年にもなる。彼は入学当初から僕によく話しかけてきた。学年は一つ下だが、僕は2年飛び級しているので年齢は彼のほうが一つ上である。だが年は関係なく学年が下であるため後輩として僕を慕ってくれている。
「先輩、その幼馴染のこと好きなんですよね?」
「ビクター! 恥ずかしいから言わないでくれ。好きっていうかその……僕たちは仲のいい幼馴染で、彼女はとても大切な存在なんだ」
そう、彼女がいたからこそ、今の僕はあるようなものなのだ。
「あれだけ会えるのを楽しみにしていて、ただの幼馴染って何言ってるんですか。まあいいけど。会いたいならもう寮に会いに行けばいいじゃないですか」
「本気で言ってるのか?」
「冗談です。先輩がわざわざ出向いて生活科の女子寮に顔出したら面倒なことになりますよ。最悪その子にも迷惑がかかりますよ」
「迷惑? 迷惑ってどういうことだ?」
「わからないんですか? 魔法科生活科両方の女子からも人気の高い先輩が、わざわざ新入生の女の子に会いに行くのがどういうことなのか」
「幼馴染に会いに行くだけなのに?」
ビクターは呆れた様子でため息をついた。
「とにかく、勝手に生活科の女子寮に行ったりしないでくださいね。もし行くときは俺も行きますんで」
「まあ今はとにかく、新学期が始まったばかりでバタバタしてるから落ち着いたら行きたいとは思ってる」
「先輩女心わかってないなあ。早く会いに行ったほうがいいですよ」
「どっちなんだよ!」
新学期が始まり最初の週はこうしてあっという間に過ぎていった。
週末にナタリーに会いに行こうかと考えていたが、金曜日に大量の課題が出され土曜日は一日がそれでつぶれることになった。
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