告白
北門でエミールと待ち合わせをした。入学してから、彼と二人で会うのは初めてなので私の胸は高鳴っている。
彼は、私の顔を見ると、パッと明るく微笑んでくれた。
「やあ、来てくれてありがとう。体調は大丈夫?」
「大丈夫よ、手紙ありがとう。すっごく嬉しかったわ」
「よかった。……少し歩きながら話そうか」
「ええ」
私たちは北門の通用口から出て森の中を歩き出した。
「北門の外は来るのは初めて?」
「うん」
「そっか、ちょうどよかった。この先に湖があるんだ。そこまで歩こうか」
「わかったわ」
私たちは、新緑のブナの木が生い茂る森の中を二人で話しながらゆっくりと歩いた。空気が澄んでいてとても気持ちがいい。
「ナタリー、言うのが遅れてしまったけど、入学おめでとう」
「ありがと」
「いや、こちらこそありがとう。君が入学して来てくれて、またこうしていっしょに過ごせるなんて、本当に嬉しいよ」
私は彼の言葉を聞いて、心が温まるのを感じた。
二年ぶりに二人きりになった私たちはつもる話をしながら森の中を歩いた。
彼の子供の頃と少し違う雰囲気に、私は少し緊張してしまっていた。
ときどき彼の横顔を窺うも、何を考えているかはわからない。
しばらく歩いて森を抜けると目の前に、豊かな水を蓄えた湖が広がっていた。
「綺麗な湖ね」
「この場所が好きでね、君に教えたかったんだ」
そう言って微笑む彼の表情だけ見れば、子供の頃とそう変わってないが、顔つきは大人びており、なんだかまじまじと見るのが照れくさくって、彼の顔をまともに見られなかった。
(エミール……。私やっぱりエミールが好きだ)
「エミール、あなた本当にすごい魔法を使えるようになったのね。出会ったころはいじめっ子に絡まれてるあなたを私が助けてあげたんだっけ」
「ナタリー、それは言わないでよ」
彼は困った顔をして笑う。
私は今の彼と向き合うことが恥ずかしくてついつい昔の話をしてしまう。
「でも今はすっごく逞しいわよ。あんなすごい魔法見せつけられたら、私落ち込んじゃうわ」
「僕だってまだまださ、それにナタリーの武術の腕だって相変わらずすごかったよ」
「ふふ、ありがと、私だってちゃんと修行してたんだから」
エミールは私の目をじっと見てきた。
彼の強い眼差しに惹き付けられるように、私も彼を見つめた。
「ナタリー、髪の毛伸ばしたんだね。とっても素敵だよ」
「あら、いまさら?」
「あ、ごめん」
「冗談よ。ありがと。エミールだって……ホント、とっても頼りがいがあるわよ」
「え、そう? 嬉しいなあ」
(もう! 恥ずかしくてしょうがない! 本当は素直に気持ちを伝えられたらいいんだけど……)
「そうだ! はいこれ!」
彼は突然そう言って、ポケットから小さな箱を取り出して差し出してきた。
「えっ!」
「ナタリーにプレゼント!」
「え、ホントに?」
彼が箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。
「うわあ、素敵なネックレスね」
ネックレスには綺麗な青い石がはめ込まれている。
「綺麗な石ねー。ラピスラズリ?」
「そうだよ。その石には僕の魔力が込めてあるんだ」
「そうなの? ありがとう。とっても嬉しいわ」
「喜んでくれてよかった。つけようか?」
「う、うん……」
彼は私の背後に回り、ネックレスをつけてくれた。 彼の指がうなじに触れた瞬間ドキッとした。
「ナタリー」
彼が耳元で囁く。その声はどこか緊張しているようだ。
「なあに……」
「僕と、付き合ってくれないか」
「……」
後ろを振り返って彼を見つめた。
彼は真剣な表情で口を開く。
「ナタリー、君が好きだ」
「……私もよ。エミール、あなたが好き」
彼は真剣な表情のまま目をパチパチとさせている。
「エミール、よろしくお願いします」
「う、うん。こちらこそ! あはは、なんか嬉しいなあ」
「照れるわね」
私と彼は照れ笑いしながら、互いに目線を交錯させている。
「ねえ、でもね。エミール。あなたは今三年生よ。私とは一年間しかいっしょにいられないんじゃない?」
「ああ、大丈夫だよ。実は来年には二年制の専攻科が新設されるんだ。だから僕がそこへ進めば合わせて三年間、学園でいっしょにいられるよ」
「そうなの? 知らなかった。それならよかったわ」
「じゃあ、そろそろ……戻ろうか」
「うん。この湖は静かで好きよ。またきたいなあ」
「うん、また誘うよ。この湖は夜もキレイなんだよ。今度是非見せたいな」
「ええ、楽しみにしてるわ」
(よかった、これからもエミールとずっといっしょにいられるのね)
湖からの帰り道、私たちは手を繋ぎお互いの事を語り合った。
小鳥のさえずりが、まるで私たちを祝福するように辺りに響きわたっている。
樹木の枝葉から差す木漏れ日が私たちの歩く先を明るく照らしていた。
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一応続きの構想もありますが、まだ完全に書けておりませんのでここで一旦完結とさせていただきます。




