呪いのローラ
倒したと思ったローラは立ち上がり、なおもこちらに敵意を向けている。
やはり彼女の往生際の悪さは天下一品だ。しかし彼女の様子はどこかおかしかった。理性を無くしてしまったように白目を向いて立っている。
私は驚いてエミールに確認した。
「ねえエミール、ローラさん、様子が変だわ。どうなっちゃったの?」
「わからない。なんだあの姿は、あれじゃまるで……」
「あちゃー。あれはやっちゃってますね。ローラさん自分に呪いかけたみたいですよ」
「自分に呪いを? そんなことできるんですか?」
私は驚いてビクターに聞き返した。ローラを取り巻くオーラはだんだんと禍々しいものになっていく。
「さあ? 普通しないですから。でもあれはどう見ても……。魔獣化ならぬ魔人化ですよね」
「ローラ! バカな真似はやめるんだ!」
「先輩、ああなるともう話しても無駄ですね」
「ビクター、君の聖魔法でローラを抑え込んだりできないのか?」
「魔獣にさっき使っちゃったばかりで、俺もうほとんど魔力残ってないです。浄化魔法は魔力消費がすごいんですよ」
「エミール! 私がやるわ。元々私が売られたケンカなのよ」
そう言って一歩前に出ると、エミールは私を片手で制した。
「大丈夫。ナタリー、ここは僕に任せてくれ。邪気を纏う者に生身で近づくのは危険だからね」
エミールはそう言って一歩前へ出た。
(エミールがそう言うなら仕方ないわね)
ローラが飛びかかって来るのと同時にエミールは叫んだ。
「ディスペル!」
エミールがローラに向かって手をかざすとローラは一瞬固まり、その場に崩れ落ちた。ディスペル、あれは確か、状態異常などを解除する魔法だ。
ディスペルを受けたローラの身体からは、邪気が取り払われ、元の人間の姿に戻ったようだ。
「エミール! すごいわ。そんな魔法まで使えるのね。高等魔法なんじゃないの?」
「まあ、一応ね。これは対人専用魔法だから実践で使ったことはあんまり無いけれども」
「そう。それより、エミール! あなた光魔法を使えるの? あれって珍しいんじゃない?」
「ふふ、驚いた? 実は君の家の地下室の本で書いてあって練習して覚えたんだよ」
「そうだったのね!」
「この二年間で、他にもいろんな属性の魔法が使えるようになったんだ」
エミールは少し自慢げにそう話した。私と過ごしたあの頃の時間が今の彼の成長に繋がっていると思うと嬉しかった。
「エミール先輩はやっぱりすごいや。普通は一つの属性を使いこなすだけで精一杯なんだけどなー」
「そうなの?」
「はは、地道は修行のおかげだよ」
そこへちょうどサラが教師たちを連れて駆けつけてきた。
「おーい! ナタリー! 大丈夫ー?」
私はサラの顔を見てホッとした。
その後、ローラは学園内の医務室に運ばれた。そこで聖魔法を使いこなす教師によるきちんとした浄化と治療が行われ一命を取り止めた。
意識が回復したローラは、自分が今までにやった悪行を教師たちに全て白状したらしい。
ローラは二、三ヶ月前に闇魔法を覚えて、学園内で小動物を相手に魔獣化の呪いの実験を繰り返していたそうだ。
そして、先日入学してきたエミールの幼馴染である私が邪魔になり、魔獣に襲わせて亡き者にしようとしたらしい。
彼女の誤算は私が魔獣をぶっ飛ばすほどの戦闘力を持っていたことだろうか。
ローラが闇魔法を覚えたきっかけは黒魔術の書という本で、ある時気付いたら自室の本棚に置いてあったらしい。
興味本位でそれを手に取った彼女は、中でも呪いの魔法にのめり込んでいったそうだ。
私とサラとエミールとビクターの四人は、教師たちから事情を聞かれたあと、寮に帰った。
今回の件に関しては、闇魔法などの禁術や立ち入り制限区域への侵入など、刺激の多い情報が満載なため、事を荒立てたくないとの理由で、くれぐれも他の生徒たちには詳細を話さないようにクギを刺された。
ビクターによって浄化されたアライグマは、学園の生物管理課によって保護された。
ビクターの浄化魔法により一命をとりとめた恩なのか、彼にすごく懐いているようだった。私たちは、ときどきこの子の顔を見に来ようと決めた。