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エミールの不安

エミール視点です

 ~ナタリーが魔獣に襲われたその日の午後、魔法科の男子寮にて~




「エミールさん! 聞きました? 生活科の演習で魔獣が出たらしいですよ」

「なんだって! それで何があったんだ?」


 僕は授業を終えて寮に戻って来たところで、後輩のビクターに呼び止められた。


「女子生徒が襲われたらしいです。確か名前はナタリーとか」


「ナタリーだって!」


 僕は彼女の名前を聞き、とっさに走り出し寮を出ようとした。


「待って! 聞いて! 最後まで聞いてください」

「なんだ! ナタリーに何があったんだ!」

「魔獣を撃退したらしいですよ? なんでも飛び蹴り一発で」



「え?」



「あー、ナタリーってもしかして、この前言ってた幼馴染の子ですか?」

「ああ、そうそう。僕の幼馴染さ、それでケガとかは?」

「ケガもないそうです。先輩の幼馴染、とんでもないオテンバ娘ですね」


 僕は何を慌てていたんだろう。そうだ。ナタリーの武術の腕前は僕が一番よく知っているはずだ。しかし魔獣を倒してしまうほどとは。


「とりあえず心配だから、僕は生活科に行って話を聞いてみるよ」

「俺もついてっていいですか?」

「僕は構わないが、いいのか?」

「大丈夫です。先輩の恋人を一目見てみたいですし」

「あ、あのさ。恋人ってわけじゃ」

「へー? 違うんですか?」

「と、とにかく行こう」


 ビクターは僕が慌ててると思って気を使って付いてこようとしてるのだろう。ともかく彼といっしょにナタリーに会うため生活科の寮へ行くことにした。




 彼は普段はお調子者だが、こんな時でも僕のことを心配してくれるいいやつだ。ライバルも多いこの学園内で僕が一番気を許してる相手かもしれない。


「先輩の恋人って、強いんですねえ。確か魔法が使えないって言ってませんでした?」

「恋人じゃなくて、ナタリーっていう名前で呼んでくれるかな? 魔法は使えないよ。それどころか興味すらなかったよ。僕といっしょにいた頃は」

「へー? そうなんですか? なんで魔法学園に入ったんだろう? 先輩に会いたくて追いかけてきたんじゃないですか?」


(やっぱり追い返そうかな……)


 ビクターは普段はいいやつだが、たまにとても面倒な時がある。確か前もローラと二人でいっしょにいる所を見られてしつこくからかってきた。




 僕たちは男子寮から魔法科の校舎を抜けて中庭に出た。そのまま生活科の校舎へと向かう。


「先輩、ナタリーさん魔法使えないのにどうやって魔獣を倒したんですかね」

「ナタリーは魔法は使えなかったけど、強かったよ。僕は純粋な格闘戦では一度も勝てなかったし」

「へー? じゃあそれって魔力で身体強化してるってことですよね。生身なら先輩にかなうわけないですし」

「そういうことになるね。その頃は僕も自分の修行で精一杯で彼女の魔力のことはそんなに調べなかったんだ。彼女も魔法は興味ないって言ってたし」


 ナタリーといっしょにいた頃、僕は自分がどれくらいの魔力を持ってるのか実感がなかった。

 地元の中等科の学校では確かにずば抜けて魔法が使えたけど、それでいて魔法学園から飛び級の打診が来たのだから驚いた。


 いざこの学園に入学してみたら、教師は元より、生徒たちのレベルの高さに驚いたものだ。

 でも、同級生よりも二歳年下の僕でも付いていけるレベルだった。


 今考えてみれば、魔法が使えるかは抜きにしてもあの頃の僕を遥かに上回るだけの魔力による身体強化をしていたナタリーは、果たしてどれほどの魔力を内に秘めていたのだろうか。 




 僕たちは生活科の校舎を抜けて、生活科の女子寮の方へと歩いていた。

 すると周りの生徒たちからの視線を感じる。


「先輩、注目されてますよ。大賢者エミール様のお通りだーってね」

「やめてくれないかな」


 女子寮に着いて、他の生徒にナタリーのことを聞いてみたが彼女は校舎の医務室で休んでいるらしくて、寮にはまだ戻ってきてないようだ。


 医務室にも行ってみようかとも思ったが、ナタリーの他にもう一人休んでる生徒がいるらしいので、邪魔になると悪いと思い諦めて帰ることにした。


「先輩、結局ナタリーさんに会えませんでしたね。入学してからまだまともに話してないんですよね?」

「そう。向こうも忙しいから」

「そうですかー。それじゃあ向こうも先輩と話すのをさぞかし待ち望んでることでしょうねえ」


 僕はビクターの言葉を上の空で聞きながらナタリーのことを考えていた。




 次の日、担任の教師に呼び出されて職員室へ行った。


「先生、どうしたんですか?」 

「昨日の西の森の魔獣出没の件は知ってるね?」

「ええ、もちろんです。原因はわかったんですか?」

「いや、これから調査を始めるところだからハッキリとはまだわかってない。それで君たち生徒にも少しお手伝いをしてほしくてね」


 担任はそう言って僕の顔をしっかりと見た。


「実はローラくんの提案で、学園内の見回りをしたらいいんじゃないかということになってね。そこでエミールくんも参加してほしいんだ」

「見回り……ですか」

「うん、しばらくの間ね。君の実力は我々も認めているんだ。だからなんとか頼めないかな。君たちが警戒にあたってくれるだけでも他の生徒たちは安心すると思う。特に新入生なんかはね」


(参ったなあ。ますますナタリーに会う時間がなくなるなあ)


「先生、わかりました。やりましょう」

「ありがとう。じゃあ今日の放課後からお願いできるかな。30分ほどでいいからね。ローラくんとクラスメイトの何人かを誘ってくれるといい」

「はい、わかりました」


(先生の頼みだと断りづらいなあ。それにローラは少し苦手なんだけどなあ)


 しかし、考えようによっては、生活科の寮のほうまで回ればナタリーに会えるかもしれないので、少し期待してみることにした。



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