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父との思い出

「旦那様、残念ですがナタリー様には魔法の才能がございません」


 その言葉は今でも私の胸に響いている。


 比較的裕福な家庭に生まれた私は、幼少期の頃は何不自由なく育った。

 3歳から家庭教師を付けてもらい、同年代の子供たちに比べて早い段階から物事を学習した。


 学習意欲もあり運動神経もそれなりによかった私は家族や屋敷の者たちからも将来を有望視されていた。


 そんな私のたった一つの欠点、それは魔法が使えないことだった。


 あれは確か6歳の頃、まだエミールと出会う前のことだ。ちょうど魔法の才能のある子供が魔力に目覚めたりする年頃でもある。

 父は私に魔法教育を行おうと、魔法専門の家庭教師を付けた。


 魔法の勉強を始めて少し経ったある日、父と家庭教師の会話を聞いてしまった。


「旦那様、残念ですがナタリー様には魔法の才能がございません」

「才能? ふむ……。それを伸ばすことが君の役目ではないのか?」

「いえ、もちろんそうなのですが。全く無いものはどうようもないかと」

「もういい、話はわかった。私が直に見よう」


 翌日からその家庭教師は来なくなった。


 代わりに父が珍しく私を誘い外に連れ出した。

 仕事に明け暮れ、ほとんど家に不在だった父が1週間もの間、毎日私に向き合って遊んでくれた。


 父は庭で、基礎的な魔法を使ってみせてくれた。


(お父様も魔法が使えたんだ、すごいなあ)


 それまで父のことをよく知らなかったし、屋敷の者もあまり話してくれなかったので私は本当に驚いたのを覚えている。


 勉強も遊びもずっと家庭教師とメイドたちに任せっきりだった父が、なぜか魔法のことになると私と親身に向き合ってくれたことは今でも不思議だ。


 しかし、一週間経っても私の成長はなく、父の期待を裏切る形となってしまった。


 それから父は、私に魔法の話はしなくなった。




「ナタリー! 迎えに来たよ。教室行こ!」


 ナタリーの声と共にドアがドンドンと叩かれて私は目を覚ました。


「っは! はあ、またあの夢か」


 私はたまに昔のことを夢で見る。私が魔法に興味がなくなった原因。幼少期の頃の挫折だ。

 両親はもちろん優しかったし、最高の環境で育ててくれたと思う。

 ただ私はなぜあの時魔法が使えなかったのか、父のどうしようもなく絶望した顔を思い出すとつらい気分になる。


 私は魔法に興味が無かったわけじゃない。興味がないフリをしていただけだ。本当は使いたかった。

 エミールが魔法を初めて使いこなすのを見た時、本当に憧れた。

 私がどれだけ努力しても出来なかったことを、彼はやってのけたのだ。


 しかし果たしてそれは本当にそうか?


 私は彼ほどの努力はしていなかったかもしれない。小さい頃なのでよく覚えてないが、出来ないと思って早々に諦めてそのまま逃げていただけかもしれない。

 エミールが昔、言ってくれた。私の拳には魔力が宿ってるんじゃないかと。だから強いんだと。体内に宿る魔力を上手く外に出せてないだけだと。


(そうかもしれない。私も本当は魔法が使えるのかも)


 ぼんやりと考えながらドアを開けてサラを出迎えた。

 彼女は綺麗な角度でお辞儀をしてきた。


「ナタリー! 昨日は本当にありがとう! 身体はどう?」

「いいえ、とんでもないわ。サラのほうこそ、どこか調子悪いところない?」

「大丈夫よ。ところでけっこう噂になってるみたいだよ。ナタリーのこと」


 昨日の薬学演習で、私が魔獣を蹴り飛ばし倒したこと。

 サラといっしょに浄化薬を作り魔獣を浄化したことは、その日のうちに学園内に広まったらしい。


 昨日はその後、医務室で休んで、夜になってから寮に戻った。

 すると、生活科の女子寮でももうその話題で持ち切りで、引っ切り無しにドアが叩かれて同級生たちに詳細を聞かれた。


 生活科の女子生徒、それも新入生が魔獣を倒したことは過去に類を見ないそうで、かなり評判になっていると聞いた。


 魔獣退治をした演習から一夜明けて、私とサラの身体は特に問題なかったため、今日から普通に授業に出ることにした。


 サラといっしょに教室へ向かっていると、何人かの生徒たちが私たちのほうを見て話しているのがわかった。


「ねえナタリー、私たち、というかあなたやっぱり注目されてるんじゃない?」

「参ったなあ。ただ魔獣を倒しただけなんだけど」

「いやいや、あのねえ、それってものすごいことよ? 私なんて怖くて腰抜かしてたんだから」

「でもサラの魔法がなかったら、浄化まではできなかったわ。本当に助かったわ」

「そう言ってもらえると私も嬉しいけどさ。あのウサギの親子、元気に森に戻って行ってよかったわね」

「そうね」


 そこでサラは思い出したように声を荒げた。


「そうそう! 昨日女子寮にエミール先輩が来たらしいよ!」

「ええ! そうなの?」

「うん、結局誰にも会わずに帰ったらしいわよ。たぶんあなたのこと心配して来てたんじゃない?」


(私が魔獣に襲われたことを聞いて来てくれたのかなあ。会いたかったなあ)


「あの時私たちは医務室にいたから帰っちゃったんだろうねえ。タイミング悪かったわ」

「そうね」


 サラといっしょに教室に入ると、クラスメイトたちの視線を感じた。

 何人かの生徒たちが私たちに声をかけてくれた。


「ナタリー、昨日すごかったらしいね! あなたの蹴り見てみたかったわ」

「ナタリー、サラ、二人とも元気そうでよかったわねー」

「魔法使わずに蹴りだけで倒したって本当か?」


 みんな私たちのことを心配してくれてたみたいで、なんだかホッとした。

 正直あまり騒いでほしくなかったが、それだけの大事件だったということなのだろう。


「でも怖いよな、あの森は絶対安心だって先生言ってたのになあ」

「また今度魔獣が出たらナタリーに倒してもらおう」

「あはは、そうだねー」


 なんだかみんなにすごく期待されてるみたいで恥ずかしかった。


 入学してから気軽に話せる友達はサラしかいなかったので、クラスのみんなに名前を知ってもらえたのはよかったのかもしれない。


 その後ホームルームで、担任の教師から昨日の件に関しての報告があった。

 強力な結界が張ってあるはずの西の森に魔獣が出没したことは、学校側としてもかなり重大に受け止めているらしく近々調査するらしい。それまでしばらくの間、授業時間以外での西の森への出入りは制限されるようだ。


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