浄化薬の精製
私が倒した魔獣だが、浄化して元の獣の姿に戻すことができるかもしれない。
「はいこれ、さっき拾った薬草」
「すごい、たくさん集めたわね」
浄化薬の材料は覚えてるが、ここには無いものも必要だった。
この魔獣も虫の息であるため、探してる時間はない。ここにある物だけで作るしかない。無い物は他の薬草で代用して即席で作るしかなかった。
水筒の水が残っていたのでこれをフラスコ代わりにして作ることにした。
私は材料になる薬草を口の中に入れてすり潰した。
「うぅ、にが」
「ナタリー、私もやるよ、どれを潰せばいい?」
私はバハムートパセリの葉をサラに渡した。たぶん一番苦味がキツイやつだ。
「うえ、なにこれ、辛いし苦い!」
サラは顔をしかめながらも我慢してすり潰してくれた。
潰した薬草を水筒に入れて、あとはこれを煎じる必要があるが、ここには火種が無い。
「サラ、魔法で火をつけて。これあっためないといけないのよ」
「う、うん、自信ないけどやってみる! 初級魔法だけど」
サラは私が持った水筒の底に手を当て、念じ始めた。
サラの手元に小さな魔力が灯るのが見える。あまりにも小さいが何とかこれで熱するしかない。
「うぅ、これ火力弱すぎるよね、ごめん!」
「大丈夫! 集中して!」
火力が弱く沸騰まではいかないが、魔獣の方もこれ以上は持たなそうだったので、イチかバチかで即席浄化薬を飲ませてみた。
「お願い……」
「神様!」
しばらくじっと見ていると魔獣を包んでいた邪悪なオーラが取り払われて、身体がしぼんでいった。
みるみるうちに小さくなり、魔獣はかわいいウサギの姿になった。
「やったあ! 魔獣が元に戻ったわ!」
「すごいわ、ナタリー! あなたのおかげよ!」
「何言ってるの。二人で頑張ったからよ!」
私たちは喜び、抱き合った。魔獣化から回復した親ウサギの元へ子ウサギがすり寄って甘えている姿は、とても微笑ましかった。
その時、遠くの方から人の声がした。生活科のクラスメイトが教師を連れてこっちへ向かってくる姿が見えた。
私とサラは二人で安堵の顔を浮かべた。
私たちが時間になっても戻らなかったため、教師とクラスメイトたちが心配して探してくれていたらしい。
「ナタリーさん、サラさん、無事でよかった。一体何があったのですか」
「キーン先生! 森に魔獣が!」
私たちは教師に事の詳細を説明した。
「え! ナタリーさんが魔獣を蹴りで倒したんですか!」
驚く教師の声に、クラスメイトたちも「すごーい!」と口々に歓声をあげている。
「ま、まあ狂暴でない魔獣でよかったですね。それにしてもナタリーさん、浄化薬の調合をどこで覚えたのですか? ここで採れる材料から作るのはかなり難しいはずですが」
「え、えーっと教科書を先に読んで予習してたのでなんとかなりました」
「そうですか……とにかく無事でよかった」
こうして私たちは学園の敷地へ戻り、大事を取ってその日は医務室へ行って検査を受け夜まで休んでいた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「以上、報告書です」
「うむ、生徒にケガがなくてよかった」
生活科の教師であるキーンは、さきほどの演習での出来事を主幹教諭に報告していた。
「しかし西の森に魔獣が出るとは……」
「驚いたね。初めてのことだ」
「ここ数日頻発していることといい、何か原因があるのでしょうか」
「それについては調査しているところだ。君も注意して演習を行ってくれたまえ」
「はい、わかりました」
「ところで魔獣を倒したという生活科の生徒の名前はなんといったかな」
「ナタリー・ファーラーですが……」
「ファーラーですか、ほぉ……。今年はおもしろい年になりそうですね」
「はい、はい? ご存じなのですか」
キーンが聞き返すも主幹教諭は意味深な笑みを浮かべるだけだった。
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