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ケーキの甘い香り

「というわけで、魔石で動く泡立て器を作ってね。ケーキも何回か作ってみたんだ」

 ユリウスはセルジュに、ケーキを差し出した。生クリームとイチゴの乗ったショートケーキだ。

「うわあ、美味しそう。でも大変だったね」

 セルジュは気遣うが、ユリウスは笑った。

「こうして新しいお菓子もできたし、泡立て器もできたしね。いいよ、もう。

 それより、どうぞ。これが基本のケーキというものらしいよ」

「では、いただきます」

 2人でケーキにフォークを入れようとしたその時、邪魔が入った。

「ちょっとよろしくて」

 口を間抜けに開けたままそちらへ目をやると、殿下の婚約者と側近達の婚約者達がいた。

「ちょっとお話が……それ、なんですの?」

 流れとして、一緒にいかがですかと誘う事になり、知らないものではあっても、スイーツだと見抜いた彼女らがそれを断るという事はなかった。

 そして期せずして、昼食後のデザートとなったのだった。

「これがケーキですの?」

「まあ、フワフワとしていますのね」

「クリームは甘いし、イチゴもきれいですわ」

「どうやって作りますの?教えていただけないかしら」

 本題をすっかり忘れて、彼女達はケーキに夢中だ。

 そして食べ終わった頃、硬い表情で来た事も忘れ、すっかりリラックスした雰囲気で、彼女達はグチを言い始めた。

「聖女様ですわよ。

 わかってはいますのよ、魔を抑えるためにお呼びしたので、精一杯おもてなしをするというのは。でも、限度がありますでしょう?」

「何もしているご様子もないのに、殿下や私たちの婚約者に色目を使う事だけは熱心でいらっしゃって」

 ユリウスもセルジュも、コメントのしようもなく、ユリウスは中途半端な笑顔を浮べていた。

「最近、私達は婚約者でありながら、話すらした事もないんですの」

「どうにかなりませんの?お家にいらっしゃるんでしょう?」

 ユリウスは、もはやケーキの味も紅茶の味もわからなかった。

「いや、まあ、そうですが。私にはどうにも。すみません」

 殿下の婚約者である公爵令嬢は、嘆息して頷いた。

「ええ、そうですわね。聖女様にお会いして、やんわりとお話をさせていただくべきですわね」

 彼女達がそう言って頷き合うのに、胃の辺りが重くなった。

(きっと聖女様は機嫌を悪くするな。それで兄さんや殿下達も機嫌が悪くなるんだろうな。困ったな。

 でも、婚約者がいるのにそれを無視したような態度は良くないのは常識だし、聖女様も分かってくれるかな。うん、わかってくれるはず)

 ユリウスは自分に言い聞かせた。

「その時には、このケーキをお願いしたいわ」

「……言っておきます」

 彼女達は意気揚々と席を立ち、疲れ果てたような気分でユリウスとセルジュは午後の授業に出る為に教室へ向かった。


 そして、言っていた通りに彼女達が訪れて聖女と話したのだが、いつものように皇太子と側近達がいた――つまり、婚約者同士が顔を合わせた事になる。

 全員が不機嫌になり、言い合いをしたのち、彼女達は帰って行き、皇太子達は怒っていた。

 どうなる事かとおもっていたら、翌日、彼女達が全員、

「婚約を白紙に戻した」

と清々した顔でユリウスとセルジュのところに報告に来たのだった。

 ユリウスは、彼女達に頼まれて泡立て器を錬金術を利用して作りながら、セルジュと話していた。

「婚約を白紙にしてまで聖女の機嫌をとってどうするんだろうな。聖女と結婚する気か?」

「できるのは1人だろ」

 セルジュは、錬金術を利用しての魔道具作りを見ながら、

(相変わらず器用だなあ)

と考えながら言った。

「そうなんだけど、自分がその1人だって思ってるんじゃないか?特に皇太子なんかは」

「かもな。

 それ、俺にも売ってくれないか。妹の土産にしたら喜びそうだ」

 ユリウスは笑った。

「あげるよ。アデリアさんにプレゼントしてあげて」

 セルジュは苦笑する。

「ユリウスは本当に人がいいなあ。

 でも、ありがとう。ユリウス。困った事があれば、俺に言えよ。卒業後はうちに来いよ」

「ありがとう」

 ユリウスはせっせと泡立て器を作りながら、

「僕はいい友達を持ったなあ」

と嬉しそうに笑った。





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