魔大陸の国家、ドルトイ
拓けたところに、木の柵に囲まれた土地があった。そこがドルトイの今の避難場所だった。
ケインに連れられて近付くと、最初は警戒され、何を言っても疑われたが、ケインが何度も説明し、ようやく武器無しで数名ずつ、という事で話をする事ができるようになった。
王はザーイという偉丈夫で、ケインと側近達を連れて会談に臨んだ。
アラデル側は、セルジュ、魔術団兵課課長、兵の大隊長、ユリウス、警護官というメンバーだ。
まず、彼らが「魔人という魔物を従えている種族」ではなく、ここに住まざるを得なくなったヒトであるという事を確認した。
そして、こちらの大陸では魔が濃くなって来て瘴気や魔物が発生し、魔をどうにかするためにここへ来たのだと説明した。
そしてザーイは、彼らもまた、同じように魔や瘴気に倒れる者、魔物に襲われる事が増え、魔の薄い方へと移動を繰り返してしのいでいると説明した。
「状況は同じというわけですか」
「そのようだな」
ザーイとセルジュは、頷き合った。
しかし、このドルトイの方が圧倒的に文明は遅れており、ケガ人や病人の治療も民間治療程度のものしかないらしいし、農業をするにも、適した土地が少なすぎた。
「薬や食べ物も、余裕がないありさまだ。何しろ、畑の作物が、ある日枯れたり魔物になって襲って来たりするんだからな」
ザーイはそう言って肩を落とした。
「あの。魔を放出する中心点みたいな所ってあるんですか」
瘴気はポツポツと発生するのではなく、魔が一方から広がって行って、それにつれて瘴気ができるように思えてユリウスは訊いた。
「ああ。あの北側の山からだな。そこへ近付くにつれて魔が濃くなることは昔から知られていたし、魔物もあそこで生まれるのが普通だった」
ザーイ達が目をやったのでユリウス達もそちらへ目をやる。
ゴツゴツとした岩肌のそれほど高くもない山がある。そしてその周囲は、瘴気でかすんでいるのが目視で確認できた。
「酷いな」
誰かが呟いた。
「やっぱり気になるな。魔って何だろう。
あの、ちょっと調査に行きたいんですけど、無理ですか」
「無理に決まってんだろ!あんた、死ぬぞ!」
ケインが目を剥き、ほかの皆も、ユリウスを正気を疑う目で見た。
「はは。やっぱりね」
ユリウスは苦笑して引き下がった。
「ユリウス。例の聖魔術を最大限に使っても、アレは無理そうか?」
黒くかすんだような山を見て、ユリウスは答えた。
「厳しいですね。魔力が足りないですよ」
「この濃い魔を利用できればいいのになあ」
課長がぼやく。
「そうですね。人間には利用できないほどの濃度だから……ん?」
ユリウスが言い、セルジュが期待するようにユリウスを見た。
「思い付いたか!?」
「ええっと、聖魔術を放ち続ける機械を作るとして、その動力源を濃い魔にするとしたら、どうにかしてそれを山の方へ山の方へと進めて行けば、そのうちここは浄化される事にはなる。
けど、それだけの濃い魔を取り込むのは、難しいよなあ」
考え込みながら言うユリウスに、大隊長が訊く。
「そうなのか?」
それに、魔術兵課長が説明した。
「例えば水をストローで吸い込むのは楽でしょう?でも、ドロッとしたかゆとかだったら?」
「ああ。たぶんだけど、肺活量がいるな」
それで皆も納得したらしい。
が、ユリウスが言う。
「大変です。でも、一旦吸いこんでしまえば、吸うのをやめない限りは何とかなるもんですよ。
そうだ。最初に莫大な魔力が必要なだけで、装置を止めなければいけるんじゃないか?」
「その莫大な魔力って、どのくらい莫大なんだ?こちらの人間も使えば足りるか?」
ザーイが身を乗り出し、ユリウスは山を見、考え、残念そうに首を振った。
「向こうにいる魔術師をもっと呼び寄せるとかしないとだめなんじゃないかなあ」
と、セルジュが嘆息した。
「はあ。そうか。バカみたいな魔力量じゃないとだめなのか」
全員肩を落としたが、そこでユリウスははっとした。
「いるじゃないか。バカみたいな魔力タンクが」
アラデルの皆は顔を見合わせた。
「もしかして」
「聖女?」
課長がユリウスに訊く。
「もし聖女様がやってくれればできるのか?」
「聖女様の魔力量が教会の宣伝通りなら、魔術団がここに8個師団くらいいる計算になりますからね。確率はあがりますよ。でも、できると断言はできません。
弱い力で起動するようにすれば浄化に時間がかかる事になるし」
「いや、ある程度弱めでも、たくさん起動させて多方面から浄化したら?」
ドルトイのメンバーは話の内容をきっちりは理解できてはいなかったが、どうにかなりそうな事を思い付いたらしいというのはわかった。
「聖女を魔力タンク代わりになんてさせますかねえ、教会が」
不信感をあらわに言う課長と大隊長に、セルジュがニタリと笑った。
「やらせるんだよ。このままだと遠征に来ただけですけどいいんですかってね」
それにユリウスも言い添える。
「何かカデンを作ってもいいと、聖女本人に取引を持ちかけてもいい」
セルジュとユリウスはフフフと笑い合った。




