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魔人族の少年

 お互いに警戒していたが、まずは少年が言った。

「助けてくれて、礼を言う。俺は次の王、ケインだ」

 その言葉は、酷くなまったように聞こえたが、どうにか聞き取ることが可能な共通語だった。

 それで、お互いの説明を始めたのだが。

「魔人の国が瘴気を広めている?それで魔物を手下にしてそっちの大陸を征服しようとしている?

 正気か、あんたら」

 ケインに正面からそう訊かれ、セルジュは視線を逸らせた。たった今、ケインが魔物に襲われていたのを見たところだ。ケインに対して、反論する根拠が無い。

「いや、私が言っているのではなく、そうだと聞かされているだけだ。な?」

 たまたま視線の先にいた魔術団の兵課課長は、そう振られて内心慌て、視線を逸らせた。

 そしてたまたま視線を逸らすタイミングを逸して視線を合わせてしまった兵は、キョロキョロと焦った。

「ええっと、ケイン達は濃い魔にも平気なんですか」

 ユリウスが訊くと、ケインはムッとしたような顔をユリウスに向けた。

「そんなわけあるか。あれのせいで死ぬ奴はいるし、動物も植物も危険な奴は多いし、畑を作ろうとしてもある日全滅したり魔物に育ってたりするし。俺達だって迷惑してるんだよ。大昔に部族同志の戦いに負けてこっちの大陸で暮らす羽目になって、仕方がないけど」

 そう言ってケインは、俯いた。

 ユリウスとセルジュは顔を見合わせた。

「何か、子供の頃に習った話と違うぞ」

「ああ。アラデルでもそうだよ。魔人が魔大陸から攻めて来て、それを打ち破って魔大陸に封じ込んだって聞いてる」

「歴史は両方から聞かないと正確な所は伝わらないって例だな」

 それに周囲も納得し、ケインに聞いた。

「で、ケイン。今はどういう状態なんだ。僕達は、最近魔が濃くなって来て瘴気が生じるようになって来たから、それを何とかしようとここに来たんだ」

 ユリウスがしゃがみ込んでケインと目を合わせて訊くと、ケインは答え始める。

「なるべく安全な所を探して、暮らしてる。けど、内陸部から逃げ続けて、もう後があんまりない。それで、そっちの大陸に移るしかないんじゃないかって話も出てるけど、人数もそれなりにいるし、また戦いになったらって恐れるやつもいるし」

 セルジュは少し考え、言った。

「王と話をさせてもらえないかな」

 それにはセルジュの護衛官が慌てた。

「殿下!我々だけで会うのは危険です。この話が本当かどうかわからないのですよ」

 それにケインはムッと口を尖らせて睨みつけ、セルジュは笑って言った。

「一応ほかの国からの代表にも知らせるよ。でも、いきなり大人数で押しかけても、威圧したらまずいし。まあ、先に話を聞いておくのがいいんじゃないかな。

 ユリウスはどう思う?」

「そうだね。話を聞けば、例えば魔の吹き出す場所がわかるかも知れないし、対処法を思い付くかも知れないしな」

 セルジュは頷き、言った。

「決まりだな。

 ケイン、王に会わせてくれ」

「……わかった」

 ケインがそう言って、ゾロゾロとアラデルからの遠征組は王の元へ向かった。

「ユリウス?」

 考え込んでいるユリウスにセルジュが声をかけた。

「ん?ああ。うん。いや、瘴気っていうのは、魔が濃くなり過ぎて凝ったものだろ。じゃあ、その魔って何だろうなって思って。

 適度な魔なら、魔術の発動や魔道具の動力として利用できるし、有害ではないだろ」

 セルジュはユリウスに言われて、ううむと唸った。

「昔からそれは議論されてるけど、答えが出てないんだよな」

「過ぎるとよくないってのは、色んな事でも言われてるけどな」

 それで2人は何となく笑って、その話題は終わった。

 それでもユリウスは、それがわかれば、色々な事が解決できるんじゃないか、と思った。


 



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