魔大陸
船に乗り、魔大陸へと渡る。
魔が濃く、それを取り込んだ動物や植物は、人の大陸のものと見た目が似ているものもあるが、中身は別物だ。
「同じ魔物でも力が違うのかな。魔の強さかな。ヒトだと強すぎると死ぬのに」
牛の魔物が角の先をスパークさせて電を発生させようとしているのを、ユリウスはじっくりと観察していた。その襟首を掴んで背後にやりながら、兵が言う。
「危ないので下がって!」
「あ、すみません。つい、魔物はどんな魔式をどうやってつむぐのか気になって」
ユリウスが謝るのを、セルジュが苦笑しながら見る。
「ユリウスらしいけど、本当に危ないからな」
その脇で、角から放たれた電撃を魔術兵が雷用の盾を張って防御し、攻撃が途切れたタイミングで盾の後ろから飛び出した兵が魔物に斬りかかって仕留めた。
「今の盾は、あの魔物が電撃を使うと知っているから万能型にせずに済んだという事ですか」
訊かれて、魔術兵は頷き、
「そうだ。攻撃を知っている魔物が出て来る分にはな。でも、魔大陸だからな。向こうの大陸とは違う攻撃魔法を使って来る可能性もあるな、そう言えば」
と言って表情を引き締めた。
一行は、魔大陸の奥地、最も魔の濃い所を目指していた。
しかし、緑は濃く、大木が視界を塞ぎ、隙あらば襲って来る動物や植物の魔物がいっぱいだ。人を食う植物や凶暴な動物の魔物などに、5分に1回は襲われる。
今襲って来たものは、魔術に対する完全な結界を有するもので、体表が異常に硬くて物理攻撃にも強いという魔物だった。
「流石は魔大陸」
言いながら、ユリウスはブツブツと何かを言いながら考え込み、倒された魔物の死体に近付くと、その角と魔石を手にして、魔式を発動させる。
すると角は色を変え、形を変え、魔石を取り込んで、ペンダントトップのようなものになる。
「できました。魔術全般に対抗する盾です」
錬金しながら魔道具に作り替えるところを見た事がない者は、それを言葉もなく眺める。
「試してみたいので、誰か魔術攻撃してくれませんか。できれば色々な種類が欲しい」
「そんな簡単に作れるものじゃないだろ!?何で!?」
魔術兵らが詰め寄る。
「この角から結界の魔式が出てるのがわかったから」
「いや、分かったのも凄いけど、だからってその場で錬金しながら魔道具化するなんて聞いた事無い!」
「そう言われても……」
タジタジとなるユリウスだったが、セルジュが
「まあ、テストしてみよう」
と言うので、テストする事になった。
ユリウスは少ない魔力をそれに注ぎ、魔術攻撃をしてもらった。
「おお!どの攻撃も防げるな!
あ、すみません。誰か石でも投げてもらえますか」
剣も投石も防ぐ。
「完璧な防具だな!」
皆が色めき立つ中、ユリウスはそれの発動を止め、言った。
「今更防御のための魔道具ができるとはなあ。
セルジュ、これをたくさん作るなら、さっきの魔物がいるけど」
「見かけたら仕留めるって事でいいか」
「ああ、いいよ。たくさん出てくれればいいな」
「殿下。他国にこの事は知らせますか」
「ああ、いや。これは共有しないからそのつもりで」
そんな風に、必要なものを適当に現地で調達しながら進んで行く。
国毎にかたまって、少し間隔を開けながら進んでいる。それで、魔が一番濃い所を探り当てるのだ。
すると、魔術団員が警戒心も露わに足を止めた。
「魔物がこちらに向かって来ています」
言っている間に、強い気配が近付いて来ると、道の向こうに走って逃げる人が見えた。
それは10代前半くらいの少年で、空の矢筒と弓を背負い、折れた短剣を持っている。そしてその彼を追って、大人くらいの大きさのサルの群れが迫っていた。
「サルを狙え!」
セルジュが言って、一斉に攻撃態勢に入る。
少年はそれでやっと目の前にたくさんの人がいた事に気付いてギョッとしたが、ユリウスが
「こっちこっち!早く!」
と手招きするのと、攻撃の構えを見せる彼らが、自分ではなくサルを狙っているのを見て取って、ユリウスのところに飛び込んだ。
「かかれ!」
セルジュの号令で、魔術団員が魔術でまず攻撃を仕掛け、それをかわして来たサルを兵が剣や槍で襲う。
少年はホッとしたようだが、次いで、自分達を警戒する事を思い出したようだと、セルジュは思った。
「さて。君は誰かな。いや、魔人でいいのかな」
セルジュはそう言って少年に問いかけ、少年の周囲は、兵や魔術師に囲まれた。




