いきなりのお見合い
それは、アラデル上層部にすぐに知らされ、この世界の安全を左右する事だからと各国に知らされ、全ての国で軽く混乱を巻き起こした。
修行の末に習得する事ができるかも知れない魔を祓う特別な術というのは、聖魔術とでもいうのか、魔術の中の1種でしかなかったという事実。
その魔式には無駄が多く、魔式を組み替える事により、もっと多くの魔術師が聖魔術を使用できるようになるという事実。
結果、聖女がいないと抑える事ができないとされていた魔を、どうにかする事が可能だったという事実。
それは朗報ではあったが、熱心な信者と教会関係者にとっては、神へのあり得ないほどの冒涜だった。神が魔に対抗するための術を教会にのみ伝えた、というおとぎ話が通じなくなったのだから。
下手をすれば、発見したユリウスは教会関係者か信者に暗殺されかねない。
なので、ユリウスの事は秘匿される事となった。
ユリウスも、
「別に名誉が欲しいわけじゃないし、構わないよ」
と呑気に言って、聖魔法を増幅する、或いは蓄積させて放出する魔道具の開発にすでに取り組んでおり、セルジュに相変わらずだと苦笑させた。
そんな中、エミリが脱走しようとして失敗し、余計に厳重な監視体制になったという話もちらほらと出た。
「へえ。脱走したところで、ろくに何もできないし知らないのに、どこへどうやって逃げる気だったんだろう」
ユリウスは首をかしげたが、どうでもいいかとエミリの事は頭の隅に追いやった。
「それより、セルジュ。魔大陸に遠征部隊を出すって聞いたけど」
セルジュはそれに頷いた。
「ああ、そうだよ。各国が人員を出してね。うちも、魔術団の兵課と軍とを――ユリウス、君、何か狙ってるね?」
「いやあ、僕も行きたいなあって思って」
「ダメです!」
アデリアがテーブルに手をついて立ち上がり、抗議した。
セルジュに夕食に誘われて、城に来ている所だった。
王と王妃もいるが、家族団らんという雰囲気がする。良くも悪くも小国の王家だ。あまり格式ばった雰囲気ではなく、王家と国民の間も、近しいものがあった。
とは言え、ユリウスほど近いわけではない。
「危ないじゃない!」
「アデリア、お行儀が悪いわよ」
王妃は苦言を呈してから、ユリウスに向かって言った。
「でも、確かに危ないわね。装備品の使い方は、ちゃんと教えて送り出すんでしょう?それで使えるんでしょう?」
「そうなんですけど、魔大陸ですよ。なかなか行けないんだし、行ってみたいです。それに、現場で何かトラブルがあったら困るでしょうし」
言うユリウスに、
「とって付けたような理由だなあ、後半が」
とセルジュと王が笑った。
「笑い事じゃないわよ!もう!」
アデリアが膨れる。
「ごめんごめん。アデリアが心配するのはわかるよ。わかるけど、ユリウスの行ってみたいというのも分かるよなあ」
セルジュが言って、ユリウスと一緒に遠い目をする。
「あ、そうだ。父上。僕、責任者って事で行ってもいいですか」
セルジュが言い出して、王はたまらず笑い声を上げた。
「お父様!もう」
「いや、ロマンだからな!ロマン。
よし。アラデルの責任者としてセルジュ、装置の責任者兼問題発生時のアドバイザーとしてユリウスが行って来い。
ただし、魔物との戦闘や魔人との戦闘は避けろ」
ユリウスとセルジュは、
「やったあ!」
とハイタッチで喜び、アデリアはじっとりとそれを見た。
と、王妃が口を開く。
「ではその前に。
ねえ、ユリウス。アデリアと婚約していくのはどうかしら」
「ひえ!?」
「あら。驚く事?お見合いなんだから、これ」
「お見合いだったんですか!?」
ユリウスは聞いてないと思ったし、それどころか全員思ったが、セルジュは
(いや、それでいいか)
と思い直し、王妃についた。
「言ってなかったっけ?悪い悪い」
「そんな、軽い。お見合いって、僕に王女様は無理だから」
ユリウスが苦笑して言うと、王が言う。
「じゃあ貴族にしよう。これまでの魔道具の開発で、国の文化基準は飛躍的に上がった。あのトイレがほぼ国中に完備された事で衛生状態も良くなったしな。
その上今回の発見だ。これは誰からも文句の出ない、歴史に残る偉業だぞ。
ユリウス。誇れ。自分を認めよ」
ユリウスは狼狽え、セルジュ、アデリア、王妃、王と順に見た。
「そんな事を言われるとは、思わなかったです。
僕は時限貴族だったし、意識では平民でした。兄や弟とは違って攻撃魔術は苦手で、余計、何事にも自信が持てませんでした。
学校を卒業して平民になっても、気楽だとしか思わなかった。
でも、本当は、例え飾りでもヒースウッドの名前を名乗れていればと、思った事があります。もしそうなら、アデリアを、好きになってもいいのかと」
アデリアは顔を上気させ、セルジュと王と王妃は微笑まし気に、ユリウスを見ていた。
「アデリア。一生大事にします。僕と結婚して下さい」
アデリアははにかみ、嬉しそうに笑って言った。
「はい。喜んで」




