呼び出しと報告
皇太子とエミリは、王、教皇、宰相の前に呼び出され、座っていた。
「魔は相変わらず濃くなる一方で、被害は続いている。そろそろ魔を祓う儀式をしてもらいたいのだが」
王が言うと、皇太子が口を開く。
「お待ちください。聖女様に何かあってはいけません。今のままでは」
それに教皇が、うんざりしているのを隠すようにしながら言う。
「そのための訓練も、聖女様は『できるから大丈夫』と仰っておられる。もともと、そのための聖女様なのに、これでは本末転倒というもの」
いつもは王家と教会は仲が悪いのに、これにかけてはタッグを組んでいる事を、皇太子は腹立たしく思った。
「しかし、聖女様にもしもの事があっては取り返しがつきません。
そのために、今、必要なものを取り戻しに行っておりますので」
それに、王、教皇、宰相が首を傾げた。
「必要なものなら、聖水も魔石も全てが教会に揃っているが……?」
「万が一の備えるための魔道具を作る者です」
皇太子が堂々と答え、王達は返事に迷った。
しかし、王が訊く。
「魔道具職人か?それなら、王都にもいるではないか?国内一の高名な職人も」
「それは、ですね……。その、訳あってその者がいなくなったので別のものに制作を依頼したのですが、できないと言われまして」
「ほほう。その者はよほど腕が良かったようだな」
王が言い、宰相が思い出した。
「ヒースウッド家の二男でしたかな、確かユリウス。聖女様の要望に色々と応えていたと聞いておりましたな。成績も、魔術理論などの教授はかなり褒めていましたなあ」
「そうか。その者はなぜいなくなったのだ?卒業したから、領地へ帰ったのか」
皇太子はどう言えば穏便に話が収まるか考えたのだが、エミリが喋り出したのでギョッとする。
「無能だからですよ。何か、もともと学校を卒業したら家を追い出して平民にするとか言ってたし。それで卒業式までの3日で作れって言ったのにできなかったから、やっぱり無能だなって。それで、国外追放にしたんですよ。
ね、ジュリアーノ」
そこにいるエミリ以外の全員が凍り付いた。
(え。殿下をジュリアーノ?)
(そんな優秀なのに、無能と言って国外追放?)
(その者が他国に行ったのか?そこで今何をしているのだ?)
キョトンとするエミリを、全員が見ていた。
「確認するが、3日で作れと命じたものを、誰も作れなかったんだな?」
「はい」
「これまでのカデンとやらについては、どうなのですか、殿下」
「……無理だと。複製を作るのでも数日かかる。話を聞いただけでこれを設計して制作するのに数日なんておかしいと言われました」
皇太子はもはや項垂れている。
しかしエミリは元気だった。
「言えばたいてい3日以内に持って来たわよね。
でも、向こうにあったものよりかわいくないし、色も選べないし。テレビとかSNSとかはできなかったし。やっぱり無能よねえ」
誰一人テレビもSNSもわからなかったし、エミリの呪文のような言葉は完全に理解できなかったが、それは理解できた。
とんでもない天才を国外追放してしまったと。
宰相はフラリと青い顔で倒れかかり、教皇は神に祈り始め、王は表情を引き締めて怒鳴ろうと口を開きかけた。
「申し上げます!ロイ・シュタンベール殿とニコラス・ヒースウッド殿が、急ぎ殿下にお目通りをと参っております」
そこに知らせが入り、皇太子は椅子から飛び上がるように立ち上がった。
(助かった!)
「父う――陛下!ユリウスを連れ戻して制作の命令を伝えに行かせた者達です!」
真っ青な顔で、王の許しを得て入室し、皇太子に報告をするように言われたニコラスとロイが、膝をつく。
「前置きはいい。どうなった」
急かすように皇太子が訊くと、ロイとニコラスは、顔を上げる事無く答えた。
「あれは、アラデルの魔術団に勤務しており、こちらには戻らないと」
宰相と王は無表情になった。
「やはりあの田舎貴族の所か!あの田舎貴族の口利きか!?」
「それが、その、田舎貴族と呼んでいたのは、ですね、殿下。アラデルの皇太子殿下でした」
「そのせいで、あわや戦争となるところでした」
皇太子も表情を無くし、無言で立ち尽くした。
「それで、いつ出来上がるの?
そうだ。今度はクーラーが欲しいなあ。それと、お寿司食べたい」
明るく呑気そうなエミリの声が、むなしく響いた。




