帰還命令
「ユリウス!やっと見つけたぞ!」
ニコラスとロイは疲れたような顔をしていたが、ユリウスのそばにつかつかと近寄って来て言った。
「全部の魔道具工房を回らされた、くそ」
「魔道具職人にならなかったのか?」
不満そうにロイが文句を言い、ニコラスがそう訊く。
「ああ、今は――」
ユリウスが答えようとしたが、ロイがイライラと遮った。
「どうでもいい。どうせあの田舎貴族のところに厄介になっているとかだろう。
それより、殿下からの命令だ。戻って例の魔道具を作れ」
それに、ユリウスは驚きつつも即答した。
「嫌ですし、無理です。僕は今、ここで働いているんですよ」
ニコラスとロイは、不機嫌そうに眉を寄せた。
「はあ?何を言っている。殿下の命令と言っただろう?さっさと戻れ」
「殿下が追放を撤回して下さったぞ。戻って言われたとおりのものを作れば許して下さるそうだ」
ユリウスはわけが分からないまでも、焦った。
「いや、待って下さい。僕は戻りませんから。もっと腕のいい魔道具技師に依頼すればいいじゃないですか」
ニコラスとロイは、グッと詰まった。
今まで能無しだの中途半端だのと言って来たのに、ほかの魔道具技師にはカデンが作れなかったなどとは言えないし、言いたくない。
「いいから来い!」
ロイは強引に、ユリウスの腕を掴んで引きずり始めた。
「何するんですか!?」
「ニコラス、馬車を捕まえて来てくれ!」
「わかった!」
腕っぷしではロイに到底かなわない。魔術を使うとしても、ユリウスは攻撃魔法は専門外だ。その点ニコラスは火と風が得意だ。
「やめてください!誰か!衛兵を呼んでください!」
「黙れ!
心配はいらない!兄弟げんかだからな!」
ユリウスは、ニコラスとロイに誘拐まがいに強制送還されそうになっていた。
その時、天の助けが現れた。
「何をしているか!」
セルジュの護衛官が割って入った。
店で別れて馬車で城へ戻り始めたセルジュとアデリアだったが、貸そうと思って持って来た魔術理論の本を渡すのを忘れていた事に気付いて戻ったら、騒動が目に入ったのだった。
セルジュも馬車を降りて、ユリウスを引き寄せた。
「やっぱり田舎貴族を頼って来ていたんだな。
邪魔をするな。殿下からの命令でユリウスを連れ戻しに来ただけだ」
ロイが吐き捨てるように言う。
「そんな勝手な」
ユリウスはムッと口を尖らせた。
セルジュも、口元だけで笑いながら言う。
「追放と言ったのはそっちだし、卒業したら家を追い出して平民にって決めてたのもそっちなのに。勝手だな。
ユリウスは今、家で正当な評価を受けて働いてもらっている」
それに、ニコラスとロイがムッとした顔をした。
「黙れ、田舎貴族が。圧力をかけさせて潰してやろうか」
「我が家と我が国の問題だ。口を挟まないでもらおう」
それに、護衛官が表情を険しくする。
そしてセルジュは、静かに笑って言った。
「ほう。どうやって圧力をかけさせるのかも気になるが、私はアラデル王家の皇太子、セルジュ・ディートリヒだ。それは我が国に対しての宣戦布告と受け取るが、構わないんだね?」
「へ?」
ニコラスとロイが、揃って間抜けな顔をした。




