新天地にて
セルジュが、小国とは言えアラデルの皇太子だったと知って、ユリウスは驚いた。
まあ、迎えに回されて来た馬車が、派手ではなかったが作りがしっかりしていていいものだったし、案内された実家がやたらと大きくて立派だったので、おかしいとは思ったのだ。
しかし、警備上の問題や、すり寄って来る生徒やその親との政治に時間を費やすのはごめんだという考えから、ただの貴族の子弟として留学してきたのだと言われれば、ユリウスも納得できた。
ただ、言ってくれれば何か護身用のアイテムを作ったのに、と口を尖らせた。
それに、セルジュの両親――国王と王妃なのだが――は嬉しそうに笑い、アデリアは
「羨ましい!」
と叫んだ。
泡立て器をお土産にしたが、これまでにもドライヤーやレンジやヒゲソリキをプレゼントしていたのをアラデル王家は愛用している。そしてしばらくここに置いてもらう御礼代わりにと思ってウォシュレットを制作、設置すると、「ただの魔道具職人ではもったいない」と国の魔術団の試験を受けるようにと勧められ、結果、魔術団に採用されることとなったのだ。
「住み込みで無給での弟子からスタートする予定だったのに、公務員になって給料をもらえるなんて……!」
ユリウスは感激したが、セルジュや周囲らは、
「いや、弟子を取る方の腕前だよ」
と苦笑した。
そうしてユリウスの生活基盤は整って行ったのだった。
その頃、エミリは癇癪を起してブラシを投げつけていた。
「ああ、イライラする!何でうまくいかないのよ!」
教会の者と一緒にほんの軽い魔を祓いに行ったのだが、上手くできなかったのだ。
最初だからと慰められて、気晴らしにお菓子でもと思ったのだが、そこでも不機嫌になる出来事が待っていた。どうしてもシャーベットの気分だったのに、そんなものは知らないと言う。だから説明して作れと言ったのだが、できないと言うのだ。
「じゃあ、疲れたからマッサージ機持ってきて」
「それは何ですか?ありません」
「何でよ!これまでは言えば何とか作って来たじゃないの!あのリクエスト係呼びなさいよ!」
「ユリウスはエミリを安全に守るためのものを作れないから、能無しって事で追放したじゃないか」
皇太子に言われ、エミリはグッと詰まった。
そう言えばそんな事もあった気がする、と微かに思い出した。
「じゃあ、代わりの人を寄こしてよ」
「それが、打診はしたんですが、見た事も聞いた事もない物を、そんなに早く作るのは無理だと、全員に断られてしまいまして……」
騎士団長の息子が困ったように言う。
「中途半端な能無しだったんでしょ?だったら、できる人はいっぱいいるんでしょ?」
エミリがイライラと言うと、皆はニコラスを見、ニコラスは冷や汗を流して答えた。
「はい、その、そのはずなんですが……」
「もしかして、あの何とかっていう子、できる子だったの?」
「まさか!だって、メイドがたまたま生んだ子ですよ?なあ」
「魔法攻撃も弱いし、ねえ」
全員が、気まずいような、腹立たしそうな、複雑な顔付きで視線を外した。
と、皇太子が意を決したように言う。
「わかった。ユリウスを探して来て、連れ戻せ。追放はなしにする。3日は無茶だったかも知れん。勘弁してやろう。
どこにいるか、心当たりはないか?」
ニコラスは首を振った。
「ユリウスの母親はこの近辺の平民でしたし、それももう死んでいます。頼れる親類もないはずです」
「あ、そう言えば、同じクラスのアラデルからの留学生と仲が良かったですよ」
1人が思い出すと、皇太子がフンと鼻で笑った。
「アラデル?小さい田舎の国だな。
よし、すぐに誰か行って来い!」
エミリ達は、上手く行かなくて焦り始めていた。




