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休日 6

「だからね、伊勢君はもう気にする必要はないのよ」

「先生………」

「クスッ。それにね、伊勢君も山瀬君も山瀬さんもそして柏原さんも私の事を未だに『先生』と呼んでくれているわ。教師をやっていた私にとってこんなに嬉しい事だわ」

「あ!?」

 リョウタは先生の指摘に気付き声を上げた。そう、その教師を尊敬していないと先生という言葉は意識していない限りは出て来ない。私達が良い例だ。

「そうですね。あの学校で私達が先生と呼べる先生は貴女だけです。後の者達は呼びたくもない!!」

「聖はそうだな。ま、オレから見てもあの学校の教師達は良い教師達ではなかった事は確かだな」

「そうね………特に教頭なんて教頭の権力をかさにきて私達女教師に対してセクハラやパワハラのオンパレードだったわ。確証はないけど、おそらく、女子生徒達に対してイヤらしい目で見ていたかもしれないわね。でも、生徒達に手を出せば終わりというのが判っているからそこまでにとどめていたかもしれないわ」

 と、先生はそう言った。そのくらいの理性はまだ残っていたようだ。

「とんでもねぇ教頭だな」

 リョウタが呆れた声で言う。

「その教頭も既に逮捕されているんだ。父の話によれば、私達の事件の主犯格の1人だから懲役刑からの実刑は逃れないと言っているし、警察の方で余罪がないかと調べているかもしれないわね」

「そうなれば良いわ。でも、逮捕されて、一つでも罪が確定したら、どの道、教員免許は剥奪されるわね。あんな人が教師に成る資格はないわ」

 先生が憤っていた。先生もその教頭に前からセクハラやパワハラを受けていたのが判る。

「そうですね。性犯罪者は教師に成る資格はありませんよ。子供達にどんな被害が及ぶか想像もつきませんのでね。それに、そういう事をされた子供は一生涯心に傷を負いトラウマを抱えてしまいます。けして金では解決が出来ない大きな傷を」

「そうね………そういう子供達も私は見て来たわ。私はその時はその生徒の力になってあげれなかったのよ。だからこそ、この王国、いいえ、この町に暮らしている子供達だけでも、そういう輩から守ってあげたいわ」

「そうですね」


 話が変わり。


「はい、これ、先生が言っていた教材一式です。後は、子供達のノートに、書く物、そして、チョークです。それと簡易式の魔法陣です。この魔法陣に書いた紙を乗せれば、私の所に着きますので、教材で不足分や欲しい物があれば遠慮なく利用して下さいね」

 私は先生に渡した。

「ありがとう山瀬さん。助かるわ。明日からより質が良い授業が出来るわ」

 先生は喜んでいた。

「では、私達はこれで失礼致します。何かありましたら、その簡易魔法陣で連絡をして下さい。可能限り行きますので」

「ありがとう。でも、そうならないように努力はするわ。教え子に頼る先生は格好悪いし示しがつかないわ」

「はい。では」

「ええ。あっ!山瀬さん達は山瀬君達の大道芸を観るの?」

 行こうとする私達を引き止めた。

「ええ、子供達も来て居ますので、それに私は観る側ではなく演じる側ですよ。おそらく、団長に出演依頼をされるのでね」

「そうなのね?私もまた観に行くわ。昨日の初日は山瀬君の大道芸を私のセイで披露出来なかったから…………」

 先生はその責任を感じて少し暗い表情を見せた。

「そうでしたか。今回、サトルの大道芸は私と一緒に演りますので、楽しみにして下さい」

「そうなのね。分かったわ。じゃあ、楽しみにしているわ」


 私達は一旦先生と別れて、大道芸人達が居る公園に行く。


「ただいま~」

「おう、お帰り。先生に会えたのか?」

「ああ」

 サトルが出迎えて来てくれたので話した。

「そうか。団長が姉貴に話があるそうだが、出演依頼だろうな」

「おそらくな。ま、元々演るつもりだしな」

「そうだよな。子供達が居るしな。ま、とりあえず団長の所に行こうぜ」

「ああ」

 私達はダンさんの所に行くと、

「聖様」

 ダンさんは深々と頭を下げて、私に大道芸の出演依頼をして来た。

「ええ、元々そのつもりですよ。そして、大道芸に出演するさいに私もサトルのように芸名を名乗ります。私の本名では大道芸を演りづらいし、観ている観客達も萎縮して観ないといけなくなりますのでね」

「確かにそうだな。それに名前を変えれば5大貴族である火の貴族が大道芸を演っているとは思わないだろうしな」

 サトルが言う。

「そう言う事。どんな芸名が良いかなぁ?私、名前を付けるセンスが無いからなぁ」

「そうだよな。俺にも無いな」

「そうですなぁ…………リルというのはどうでしょうか?いえ、聖様とヤジリの本名から一文字ずつ取ったのですが………安直過ぎましたかね?」

 と、ダンさんが申し訳なさそうに提案をしてきた。

「そうね?リルというよりはルリの方が良いかな。ほら、リクと間違えるかもしれないしね」

「ああそうだな。じゃあルリで良いんじゃね。芸名って意外と適当だしな」

「じゃあ決定という事で」

 あっさりと私の芸名が決定した。ダンさんもその芸名で構わないようだ。というより、提案をしても決定には自分が口出しをするモノではないと思っているようだ。

「なぁ?そんなにも単純で良いのかよ?大道芸と言っても芸名だぞ?」

「芸名だからこそだよ。リョウタ」

「芸名は覚えられやすい名前の方が良いんだよ。後はインパクトが強い名前とかな」

 私達がそう言うと、

「うーん?そういうもんか?」

 と、疑問に思っているようだ。ともあれ、私の芸名は決まり、サトルと空間で剣舞の練習をした。


 私達が空間で練習をしていると時に、舞とメアリーがやって来た。この2人は空間で何か話をしていたようだ。

「お兄ぃ達の剣舞スッゴー」

「相変わらず息が合っているわね」

 舞は私達の剣舞を感心して、メアリーは何度も観ているので、驚きを通り越して呆れいた。


 一通りの剣舞練習が終わり、

「なんだ?2人だけか?」

「うんん、ユカ姉ぇも居たけどね先に出て行っちゃったのよ」

「私達も出て行こうとしたら、ヤジリ達が剣舞の練習をしていたから見学よ。本当に見るたびに凄い剣舞になっていくわね。これじゃ、花形である私の芸が見劣りするのだけど、ねッ!!」

「そう怒るなよ。姉貴と一緒に舞っているとな、練習でも負けてたまるかとなってしまうんだよ」

「私も同じだよ。ま、それによってより良い剣舞が舞えるがな」

「そうだな。ま、朝練でも皆と一緒に練習をしているしな」

「そうだな」

「えっ?そうなの?」

 メアリーは舞を見る。

「うん、そうだよ。剣舞はあたし達にとっては剣術の基本の型だしね。それでも、あたしや更夜はまだお兄ぃ達のように舞えないけどね。がぶり姉ぇやミカ姉ぇ、ルエル姉ぇ、そして、リリカさんは舞えるわね」

 そう、ママも剣術を得意としているから、私達の基本の型を習って、剣舞も舞えるようになって来ていた。それを見ていたステラ先生は呆れていたが、それでもママは自慢げにしていた。

「あっ!?そう言っていたわね?それを元に剣舞にしたって?あなた達がこんなに華麗に舞えるのは納得だわ」

「そういう事、で、私もサトルと同じように今日から芸名を名乗る事にしたの」

「「えっ!?」」

「お姉ぇも芸名をどうして?」

「ほら、私が5大貴族だから、5大貴族が大道芸を演っていたらさ、観ている観客達が萎縮してしまうでしょう?だから、芸名を付けたのよ。芸名はルリよ」

「ルリ?何処からその芸名に?」

「私とサトルの名前を一文字ずつ取ったのよ。提案者はダンさんよ」

「えっ!?ぱ、パパが?」

「そうだよ。ダンさんもさ、私の事を様って、付けて呼ぶでしょう。そうなると、芸をする私達や観客達は白け萎縮してしまうでしょう?それが嫌だからこそ芸名を付けたのよ。芸名なら呼び捨てでも構わないしね」

「ああそうね。確かにパパが貴女を紹介する時に様と言うと観客達はどんな偉い人が大道芸を行うのか?か、えっ?火の当主様が大道芸人!?と驚くわね」

「だから、芸名が必要だったのね?」

「そういう事」

 メアリーと舞が納得していた。私達は空間を出て本番に臨む。

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