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休日 5

 私とリョウタが教会に向かっている途中に。

「そう言えば、オレ、教会に行くじたいが初めてだったな。マスターの家族は信者になっていないだろう?マスターは信者に成りたいなら構わないぞ。と、言ってくれたがな、聖達の父親が主神と分かったら成りたいと思わなくてな」

 リョウタはそう話した。

「だろうよ。私も知り合いの親を讃える宗教だなんてお断りだな。ましてやここは自分自身の父だ、ジョーダンじゃあない。誰がなるかよ」

 私がそう言うと、リョウタが突然。

「アハハハッ!!そうだな。やっぱ聖は聖だな。あの頃から変わっていないな。オレ、お前と友達で本当に良かったと思っているよ」

「なんだよ。藪から棒に?」

「お前が不良になった時に親から付き合うのを止めろと言われたんだ。しかし、オレは聖が不良になっても関係なかった。聖の本質は変わっていなかったからな。そして、これからもダチでいてくれたら嬉しい」

「フン!今更何言っているんだよ。それはお前が私達の期待を裏切らない限りはダチでいてやるよ。だから、お前は今日行ったあの店のオーナーと同じになるなよ?お前は私やパパの名前が無くとも自力でやっていけるだろう?」

 こいつにはその才能の可能性が充分にある。その才能を開花させるのはリョウタ自身だ。

「ああ。オレは世界一のパティシエに成る!そして、聖やマスターの味を超えてやる!!」

「意気込むのは良いが、お前は身体に染み付いたタバコのニオイが完全に抜けたらスタートだということを忘れるなよ?お前は他人よりもかなり重いハンデキャップがあるのだからな?パパもそのことには一切妥協はしないだろうな」

「分かっているよ。自分自身で蒔いた種だ。何年掛かろうがしっかりと刈り取るさ」

「分かっているならそれで良い」

 リョウタの目には力強いモノがあった。私はその目を信じようと思う。


 私達は教会に着き、教会の扉を開けると初老の女性が居た。その女性が、

「おや?結婚式の予約かい?」

 と、いきなり言った。

「「違う!!」」

 2人で否定した。

「おや、違うのかい?男女2人きりで来るもんだからてっきり結婚式を挙げると思ったわ」

「全く違うから。それよりもナオ川田先生はいますか?教え子が来たと言えば分かるわ」

「【あ、あんた達は日本人なのかい】」

 と、女性は日本語で話した。

「私は元日本人だよ。先生が言っていたのは貴女か?20年前にこの王国に来てしまった日本人は?」

「えっ!?に、20年前かよ…………」

 リョウタが驚いていた。

「ナオが私の事をあんた達に喋ったのかい?でも、もう日本に帰るのは諦めているよ。そして、久しぶりにナオ以外の日本人に逢えたんだ。日本語で話してくれたら嬉しかったけどねぇ」

 と、ため息を吐きながらそう言った。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私はそう言った。

「そうだねぇ。しかしね、あんた達はまだ若いから分からないわ。忘れかけた祖国の言葉を他の人から聞きたいという欲が湧いてくるのをね。まあいいさ、あんた達もいずれ私の言葉が分かる日が来るわ。ナオを呼んで来るから待ってなさい」

 そう言って女性は先生を呼びに出ていった。


「…………あの女性はたった一人でここで暮らしていたんだなぁ」

「そうだな。最初は相当苦労をしたのだろうな」

「ああ。それはオレも解る。言葉が通じないというのは相当堪えたぜ」

「そうだったな。周りもお前の言葉が分からないから、ただの騒音だったな」

 私はリョウタと再会した時の事を話した。

「そ、それは言うなよなぁ」

『ぷっ』

「「アッハハハハ」」

 2人で笑った。

「つい最近の出来事なのに、なんだか昔の出来事のようだ」

「そうだな。それだけ、お前にとってこの数ヶ月は濃い人生を歩んでいたという事だ」

「そうだな。オレもここに来てから色々とあったからな」

 私達はこの世界に来てたったの数ヶ月だが、既に色んな経験をしている。


 そして、先生がやって来た。

「山瀬さん、山瀬君、お待……た……せ……えっ?い、伊勢君!?シスターの話で男性が来ていると聴いたからてっきり………………」

 先生はまさかリョウタが来るとは思ってもいなかったようだ。

「先生に謝罪をしたいというもので連れて来ました」

「先生!!すいませんでした!!オレ、先生の事を聖から話を聴くまでずっと誤解をしていました。すいませんでした!!」

 リョウタは深々と頭を下げた。

「もうあの頃の事は良いわ。確かにあの当時は私達の話を誰も聴いてくれなかったから人間関係も嫌になったわ。そして、山瀬君が学校を辞めるようにと進言したのを私が受け入れて辞めたのも事実よ。私は担任教師として、あなた達生徒を1年間見る筈が途中で放棄してしまったのも事実で責任を感じていたわ。だから、伊勢君が謝罪する必要はないのよ。それに私達はこの異世界に来て生まれ変わったのだからね」

 そう先生は言った。

「生まれ変わった、ですか?」

「そうよ。私達はこの異世界に来て今までのしがらみが無くなったわ。ゼロからやり直せるわ。だから、私は生まれ変わったと表現したのよ。でも、嘗ての教え子が()()もこの異世界に居るとは思わなかったわね?これって凄い確率よ」

 そう言って先生は笑っていた。

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