勇者召喚 5
舞と更夜は泣くだけ泣き、しばらく待ち2人が落ち着いたのを見計らってから私の視線をユカに向けた。
「ユカ、久しぶり、悪かったな。私達の召喚に巻き込んでしまって、一通り終わったら、地球に日本に帰してあげるから」
私は巻き込まれたユカに謝罪する。本来は、ユカ以外の人間だったならば、召喚から出て来た時点で有無を言わずに母さんに念話を入れてさっさと帰す段取りをつけていたが。
「うんん。まあ、最初は驚いたけど、私、ここに残りたいわ」
ユカはとんでもない事を言った。ここに残りたいって?
「えっ?ど、どうして?ユカは向こうの暮らしがあるのでしょう?それに両親、おじさんたちも学校も」
「うんん。私、学校を辞めたのよ。それに日本に戻ってもね、私にはもう行く場所も帰る場所も無いのよ」
寂しそうに言う。
「えっ?どういう事なの?」
ユカの思ってもいない告白に私達全員が驚く。
「私の両親はね。一学期が終わる前に離婚してね。両親はお互いに別の好きな人と一緒になったのよ。そして、両親は新しい生活を送る為に私を引き取らずにあっさりと捨てたのよ。離婚した時に『私達は好き人と別々に暮らす事になった。貴女はもう高校生だから自分自身で勝手に生きなさい』って………だから、私は自分が生きるために高校を辞めざるなかったのよ。そして、途方に暮れて、聖の元に逝こうとしたのよ」
ユカは死ぬ気だったんだ…………。しかし、とんでもない両親だな。ユカをあっさりと捨てるなんて、それでも親か!!
「そう、だったのか………ま、実際に私の元に来たけどね」
「そうね。だから、私もこの世界に居させて。あそこに戻ってももう意味が無いの」
ユカが懇願した。居場所がない地球に日本に戻っても苦労をする事が判っているから、ユカは渡りに船とばかりに私達を頼った。ユカのその考え方は間違ってはいない。
「だから、あんなにも熱心に聖さんのお墓に祈っていたのですね?そして、私の勘違いではなかったのですね」
えっ?私達の墓にお参り?がぶり姉ぇ達やユカは私達の墓をお参りした時に召喚されたのか?だから………。
「ガブリエルさんは判っていたのですね?」
「はい。しかしながら、私の勘違いであって欲しいと思っていました。何故なら私は舞さん達を最優先させなければならなかったのですので、だけど、私にとっては、ユカさんが勇者召喚に巻き込まれて良かったとホッと胸をなで下ろしましたよ。じゃなかったら、気が気ではありませんでしたから」
もしかすると、ユカが来なかった場合は、がぶり姉ぇはすぐに転移魔法を使って日本に戻ったかもしれない。
「…………」
ユカは黙ってしまった。
「私はユカが死ななくて良かったと思うよ。自殺すれば、地獄に落とされるからね」
「えっ?じ、地獄に落とされる?」
「そうさ、勝手に自らの命を絶ったのだからね。有無を言わせずに閻魔大王が地獄逝きを下すのさ。あの世のルールさ。そして、二度と輪廻転生は出来ずに永遠と地獄の苦しみを味わうのさ」
「そ、そんな…………」
ユカは私の話を聞いてショックを受けていた。
「だからこそ、天使であるがぶり姉ぇは気が気ではなかったのよ。もしかするとユカが死んでしまう可能性があるが、運が悪く勇者召喚と重なってしまった。だからと言って、関係がないユカを巻き込むのも謀られると」
「そうですね。状況によっての場合は、ここに来てからすぐに転移魔法を使って、戻る算段をしていましたよ」
やはり、そうか。がぶり姉ぇも幼い頃から知っているユカを死なせたくはない。
「そうだったのですか………」
「でも、ユカさんが勇者で良かったわ」
「ああ」
「えっ?あっ!で、でも、わ、私は勇者っていう器ではないし………それに魔王となんて戦えないわ………」
「えっ?魔王?聖?魔王ってなんですか?」
クレアが質問したが、クレアの話を聴いたユカが逆に困惑して、
「えっ?この世界に居る魔王を倒す為に召喚をしたのではないの?」
と、聞き返した。ま、当たり前だな。その手のWebサイトの小説やライトノベル小説、漫画などを読んでいれば、その考え方に行き着く。
「違いますが?わたくし達の勇者召喚の目的は、この王国を他の国から守護をしてもらう為に呼んだのですよ。貴女が言う魔王という者はこの世界では確認はされていませんが、この世界は、モンスターや魔物、悪魔、魔族などの生物は存在はしていますが、今の所はそれらに関しては大事にはなってはいませんね」
クレアはそう説明した。
「ま、要するに、この王国は異世界から来た勇者が居るぞ。喧嘩を売るならば、自国が消滅をする覚悟で喧嘩を売って来い!!とのいわゆる威嚇なのさ。この世界では異世界から来た人間は皆強いと勘違いをしているようでさ、それを逆手に取ったのさ。で、魔王は悪魔や魔族達の王さ、ね?がぶり姉ぇ?」
私はがぶり姉ぇに振った。この情報は天使のがぶり姉ぇの方が詳しい。
「はい、(この宇宙では)今は六大魔王が君臨していますよ」
「そ、そんなにも魔王が居るのですか!?」
クレアがビックリしていた。私達はクレア達には言ってはいないからだ。
「はい。ま、今は戦いは小康状態ですから、大規模となる激しい戦闘はありませんね。ちなみに山瀬グループは、元々天使達の為の隠れ企業なのですよ。裏というか真の目的は地球の覇権を狙う悪魔や堕天使の討伐ですので、山瀬グループの会社は世界中に点在しているのです」
「そうだったのですか?なのに企業業績が世界ナンバーワンって?」
「それは天使達の隠れ企業と言えども、表向きは普通の企業として人間達も大勢働いていますし、地球に滞在している天使達も人間として社員として働いていますよ。私も名目は山瀬グループの社員ですから」
「えっ?ガブリエルさんも山瀬グループの社員だったのですか?」
「そうですよ。名目は、社長のお子様達のお世話をする住み込みのメイド社員ですよ」
と、がぶり姉ぇはそう言うと、ユカや舞達がその肩書きにビックリしていた。
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