最終公演 5
水芸が終わり、舞台袖に引きあげる時も、何もないところで、ぶつかり、転び、見えない壁があるようにパントマイムをやり、見えないドアを見つけて開けから袖に下がって行った。パントマイムはおまけの芸だ。
客達は最後まで笑っていた。
「あー疲れた」
メイク室の椅子にどっかりと座る。次に備えてピエロメイクを落とす。そして、着物に着替えて空間から出た。
「姉貴よ?姉貴も大道芸をやった方が良いぞ」
「確かにね。貴女も大道芸をやった方が良いわよ」
サトルとメアリーがそう言った。
「ん?何故?」
「水芸とパントマイムが凄すぎだ!というか、いつパントマイムを覚えたんだよ!俺はやった記憶が無いぞ!」
「ああ、あれね。ネタバレは見えない壁を魔法で出してさ、そこでパントマイムをやっていただけだよ」
「はぁ?」
「えっ?」
私の話を聞いて唖然となった。
「魔法でパントマイムをやったのかよ?」
「そうだよ。私はプロではないからな。補助は必要だろう?それに、元々、大道芸は魔法を使う事をタブー視しているのだろう?それを逆さに取っただけさ」
「あっ、そうね。確かに大道芸の暗黙のルールで魔法を使っての芸はヨシとしないわね」
「なるほどな?俺も芸で魔法を使おうとは思ってもいなかったな。しかも、パントマイムは結構難しい芸だ。それを魔法を使ってやるという事は思い付かなかったな」
「だろうね。しかしさ、私達は、創造魔法と想像魔法が使えるんだ。今は出来そうもない芸も工夫したら出来るようになるのさ」
「そうだったな」
「ヤジリは、今後パントマイムという芸をやるの?」
「そうだな。出来ればやりたいな。そうなれば、劇団としてやる演目が増えるだろう。しかし、パントマイムを一つの芸としてやるには時間が掛かる。姉貴のように短いモノなら良いがな」
「そうよね。どんな芸でも自分のモノにするには時間が掛かるわね」
「そうだ。たとえ、空間で練習してもな。基本を覚えて、芸として確立するには最低でも2年は掛かるな」
「そうね。私もナイフ芸を人前で見せられるようになったのはそれなりの年数が掛かったわ。そう思うとヤジリ達の剣舞は異常だわ」
「ま、前世の時から剣の型としてやって来たモノだ。それを芸の剣舞として改良しただけさ」
「その動きは私達の魂に染み付いているからね」
「魂にね?あなた達はそういう言い方ね?確か前も言っていたわね」
「そうだな。ま、普通は体が覚えていると言うが、俺達の場合はな」
「そうだね。それに私達の体は既に墓の下だからね」
「そうだな。墓の下で眠っているな」
「ま、神に成るまで、自分の墓を拝む事がないがな」
「そうだな。でも、自分の墓を拝むというモノもけっこう複雑だぜ?」
「そうだが、それは仕方ないだろう?私達は一度は死んでいるんだ。で、その墓は地球の日本という土地に眠っている。私達は神にならないと行けない場所だ」
「そうだけどな。でもな、それは、また死なないといけない事と言っているんだぜ?」
「どんな人間でもいつかは必ず死ぬよ。その生きている間に悔いがない人生を送れば良いと思う事が当たり前の事だろう」
「そうだな。俺達は突然死んだから、今生は余計にそう思うな」
「ああ。そういう事ね?しかし、自分自身のお墓参りをするのは変な気持ちかもね?」
メアリーがそう言うが。
「メアリー?貴女も神に成ったら自分の墓参りが出来るぞ」
「えっ?あっ!?」
私が指摘するとびっくりしていた。
「そうだわ。私はヤジリと一緒に成れば、死後も神になって自分自身のお墓参りが?そう思うとなんか複雑な気持ちだわ」
「そうだね。ま、貴女に死んだ後もサトルと一緒に居たいという気持ちがあればの話だけどね。未来は誰にも分からないモノだからさ」
「えっ?あなた達でも分からないの?」
びっくりした表情を見せた。私達がなんでも出来ると思っているようだ。
「分からないよ。そんな未来が分かる魔法は無いわね。創造魔法でやってみたけど、発動しなかったよ。ま、瞬間の未来予測なら出来るけど、それ以降の未来は分からないよ」
2、3秒の先の未来予測は出来るが、それ以降の未来予測が出来ない。だから、未来が見えない。
「そうなの?」
「それにさ、未来が分からない方が良いと思うわ。だって、結果が分かっていたら詰まらないでしょう?」
「そうかもね……でも、嫌な未来が分かったら回避は出来るわ」
メアリーはそう言った。メアリーは、あの雑魚帝に返り討ちに遭って死にかけた事を思い出しているのだろうね。
「確かにそうなれば便利だが、しかし、未来が分かる魔法がないから仕方ないさ。それに、災いばかりを回避をしていると更なる災いが倍となって降りかかってくるかもね」
「そうなの?」
メアリーはサトルを見た。
「ああ、因果応報というヤツか?巡りに巡って、結局は自分自身にかえって来るんだ。未来が分かって災いばかりを回避をしていると倍以上の災いが降りかかってくるかもしれないな?だから、未来は見えない方が良いかもな」
「そうなのね」
「人生はどういう事になるか、俺達にも分からない。普通に歩いていても、いきなり何かしらの原因で死んでしまう事もあるかもしれないからな。俺達もそうだったしな」
「ああ、そうね。ヤジリ達はあんな事故が無かったら、私達とは関係を持たずに違う世界で人生を送っていたわね」
「そうだな。あれが無ければ、俺達も2人になることもなかったな」
「そうだね。ま、現実に起きてしまったからな。もう過去には戻れないよ。仮に戻ったとしても、その未来の記憶が無ければなんの意味が無いな」
「そうだな。その記憶がなければ、ただの繰り返しになるだけだな」
「えっ?記憶が無い?過去にさかのぼると今までの記憶が無くなってしまうの?」
「例えばの話よ。ホラ、誰も過去に行った事がないからさ、実際にどうなるかは分からないでしょう?それは記憶があった方が良いけどさ、過去にさかのぼって、何かしらのリスクやペナルティーがないとは言い切れないでしょう」
物語や映画などは記憶を持って過去にさかのぼれたりしているが、実際はどうなるのかは分からない。もし、記憶を持ったまま過去にさかのぼった人間がいたら、その世界は実際に辿る筈だった本来の未来からがらりと変わってしまう可能性がある。それは未来予測の魔法と同じになるが、思えば私達は既にこの世界でこの王国の未来や私達に関わったマリア達の人生を変える事をかなりやっていた。
「あっ!?そうね?誰も過去に行った事がないならね。何が起こるのか分からないわね」
「そういうことだよ。それに私達が来た事で、あなた達も未来は既に変わっているわ」
「あっ!た、確かにね。私達もヤジリに出逢わなかったら、今頃、どんな人生を送っていたか分からないわね。もしかしたら、あの時に私達は死んでいたかもしれないわ」
「そうだね。たとえ、過去にさかのぼらなくっても、未来が分からなくても、どういう人達と関わるかで、私達の人生がどういう風になって行くかが瞬間的に変わってしまうのさ」
「言われてみればそうね。どんな未来になっているのかは分からないわね」
そして、私達の出番がやって来た。
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