兄さんの告白
朝練中、兄さんと組み手をやっている時に。
「なあ?」
「ん?」
「オレと付き合ってくれないか?」
兄さんがそんな事を言って来た。
「兄さん?前回言った事を忘れたのか?こんな形だけど、精神的には男だぞ?それとも、男じゃないと愛せないのか?」
俺は少し皮肉る。俺と付き合ってもろくな事もないよ。
「そうじゃない。オレはお前の事を女と見ているんだ。それにオレは男のお前は知らないぞ」
「ああ、そうだったね?兄さんは男の俺は知らなかったな?」
そういえば、そうだったな?兄さんは俺の男姿を知らなかった。ただ俺が男だったと言っているだけだった。
「そうだ。それに一目惚れだと言ったぞ?」
「男だと言っても意思は変わっていないか?イヤ、変わらなかったのか?」
「そうだよ。この王国でも、女でも男っぽいヤツは居るしな?それと前世が男だっただけで、今生は女だろ?なにが可笑しいんだ?もし、お前が男の体から女の体に変わったなら、オレは言い寄らない。そんな趣味はないからな?」
兄さんは真剣な表情で言った。
「あー?そうだね?確かに俺は今生は女だな。前世の男の記憶を持っているだけで」
「だろう?それに今の聖に男の性器があるのか?」
オーイ?なんていうこと言うんだ?まあ、前世が男だったからな。気にしないが。
「無いよ。あったら怖いし、俺も感覚で直ぐに判るし、最初にお風呂に入ったマリアが驚くよ」
「だろう?今のお前は、正真正銘の女だよ。お前がまだ男の意識がある事は分かっている。おそらく、オレがそうなったら、お前と同じような事になっていると思う。しかし、オレはお前に惚れてしまったんだよ。お前を誰にも渡したくは無いんだ」
兄さんがプロポーズともとれる発言をした。
「そうなのか?しかし、マリアやリクも俺に惚れているけど?もう百合百合だよ?」
しかし、俺はごまかした。急に言われては恥ずかしい。
「お前はどう思っているんだよ?」
「そうだね?姉として付き合っているよ。マリアやリクが本気で好きな人が出来るまでね?それが俺なら受け入れるよ。けどさ、マリアもリクもまだまだ時間があるしさ、今後はどうなるかは判らないでしょう?」
これは本音だ。マリアとリクは俺の事を本気で好意を持っているのは分かっているが、俺に執着するよりも、より良い異性がいたらそちらに行ったら良いと思っている。それが自然な事だから。
「そうだな?ならばオレも受け入れてくれ」
「それは違うと思うよ」
「何故?」
「恋ってさ。お互いに好きにならないと恋にならないでしょう?お互いに恋が無いならそれは単なる政略結婚と同じでしょう?俺に対しての兄さんとの恋と、マリアやリクのと恋は違うと思うよ?それに俺は兄さんの事はまだ兄さんと見ているし、マリアとリクも妹と見ているよ。まだまだ、恋人とは言えないレベルだよ。ま、お互いに付き合って、今後どう発展していくのかは判らないけどね?」
「えっ?遠回しに言っておいてOKなのか?」
兄さんが気付いた。マリアとリクを受け入れると言ったのに兄さんを拒否するのは可笑しい。なら、付き合った方が良いし、それでダメなら、別れれば良いからな。これは相性もあるから仕方ない事だ。
「まあね?それに前世を含めて、異性と付き合うのがこれが初めてだからな?」
「そうなのか?意外だな?」
「意外でもなんともないよ。俺はついこの前までは中等部だった。それに引きこもりをやり不良までやったからな?そんな俺に付き合う女がいると思う?」
「あっ!?普通はいないな?もし付き合うのは同じ不良の女だな?」
「だろう?しかし、俺は先公共に言われただけだ。私生活では不良ではないからな。至って普通だ。そんな俺が不良女と付き合う筈がない」
「そうだな。オレも不良だからといって同じ不良女と付き合ってないな」
「でしょう?まあ、元不良同士だ。どうなるかは、付き合ってみてからだね?」
「そうだな。でも、俺達の相性は良いと思うぞ?」
「そうかな?」
「そこは肯定しろよな!」
「そうなの?」
「そうだよ!!」
ともあれ、俺は兄さんと付き合う事になった。ま、どうなるかは本当に判らないが、何事も経験だな。




