宮殿に向けて
馬車が走っていると、多少揺れる。まあ、道は舗装していない所を走っているから、揺れても当たり前だ。
「結構揺れるな?」
「そうですね?馬車って意外と揺れるモノなのですね?」
「それが馬車の醍醐味という人間もいますよ?」
「それにこの馬車は我が王国の最高峰の職人技術で造られた馬車です。衝撃クッションも最高峰ですよ」
「そうですか?でも」
パチンと俺が指を鳴らすと、揺れが収まる。
「えっ?揺れていない?い、一体?」
「クッションを替えただけだよ。揺れが酷いと酔ってしまうから」
車酔いならぬ馬車酔いだ。俺は地球に日本に住んでいたが、普段から父さん達が居なかった為に自動車という乗り物はあまり乗った事がなく、たまに長い時間で乗ると酔ってしまう。馬車の揺れは、思ってた以上にかなり酷いのでそれを懸念しての事だ。
「お姉さま?さっきから酔うと言っていましたが、それはなんですか?まさか?お姉さまは私達に隠れてお酒を飲んで?」
「そんなわけがないでしょう!乗り物酔いだよ。こういう物に乗っていると、その揺れで耳の三半規管がやられて、気持ち悪くなってしまうのよ。そういうのよ酔ってしまうというのよ」
「そうなのですか?私は今まで歩きオンリーでしたので知りませんでした」
「す、凄い………全く馬車が揺れないとは………あ、貴女は一体?」
「学園の生徒ですが?」
「い、いえ、わたくしが言いたいのは」
「陛下から言われませんでしたか?何が起きようが冷静な対応をしろと?」
「うっ?た、確かに言われましたが、どうして、判るのですか?」
「なんとなくですよ。おそらく、陛下はそう言うだろうなと。そのぐらいですよ」
もっと言えば、俺は神の子供だから、突拍子もない事をやってしまうと予測をして念の為に言ったと思う。
馬車は市民エリアを抜けて、貴族エリアに入る。
貴族エリアの街並みはただ見栄がある屋敷がずらりと並んでいるだけで、店は一軒も無い。まあ、こんな所で商売やっていれば、貴族御用達の店となるが、家賃がバカ高いだろうな?ならば貴族御用達の店でも市民エリアの方で商売をやった方が得だな。
その貴族エリアを抜けるといよいよ宮殿が見えてくるが、真ん中に座っている俺とリクは見られない。まあ、馬車から降りればイヤでも見られるからな。
馬車は、宮殿前の門に止まり、門番の兵士達にチェックを受けてから更に進む。
門をくぐってから馬車で10分ぐらい乗ったか?漸く着いた。道のり長いよ。
「宮殿の門前に到着しました」
御者が言う。
「では、降りて下さい」
遣いの人が、先に降りて促した。
「もう着いたのですか?私はまだ乗っていたかったのですが?」
「また乗れる時があるよ」
「そうですね」
「降りましょう」
俺達は馬車から降りて見回す。王族が住んでいる宮殿であって敷地面積が東京ドーム10個分が余裕で入る位の広大だ。
遣いの人の先頭に門を開くと、その先に陛下と王妃様が待っていた。
これには俺達も驚いた。まさか、2人がわざわざ表まで出迎えてくるとは。
「ようこそ、我が宮殿へ」
「歓迎いたしますわ。ここからは、わたくし達がご案内いたしますわ」
2人共、俺達に頭を下げる。
この国のトップが頭を下げちゃうなんてな。
「へ、陛下、王妃様が何故ここに?どんなVIPの人物だろうが、ここには………しかも頭を下げるなんて………」
遣いの人があたふたしていた。
「ここに居る御方は、我が王国でも重要となる人物だ。だから、余自ら来たのだ」
「そ、それほどの人物だったとは………」
遣いの人は俺達を見ながらびっくりしていた。