部屋でくつろぐ12~料理長の料理の事情~
お盆休み中は7時に更新します。
ああ、そうだったな?この料理長だけが俺達の正体を知らなかったのだったな?
「料理長。こちらの方々は神聖王様と王妃様です。そして、この料理を提供した聖は神聖王様達の子供ですよ」
「…………えっ?本当ですか?」
「ええ、ウソは言いませんよ」
エリサの話を聞いて料理長の顔色がさーっと、蒼くなり。俺に向かって土下座をして。
「申し訳ございませんでした。これまでのご無礼をお許し下さい!!」
頭が床に付く位に下げていた。
「別に良いよ。貴女は俺達の事は知らないしな?それに、エリサの事を大切にしている事も判るが、あの料理を毎日食べるのは地獄になるな」
「うっ………しかし、決まりですから………」
「貴女は料理長でしょう?ここの責任者だ!エリサが違った料理を食べたいと言えば、貴女が責任を持って、料理を代えれば良いだけだろう?それに上に言われても、その上が貴女の料理を食べる訳ではない。食べるのはエリサや執事、メイドの働いている人達だろう?それとも、その味の料理しか作れないのか?」
「うっ!そ、それは………」
言葉に詰まる。
「作れないのか?それとも、その料理の味にしか出せなくなったのか?」
「………出せません。長年、その味ばかり作ってきましたから………入った時に王家の味として叩き込まれました。そして、この味が最高の味と教え込まれました。いつの間にか、自分の味を忘れてしまいました……」
料理長は俯いていた。
「なるほどな?仮にエリサが貴女にリクエストをしても作れたくても作れなかったと?」
「はい………それに味を変える事は禁止と決まってますから。勝手に味を変えてしまうと、他の料理人達との調和が取れなくなりますから、どの料理人も同じレベルの味にしろという事です」
「それは、晩餐会や大きなパーティーがあった場合の事ですね?」
エリサが言った。
「はいそうです。それらのパーティーでは大量の同じ料理を作りますから、1人でも、違った味になると、不味い料理になります。私達、宮廷料理人は、そう仕込まれていました」
「だから、聖は料理長の料理をレストランと言った訳ね。そして、私達、王家は、大掛かりのパーティーの為の味見係りね」
「そういう事ですね。私達の所も似たような事でクビにしましたよ」
母さんが言った。
「ああ、そうだったな。で、今はどうしているの?」
「今は一般の天使達を雇っていますよ。素朴で家庭料理で美味しいですよ。ね?」
「ああ、そうだな。豪華さはないが前よりも旨い料理だぞ。聖が指摘したそうだな」
「まあね。がぶり姉ぇの味と比べるとかなり落ちているし、やはり、レストランで食べている味なんだよね?ま、その人達が、その味の料理で良いなら良いけどさ。毎回、メニューが違っていても、そのメニューがいつも同じ味だと、普通は飽きるでしょう?それに同じ料理で同じ味ばかりだと味音痴にもなるしね」
「確かにね。アレ?前と違う?という事が無いものね」
「そうなると私達の方が大問題になりますから………そして、犯人探しから始まって、その犯人に料理の再教育指導がありますし、私達も月一度に宮殿の調理場に行って、その味が変わっていないかの実施テストがあります」
「大変だわ」
「はい、大変です………」
「ならさ、それら以外の料理で作れば良いでしょう。別に料理なら色々とあるでしょう?それで、貴女の独自の味を復活させれば良いしね」
「そうね。私は文句は言わないわよ。私だって、料理長が作る違った料理や味とか食べたいモノ」
「えっ?本当ですか!?」
「勿論よ。初等部の頃に当時の料理長に言ったら出来ないと断れた事があるのよ。それ以来、私も言わなかったけどね?聖がこうして、美味しい料理を作るからさ、私も色々な味の料理を食べたいのよ。だから、さっき食べた料理もそうよ。私はまた食べたいわ」
「ありがとう。また作るよ」
「お願いね」
「あっ!また食べたいと言う言葉は、私がこの世界に入ってから全く聞いたことがなかった言葉です………私はいつからただ料理を作るだけになってしまったの?私はいつから家庭料理を否定するようになってしまったの?私の料理の原点は、母の料理だった筈なのに…………」
「それを思い出したなら、貴女は更に良い料理人に成れますよ」
母さんが言った。
料理長は泣きながら「ありがとうございます」と言っていた。