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うろ覚え魔道士で異世界転移!  作者: わらびみるく
8/31

8 チュロス

教えてもらった宿に入って、一息つく。


一泊銀貨五枚、四畳くらいの部屋に、ベッドが一つだけ。朝食サービスあり。お風呂なし。


私の残り所持金、銀貨八枚。


確か、地方の朝食付きシングルが八千円くらいだったから、狭さとお風呂無しって事を考えると、銀貨一枚千円くらいだろうか。一月五千円のお小遣いで暮らしていた私にとって、八千円はなかなかに大金である。


だった。


だったはずなのに、どうしてか一瞬で五千円がとけていく。


昼夜の食事も合わせたら、この所持金では後一日持たないかもしれない。お金のことなんて気にせずに武器強化していた一年前の私が恨めしい。


とりあえず、お金が欲しいなら、何か売らないとだよね。さっきはどたばたであんまり確認できなかったリュックの中身を、今度こそ見てみる。


身分証を作ってもらってる間、リリーからいろいろ教えてもらった。まず、私は冒険者の中ではかなり強い方だということ。次に、依頼の受け方とか。最後に、この町の地理。お店とか、門の場所とか、そういうの。


でもねー。私、一夜にしてホームレスになった時点で、ちょっとショックが大きいのです。あんまり実感がわかないけど、元の世界に帰れるまでは私に家は無いのだ。ついでに、私にご飯を食べさせてくれる人もいない。家族もいない。もちろん友達だって全滅だ。


なんか寂しい。



しばらく悩んだ後、魔水晶と樫の杖を売ることに決めて、教えてもらった質屋に向かう。途中、お昼も食べたいな。


町を歩くと、そこは一昨日までの世界とまるで違っていた。まず、道路が舗装されてない。それと子供の姿がよく目につく。彼らは、真昼間から元気に追いかけっこをしていた。学校とかないのかな?


私もそんなこと言えた立場じゃないけど。既に二日間高校を無断欠席している。二日連続程度ならまだ、いつも通りの高村で済ませられるけど、これがもっと長引くとちょっと困る。私は留年ギリギリまで欠席するタイプなのだ。まだ十月の半ばだし、冬休みを一ヶ月くらいに伸ばすためにも休みは温存しておきたい。


うあー。

歩いていると、町の人からものすごい見られる。どうも余所者が珍しいらしい。結構大きな町だと思ってたんだけど、多分年が若いせいかな?旅人とも思えないし、見覚えはないしで不思議に思われているのだろう。


宿屋を出て右に曲がり、少しまっすぐ歩いた後、白い建物の角で今度は左に曲がる。


こうやって知らないところを歩いていると、中学生の頃よくやってた探検を思い出す。どこまででも百円のバスに乗って、適当なところで降りて、そこから歩いて帰る遊びだ。もちろん地図、番地のカンニングは禁止。大体の方角と、土地の高低差で見当をつけながら、夕飯までに家に着くように寄り道しながら歩く。私は市内でも結構都会の方に住んでいたので、バスに長く乗っていると市の反対側の、畑が多い地域に出たりして面白かった。


白い建物で曲がった後、すぐにまた左に曲がる。ちょうど、宿屋の向かいの建物の裏に出た感じだろうか。この辺はお店が多くて、とても賑わっている。


一番楽しかったのは、丸一日使って探検した日のことだ。いつものバスを降りた後、もう一度他のバスに乗って、隣町の方まで遠征した。いつも二時頃から始めていたから、その日は太陽の位置での方角確認を間違えて大変なことになったっけ。西と東が逆転してしまったのだ、危うく帰れなくなるところだった。途中、イタリア料理のお店に入って、包み焼きピザというのを食べた。チーズがとろっとろで、とっても美味しかった。デザートに日替わりのケーキも頼んだ。あれだけ食べて千五百円しなかったのには驚いたなぁ。あれ以来、ピザ屋に行くと毎回包み焼きピザを探してしまうのだけれど、なかなか見つからない。


元気のいいおじさんが客引きをしている八百屋を過ぎて、三つ目の交差点で右に曲がる。後は道なりにまっすぐと聞いた。みんな、優しそうな顔をした人ばかりで、なんだか安心した。誰かと話している人が多いからだろうか、笑った顔をよく見かける気がする。


探検していると、ちょっと危ない出来事もあった。夏場、暑くて仕方がなかったので、サンダルで探検したのだ。しばらくすると、足が痛くなって、歩けなくなってしまった。アイスを買って公園で休んだ後、命からがらなんとか見つけたバス停でバスを待ち、三十分してバスが来た時は嬉しくて泣きそうになった。たくさん歩く日は、サンダルではいけない。きちんとした靴を履かないと、痛い思いをする。私が身をもって学んだ事だ。


八百屋を曲がった後は、緩やかに左にカーブしている道を進んだ。途中美味しそうなチュロス屋さんがあったので、シナモン味を一本買って食べる。市民プールに行ったら毎回これを買っていた。異世界を歩きながら食べるチュロスは格別で、私は元気よく先に歩んだ。



そして今、私は宿屋の前で首を捻っている。


ふーむ。


あの後カーブが終わって、でっかい通りに合流したと思ったら、ここに戻って来ていた。


あれかな?幻の質屋ってやつ?


チュロス片手に考える。


とりあえず。見逃し確認、もう一周。



十数分後、宿屋の前には短くなったシナモン味のチュロスと、これも少しかじられたチョコ味のチュロスを持った私の姿があった。




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