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うろ覚え魔道士で異世界転移!  作者: わらびみるく
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5 森の拠点

薄暗い部屋の中、三人の男女が向かい合っている。


高村郁代が眠ってから、しばらく経った後。取り調べ室から少し離れた、この建物のリビングのような場所だ。


一人は、筋肉質な男。顔に傷のあるドノヴァン。向かいのソファに腰掛けているのが、彼らの中では最も魔法に詳しいセオドルフ。そして、その隣に座っているのが、ケモ耳の少女、リリーである。


みんな、疲れた様子を隠すこともなく、背もたれに体を預けてぐったりしていた。


それもそのはず。彼らは、ほとんど丸一日、北の森で起きた強い魔力反応の調査と、そこに現れた不審者への対応に忙しかった。特に後者は、予期しない遭遇であったため、不十分な装備で臨むことになったのだ。


しかし、彼らはまだ寝ようとはしていなかった。時間がかかった割には大した抵抗もなく降参した、不審者についての情報共有が先だと判断していたからだ。


じゃんけんに負けて木の椅子に座ることになったドノヴァンが、天井に顔を向けたまま口を開いた。


「なあ、あいつは一体、なんなんだろうな?」

「多分、どこかのお嬢様じゃないでしょうか?かなり高級な服を着ていましたよ。一度も人に向けては魔法を使わなかったってところも、人との戦闘に慣れてなさそうですし」


尻尾をゆっくり揺らしながら、リリーが答える。もう眠いのだろう。早く終わんないかなって、少し苛立っている様子がわかる。


リリーの様子など気にせず、ドノヴァンがまた話す。


「あいつには、おかしなところが三つある。一つ目は高すぎるレベル。二つ目はおよそ戦闘向きではない性格。三つ目は、未だこの森に来た理由を明かさないこと。どうだ、違うかな?」

「まあ、合ってはいると思いますけど……。私の言ってる高級な服は、その三つのどれに当てはまるんですか?」

「あー、どうなんだろうな。セオドルフ、あの服って戦闘向きか?」


話を振られたセオドルフは、ソファから少し体を起こして、不機嫌さを隠そうともせず答えた。少し痩せている、眼鏡をかけた陰気な若者だ。


「あの小さなマントから解析しようと言うんですか?分かりませんよ。分かるわけがないじゃないですか。そもそも、マントと服は別物です。素材も多分違います。高級っていうのは両方に当てはまるかもしれませんが、近づいて見たことすらない服が戦闘向きかどうかなんて、僕の領分じゃありません」

「ならマントはどうだったんだ?落ちていたのを拾って、これは多分、あの魔術師のものだ!って言ったのはお前だろ?」

「マントだけで言うなら……。一応、一通りの保護魔法がかけてあります。ほら、騎士団が使うような高級品と同じです。他に、強化した跡もあることにはあります。こっちについては、僕の専門じゃありません。町に戻ってから、防具屋にでも聞いてください」


それだけ言い終わると、セオドルフはまた、ソファに体を預けた。


ドノヴァンが、あごをさわりながら、うむむとうなった。その様子を見たリリーは、ため息をついた。リリーは、ドノヴァンがあごをさわり始めるのは、結論が出るまで考え続けると決心した時だと知っていた。こうなると、話し合いはなかなか終わらず、ドノヴァンはお世辞にも良いとは言えない頭の中で、問題をこねくり回し始めるのだ。たちの悪いことにドノヴァンには、何か物を考える時によく人に問いかける癖があった。もしそれに答えないと、ドノヴァンはたちまち不機嫌になって、その大きな体で部屋中を足で踏みならして歩き始めるのだ。


十数秒、ドノヴァンが目玉をぎょろぎょろ回しながら考えた後、彼はまたリリーに言った。


「うん。どちらにせよ、かなり本格的に魔法を使える貴族だっているわけだ。魔法が使えるってことと、貴族であるって事は矛盾しない。そうだな?」

「はい。それはそうですね」


リリーは、自分が言った高級な服を着ているという特徴が、ドノヴァンが提唱した三つの謎のどれに当てはまるのか知りたかったが、これ以上話が長引くのは避けたかった。リリーの尻尾の動きは少し早くなった。何かしたい事をこらえている時、尻尾はいつも早く動いた。それで、リリーが何かをしたいと思っていると、みんなそれに気がつく事が出来た。でも、ドノヴァンは尻尾をちらりと見たきりで、リリーの疑問には答えなかった。


しばらくして、またドノヴァンが口を開いた。既にセオドルフは眠っていて、リリーだけが彼の話を聞いていた。


「問題なのは、あいつが何をしにここに来たのかということだな。仮に、ただこの森に迷い込んだだけなら、別に取り押さえる必要も無かったわけだ。ところがやつは、セオドルフの召喚犬を焼き殺した後、我々の姿を見て逃げ出した。ここに疑問があるんだ。もし仮に、やつが我々に危害を加えようとする目的で召喚犬を殺したなら、我々と人数差があるとは言え、レベルが三十も違うのだから、おそらく五分もしないうちに我々は全滅していただろう。でも、やつは逃げ出したんだ。何がしたかったのか、全くわからん」


リリーは、机のでこぼこを眺めてじっとしていた。時折、尻尾がぱたぱた動くほかは、石になったように動かなかった。ネコべミケの事について考えていた。


リリーは、彼女は不思議な存在だと思った。ドノヴァンを、後一歩で騙せるところまで来ていたからだ。ドノヴァンは、その鍛え上げた肉体と同じくらい、嘘を瞬時に見破る直感で有名だった。彼の前で偽の報告が出来る人はいなかった。その彼が、少し怒鳴られたら泣いてしまうような少女に騙されたのだ。ドノヴァンが怒鳴ったのも無理はないと思っていた。


ドノヴァンは、同意を求めて二人を見たけれど、何も反応がないのを見て、少し不機嫌になった。


その後、少しの間何やら話していたけれど、いつのまにかみんな寝ていた。




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