同級生
読んで戴けたら、倖せです。
次の日の朝、逢魏都とアシュラはバス停でバスを待っていた。
隣街方面へ行くバスが来て、降りて来た乗客に逢魏都が手伝いに行っている農家の富山さんの奥さんが買い物袋を手に降りて来た。
富山さんの奥さんは降りかけに逢魏都とアシュラを見て、逢魏都に言った。
「あら、逢魏都ちゃんの彼氏かい? 」
逢魏都は奥さんを見ず、無表情で俯いたまま一礼してバスに乗り込んだ。
『ひえー、何この温度差』
アシュラはあまりの逢魏都の変わりように驚いた。
バスの中で逢魏都は俯いたまま終始無言で、話掛けるなオーラを放出していた。
『恐るべき二重人格』
アシュラは深いため息をついて黙っていた。
兼城の動物病院は駅前のバス停を降りて二、三百メートルほど歩いた場所に在った。
クリーム色の壁の、新しい建物に入って行った。
兼城の動物病院は家畜専用と言っても動物病院が街に何軒も無いので、午前中は普通にペットの受診も請け負っていた。
中に入るとペルシャ猫を連れた老婆と、パピヨンを連れた女性が待合室で順番を待っていた。
ゴールデンレトリバーが飼い主と診察室から出て来るとカウンターの向こう側に兼城が姿を現した。
兼城はアシュラを見ると一瞬眉をしかめた。
逢魏都の姿を認めると言った。
「逢魏都ちゃん、どうしたの?
隣の彼氏は逢魏都ちゃんのペットかい?
珍しいね、うちに来るなんて」
兼城はそう言って笑った。
『人をペット扱いするな! 』
アシュラはムッとした。
逢魏都は俯いたまま目だけで兼城を一瞥すると、あらぬ方向を見てボソリと言った。
「訊きたい事があって」
「へえ、何かな?
ちょっと待っててくれる? 」
兼城はそう言うとゴールデンレトリバーの飼い主の会計を済ませ、次の患者を呼んだ。
待合室の患者が皆捌けてから、兼城は改めて逢魏都に声を掛けた。
「こんな処じゃなんだから、奥のリビングで話そうか」
通されたリビングは日当たりが良く清潔な感じがした。
兼城は二人にソファーに座る様に促すとキッチンに消えた。
アシュラはキッチンに向かって声を掛けた。
「お構いなくー! 」
冷蔵庫の閉まる音がして兼城はキッチンから出て来た。
二人の前に缶のコーヒーを置くと並んで座る逢魏都とアシュラの前のソファーに腰を下ろした。
「男のやもめ暮らしだから缶コーヒーで我慢してね」
そう言って兼城は笑った。
「で、彼氏連れてどうしたの? 」
逢魏都が俯いて黙っているので、アシュラが言った。
「実はボク彼氏じゃなくて、山で逢魏都さんに拾われたんです」
「山で拾われたって?
それはどういう......? 」
兼城は目を丸くした。
「言葉の通りです
山で気を失っている処を逢魏都さんに見つけられて、今逢魏都さんの家に厄介になってるんですけど、ボク、記憶を失くしていて家に帰ろうにも帰れなくて」
兼城は膝に肘をつき、前屈みになってアシュラを見て言った。
「気の毒な話だけど、それと僕にどういう関係が? 」
アシュラは遠慮がちに言った。
「昨日、ボクを見たあなたがボクを知っているような感じだったって逢魏都さんから聞いて、もし何か知っているのなら教えて欲しいと思いました
ボクは藁にもすがる思いなんです」
兼城はソファーの背凭れに背中を預け言った。
「残念だけど、僕が知っているのは君じゃない
君によく似ている人を知っているだけだよ」
アシュラは身を乗り出した。
「それは誰なんですか? 」
「それを知って君はどうしたいの? 」
逢魏都は上目遣いで二人のやりとりを聞いていた。
アシュラは言った。
「その人、ボクと似ていたのなら、兄弟とか血縁関係にある人かも知れない」
「なるほど......
彼に兄弟が居たとは聞いたことは無いけど」
「その人は誰なんですか? 」
「僕の同級生だよ、高校の時の」
アシュラは微かに微笑んだ。
「その人が今何処に居るか解りますか? 」
「それが解らないんだ」
アシュラは眼光に力が籠るのを感じた。
「それは何故ですか? 」
「高校二年のある日、突然行方不明になったんだ
もう、二十年も前のことだよ」
逢魏都は思わず顔をあげ、アシュラを見た。
アシュラは背筋を伸ばして無表情で兼城を見詰めていた。
「その人の名前は.....? 」
「天野総史、聞き憶えはあるかい? 」
アシュラは俯いて首を振った。
「その人の家は.....? 」
「確か卒業写真に載ってたと思うけど」
兼城は立ち上がった。
「ちょっと待ってて、すぐ出せると思うから」
兼城は隣の部屋に消えると直ぐに卒業写真を持ってパラパラと捲りながら戻って来た。
そして、写真集を開いてアシュラに差し出した。
「これが天野総史だよ」
一枚の写真を指した。
逢魏都も覗き込んだ。
逢魏都は写真を見て思わず言った。
「アシュラそっくり......」
アシュラはそれを見て歯を噛み締め、落ち着いてから言った。
「行方不明の原因は解らないんですか? 」
兼城はボールペンとメモ用紙を逢魏都に渡しながら言った。
「それが解れば、探しようもあったんじゃないかな」
逢魏都はそれを受け取ると手早く住所と電話番号を書き写した。
「近辺の山を捜索したり、ビラを撒いたりして随分探したんだけどね
未だに見付からないんだ」
アシュラは言った。
「あなたと彼は、仲が良かったんですか? 」
兼城は不自然な間をおいて答えた。
「いいや、あまり話したことは無いかな」
アシュラは逢魏都がメモを書き終えたのを確認すると立ち上がった。
「お仕事のお邪魔をしてすみません
色々有り難うございました
ボクら、これで失礼します」
兼城も立ち上がって言った。
「何かの役に立てばいいけどね」
アシュラが一礼すると逢魏都もならって頭を下げ二人は動物病院を出た。
歩き出すとアシュラは逢魏都に言った。
「あいつ、何か知ってるよ
絶対、何か隠してる」
逢魏都がアシュラの顔を覗き見ると、アシュラは鋭い視線を動物病院に向けていた。
二人は気付いていなかったが、兼城が二階の窓から隠れるようにして、二人が見えなくなるまで見詰めていた。
読んで戴き有り難うございます。
たまにですが、私の作品を漁りに来て下さる人がいて、それが何で解るかと言うとアクセス解析の青い線が同じ時間帯についていたりするので解るんですよね。
古い過去の作品はあまり読まれないので、青い線が付くとどういう人なのか察しがつきやすいんです。笑
私の作品、ノーマルラブとボーイズラブがあって、読んで下さる方が別れるみたいです。
でも、別の別れ方あって、暗い作品を好む方と比較的明るい作品好む方と別れたりしてます。
活字中毒の娘には、「明るい作品と暗い作品のギャップ在りすぎて、二重人格っておもわれてるんじゃない❔」とか言われてます。
んーー、そうなんだろうか( -_・)?
青い線見ながら、どんな人が読んで下さってるのかなあって、想像するのも楽しいです。
「エコラリア」とか「壊れた緋色」とか、もう暗いの極みな作品に青い線が付いてると読んで下さった人、大丈夫だろうかと心配になります。
二つとも、救いない内容ですからねえ。
「エコラリア」には、神経の弱いかた注意って、あらすじに注意書き入ってるくらいひどいですから。笑
とにもかくにも、読んで戴けるのは嬉しいし有難いです。
今日も読みに来て下さって、有り難うございました。
m(_ _)m