釈迦
読んで戴けたら嬉しいです。
「ちょっとお、晩ごはんの支度してよお
ボク、肉体労働で腹ペコなんだ! 」
「肉体労働って、草むしりしてただけじゃない
いいから、逢ってよ
ワタシの家族に」
「家族? 」
アシュラは逢魏都に手を引かれ納屋に連れて行かれた。
納屋の戸を開けると牛と羊と鶏の視線が珍しそうにアシュラに集中した。
逢魏都は牛の傍に寄ると牛の頬を撫でた。
「みんな、昨日話した勇敢なわんくんだよお
アシュラ、紹介するね
この子が今朝の牛乳を提供してくれた舎利拂
この子が阿育王
そして、この鶏ちゃんが今朝の目玉焼きの玉子を提供してくれた目連尊者」
それぞれの囲いに入った家畜たちを指差して言った。
「なにそれ、名前? 」
アシュラは目を丸くした。
逢魏都はドヤ顔で言った。
「舎利拂と目連尊者は釈迦のお弟子の名前
阿育王は前世で釈迦に泥団子をご供養してその功徳で阿育王に生まれ変わったんだよ」
アシュラは訝しげな顔で言った。
「逢魏都って、釈迦マニア? 」
「うん、マニアじゃ無いけどお釈迦様好き」
逢魏都は微笑んだ。
木製の壁に凭れて腕を組みアシュラは言った。
「変わってるとは思ってたけど、ここまで変わってるとは思わなかった
その若さで尼さん志望? 」
「あら、尼さんじゃ無かったら釈迦を好きになっちゃいけないの?
この世に仏として生まれ落ちた仏の中の仏だよ」
逢魏都は阿育王の頬を撫でながら言った。
「釈迦が法を説き始めたのは何故だと思う?
それはわね、天災や飢饉や疫病で苦しんでいる人々を倖せにする為なんだよ
凄いと思わない?
ロマンよね
ね、阿闍世王」
逢魏都は阿育王に微笑み掛けた。
アシュラはフッと笑顔が漏れた。
「なんだか逢魏都がコミ障なの解った気がする
要するに、逢魏都は人を愛したいんだ
でも人間は余りに自分勝手過ぎて愛せないのが、哀しいんだね
仏なら、人間の愚かさを慈悲で許す事ができる」
「分析されるとは思わなかった」
逢魏都は肩をすくめた。
「って言うか、今時の高校生の言葉とは思えないんだけど」
「ボクが高校生だったのは、多分何年も前だと思う
狼になった時からボクの時間は止まってしまったんだ」
「時間が........
あ.........」
逢魏都は急に思い出して、手を口にあてた。
「どうしたの? 」
「今、思い出したんだけど
さっき、あいつ........」
「さっき、逢魏都と話してた奴だね
あいつがどうかした? 」
「アシュラを見て、変なこと口走ってた
確か、あまの、そんな莫迦《ばか》なって......」
逢魏都の言葉にアシュラは顎に指をあてて考え込んだ。
「あいつ、ボクを見てそう言ったんだ? 」
逢魏都は頷いた。
「もしかしたら、あいつボクを知ってるのかも.......
正確には昔のボク」
アシュラはじっと逢魏都を見詰めた。
逢魏都は慌てて言った。
「ダメダメダメダメダメダメ!
絶対無理だから! 」
アシュラは肩をガックリ落とした。
「頼むよお
逢魏都だけが頼みの綱なんだ」
「だいたい、なんて訊くのよお
もと人間の狼少年知りませんかとか訊いちゃう訳? 」
「それじゃ、ボクが嘘つきみたいじゃん!
じゃなくてえ
ボクをあいつに引き逢わせてくれるだけでいいから」
「引き逢わせるって言ったって......
どう言えばいいの?
それに、なんて訊くつもりなの?
ボク知りませんかって、訊くの?
いいともが終わって何年も経ってるのに、十七歳のままなのは不自然じゃない? 」
アシュラは閉口して俯いた。
暫くの間、静寂がながれた。
逢魏都はアシュラの言葉を待った。
アシュラはおもむろに口を開いた。
「一人ぼっちなのが辛いんだ
山でたった一人なのは淋し過ぎるよ
姿は狼だけど気持ちは人間で、色んなもの感じてるんだ
凄く惨めだ........
だから、知って戻りたい
人間に戻る方法を知って、家族のもとへ帰りたい」
逢魏都は目を伏せて黙った
舎利拂がもおーと啼き、阿育王もめえーと啼き、目連尊者がコッコッコッコッと啼きながら走り回った。
暫くして逢魏都はアシュラを見た。
「引き合わせるだけでいいの? 」
アシュラは頷いた。
「解った.......
なんとかやってみるけど、あまり期待しないで、本っと嫌なんだから」
アシュラの顔に笑みが零れた。
「有り難う、逢魏都」
読んで戴き有り難うございます。
死んでます。
おやすみなさ。orz