狼
読んで戴けたら倖せです。
銀色の犬は小首を傾げ逢魏都を見詰めていた。
「犬、犬.......犬が喋った! 」
逢魏都はあわあわと後退りした。
「犬じゃ無い!
お·お·か·み、狼だよ」
狼はシチューを見て言った。
「酷いな、だまになってる」
上半身を起こしてシチューを一口食べて、狼は言った。
「味は悪く無いね」
狼はシチューを食べ始めた。
逢魏都の思考力は停止して、呆然とその様子に見入った。
暫く見ている内に落ち着きを取り戻し、逢魏都は呟いた。
「犬が喋るって、ソ○トバンクのお父さん犬だけかと思ってた.......」
狼は顔を上げて言った。
「おかわり」
逢魏都は狼に近付いて手を差し出した。
狼は逢魏都の手の上に手を置いた。
「.............」
白い空気が流れた。
「だからあ、ボクは犬じゃ無いってば!
シチューのお代わりちょうだい! 」
逢魏都は笑って頭を掻いた。
「そっちかあ」
逢魏都が薪ストーブの上の鍋からシチューを装って振り返ると狼は窓を見上げていた。
狼は振り返って言った。
「ねえ、今夜は満月? 」
逢魏都は肩を竦めた。
「解んない」
逢魏都が床に皿を置くと狼は戻って来てシチューを食べ始めた。
逢魏都はその様子を見守った。
不意に狼は顔を上げて言った。
「ねえ、おばさんは食べないの?
おばさんの冷めちゃってるんじゃない? 」
「おばさん!?
失礼ね、ワタシまだ二十五になったばかりだよ
犬に、おばさん呼ばわりされる憶えない」
狼は耳をピクリと立てて言った。
「二十五なんて、やっぱおばさんじゃん
ボク十七歳、花の十代だもんねー
それと、何度も言うけどボクは犬じゃなくて狼、お·お·か·み
もとは人間だけど......」
「人間? 」
逢魏都は眉を上げた。
「人語話すんだから、もと人間とかって察しがつかないの?
鈍いなあ」
「鈍くて悪かったわね!
だいたい人語話す犬ってだけでも普通キャパオーバーするって! 」
逢魏都はその場に胡座をかいて座り込んだ。
「もと人間って、アナタ家族は? 」
「知らない」
「知らないって.......」
「もと人間だったってこと意外、他のことは何も憶えてないんだ
どうして狼になったかも解らない」
逢魏都は膝に肘をついて頬杖をついた。
「年齢は憶えてたじゃない」
「うん、でもそれ以外憶えてない」
「..........」
逢魏都はハタと普通に狼と人語で会話していることに頭を抱え込んだ。
『これって実は幻覚だったりして
そうかも!
動物とお喋りできたらいいなあ、とか思ってたから願望が現実に思えて来たんだ
犬が喋るはず無いもんね
幻覚だとしたら、ワタシ相当ヤバい!
病院行かなきゃ..........! 』
狼はじっと考え込む逢魏都を見て言った。
「ねえ、ねえってば!
おばさん! 」
「これは幻覚
信じちゃダメ
犬は喋ったりしないんだから」
狼は項垂れた。
「ううーー、今更その思考に辿り着くのお? 」
「幻覚、幻覚.......
犬は喋らない、犬は喋らない......」
狼は深いため息をついた。
「散々喋っておいて........」
狼は窓に寄って空を見上げた。
月光が雲を縁取っていた。
やがて雲は流れて切れ間から月の明かりが零れた。
月の光が窓から差し込んで狼を照らした。
狼は急に耳を下げて蹲り苦しそうに息を乱し始めた。
「ちょ、ちょっと大丈夫!? 」
逢魏都は慌てて床に手を付き狼に近寄った。
狼は身体を縮込めると変化が始まった。
激しく呼吸を乱す狼は、みるみる毛が抜け落ち、肌色の肌が露わになって手足が伸び始めた。
獣だった顔が人の顔に変貌して行く。
「ちょっ.....これも幻覚? 」
逢魏都は自分が今、何を見ているのか信じられなかった。
瞬きも忘れてその変化に目を奪われた。
狼の苦しげな呼吸の音だけが室内を満たす。
やがて狼だった風貌は白い肌と銀色の髪を持つ人間の少年へと姿を変えた。
呼吸する度に浮き上がった美しい背骨が上下する。
少年は呼吸が落ち着くと身体を丸めたまま顔をこちらに向けた。
綺麗な少年だった。
人懐こそうな二重に大きな銀色の瞳と銀髪がそう見せるのか、何処か浮世離れしたような雰囲気があった。
読んで戴き有り難うございます。
人外で狼って、凄く王道かなあと思いますが、この作品を書こうと思ったきっかけは狼が満月の明かりを浴びて人間になると言うのを娘に、それは珍しいかも知れないと言われて、その気になりました。笑
この間、娘と映画「アクアマン」を観ました。
超感動です。
いや、感動系な作品では無いです。
アメコミのヒーロー物なのですが、とにかく背景が美しいんです❗
深海のアトランティスがクソ美し過ぎるし、どの画面取っても細部に渡って世界観をめちゃくちゃ大切にしていて。
アメリカ人は美意識が低いと思っていましたが、映画の世界ではあり得ないくらい美意識高いです。
ホラー撮らせたらいっちゃん恐いジェームズ·ワン監督なのですが、映画への情熱が画面の細部に溢れまくってました。
何かを描く時、やっぱり情熱って大切だなあと思います。
私も小説書くにあたって情熱、忘れてはいけないなあと思いました。