悪く無いのに.........
読んで戴けたら、倖せです。
次の日は朝早くから、アシュラは大きな筒型の籠を背中に括りつけられ、逢魏都と山に入った。
「キレイな花」
逢魏都が紫の花を見てると、アシュラが近付いて言った。
「あ、これカタクリって言うんだよ
お浸しとかにすると美味しいんだ
カタクリ粉のカタクリってこの花から来てるんだよ」
逢魏都は目を丸くした。
「詳しいね」
「うん、何故か山菜の知識とか在って山で食べ物に困ったこと無いよ」
「ふーん......
あ、兼城さん言ってたね
山の植物取っては調理して食べてたって
その時の知識なのかな」
アシュラは小首を傾げた。
「多分? 」
「他の動物狩ったりしなかったの? 」
「そんな野蛮な事しないよお!
生の肉にかぶり付いたりとか想像してるでしょ? 」
「うん」
逢魏都は大きく頷いた。
「無理無理ぃ
ボク、ユッケや馬刺しさえダメなんだ」
「へーえ......」
アシュラは逢魏都の後ろにある木を見てしっぽを振った。
「逢魏都、たらんぼうだ! 」
「たらんぼう? 」
「この芽を天ぷらにすると美味しいんだよね
ねえ、今夜天ぷらにしない? 」
「いいかも! 」
逢魏都はせっせと、たらんぼうの芽を摘み始めた。
アシュラは籠をひっくり返さないように慎重に地面に伏した。
「ねえ、逢魏都.......」
「ん? 」
逢魏都は、たらんぼうの芽を摘むのに夢中になっている。
アシュラは、逢魏都の横顔をじっと見詰めた。
「逢魏都にとって、ボクはやっぱり狼なの? 」
逢魏都はアシュラを振り返った。
「どうしたの、急に.........? 」
こちらを見る逢魏都に、アシュラは立ち上がった。
「何でも無いよ、ちょっと言ってみただけ」
「うーん.......」
逢魏都は腕を組んで考え込んだ。
「狼と言うより......」
「狼と言うより? 」
逢魏都は爽やかに笑って答えた。
「家族かな」
『やっぱり舎利拂たちと同じ扱いなんだ』
アシュラはガックリ頭を垂れた。
「どうしたの?
なに、落ち込んでるの? 」
逢魏都は笑ってアシュラの首を撫でた。
「元気だして
ジャンジャンとるからねえ
頼りにしてるよ、アシュラくん! 」
アシュラは大きなため息をついた。
「はあ.......」
逢魏都とアシュラは籠いっぱいに山菜を収穫して山を下りた。
麓まで来ると逢魏都はアシュラの首輪にリードを付けた。
「ごめんね
こうしないと村の人たちに逢った時に言い訳立たないから.....」
「仕方無いね」
アシュラは大きくしっぽを左右させた。
逢魏都たちが家の前に行くと玄関の前に人だかりができている。
その中に富山さんの奥さんも居た。
逢魏都は何か嫌な予感がした。
逢魏都たちに気付くと、玄関の前に居た人たちは駆け寄って来て、逢魏都とアシュラを取り囲んで騒ぎ立てた。
「逢魏都ちゃん
犬、ちゃんと繋いで無かったでしょ! 」
「昨日、今度は斉藤さんとこで飼ってたウサギが襲われたのよ! 」
富山さんの奥さんは目をむいてアシュラを指さした。
「この犬に間違い無いよ!
この前、私なんか噛み付かれそうになったんだから! 」
人々の目は怒りを剥き出しにして口々に攻撃してきた。
逢魏都が知っている村の人とは思えないほどみな怖い形相で、逢魏都には別人に見えた。
村と言う小さな集落では、平穏過ぎる故に人々はイベントに飢えている。
何か事が起きると噂話が大好きな人が別な誰かを巻き込んで大袈裟に騒ぎ立てる風習があった。
アシュラが、ウサギや鶏を襲ったと言う噂は、噂好きの村人には絶好の大事件だった。
逢魏都の脳裏に会社勤めしていた時の記憶が蘇る。
ミスしたのは自分じゃ無い、後輩がやったのだと言っても誰も信じてはくれなかった。
冷ややかな視線だけが逢魏都に集中した。
『誰も信じてくれない.....
子供の頃、父さんも再婚相手の言葉を鵜呑みにしてワタシの言葉を信じてはくれなかった
どうして?
ワタシ、嘘なんて言ってないのに..........』
逢魏都の背中から冷たい何かが全身を冷やして下りて行く。
アシュラは黙って逢魏都をじっと見守った。
逢魏都はリードを引きながら後退りして、走って家の中に飛び込み、鍵を掛けた。
外から罵声が次々聞こえた。
逢魏都はアシュラの首にしがみついて泣き出した。
「ごめんね、アシュラ
何も言えなかったよお
アシュラは何も悪く無いのに
何も言えなかった..........」
逢魏都は人々が去っても尚、アシュラにしがみついて咽び泣いた。
読んで戴き、有り難うございます。
いよいよ、後三話です。
最後まで、お付き合い戴ければ嬉しいです。
先日、先祖供養の為、菩提寺の住職さんに来て戴いてお経を一緒にあげさせて戴きました。
お経の後、雑談をしてましたら、住職さんがなんとなろうの愛読者様と言う事が発覚しました。笑
有名処は総て押さえて読んでます。
と、爽やかに笑ってました。
住職さん、三十歳独身です。
さすがに、私の作品も読んで下さい、とは言えませんでした。笑




