熊
読んで戴けたら、嬉しいです。
風呂に入っていたアシュラは逢魏都が用意してくれたパジャマを着て居間に行くと逢魏都が腕を後ろに回して待っていた。
逢魏都はニッコリ笑って背中に隠していたコーラの缶を差し出した。
「わざわざ、買って来てくれたの? 」
「逢魏都さんは、優しいからね」
「普通それ、自分で言っちゃう? 」
「誰も言ってくれる人が居ないんだもん」
アシュラは礼を言うとコーラを受け取り、缶を開けようとして躊躇した。
訝しげに逢魏都を見る。
「また、振ってないよね」
逢魏都は肩を竦めた。
アシュラは思い切り腕を伸ばして缶を開けた。
どうやら、無事だった。
アシュラは逢魏都を見て笑った。
そして、慎重に缶に口を付け、ごくごくと喉を鳴らして、飲み始めた。
アシュラはコーラを心行くまで味わった。
「くーーう、これよこれ! 」
「反応が親爺みたい」
「親爺、言うな」
アシュラはムッとした。
逢魏都は構わずテーブルの椅子に座った。
テーブルには逢魏都のコーラが置いてある。
「あのね、ワタシなりに考えてみたんだけど.......」
「考えたって、何を? 」
アシュラは逢魏都の前に座った。
「アシュラがどうして狼になったのか......」
「考えて、何か解った? 」
逢魏都はコーラの缶を手のひらで弄びながら言った。
「呪いじゃないかって......」
「呪い? 」
アシュラは背筋を直立させた。
「うん、呪い
何かの呪いを駆けられたんじゃないかなあって.....」
「呪いねえ......」
「ほら、よくあるじゃない
童話とかで、呪いでカエルの姿にされた王子様とか
そういう類いじゃないかって
ねえ、何か恨みを買う心あたり無いの? 」
「恨みねえ......」
アシュラは考え込もうとしてまた、背筋を直立させた。
「.....って、ある訳無いじゃん!
記憶が全く無いのに! 」
逢魏都は項垂れた。
「そうだった......
記憶無いんだったね」
「逢魏都って、結構天然だよね」
「どういたしまして!
それにしても、どうして狼になっちゃったんだろうね」
アシュラは頬杖をついた。
「それが解ったら、苦労しないって」
急にアシュラが勢いよく立ち上がった。
逢魏都は驚いてアシュラを見上げた。
「どうしたの? 」
アシュラは窓の外に視線を固定させて言った。
「クマだ」
「クマ? 」
「腹を空かせて人里に降りて来てしまったんだ! 」
そう言うが早いかアシュラは靴も履かず、外に飛び出した。
「アシュラ! 」
嗅覚を集中させるとアシュラは暗闇の中を走り出した。
逢魏都はそれを追い駆けた。
逢魏都が道路に出て見ると、アシュラは村長さんの家の方目指して走っていた。
アシュラはだんだん身体を丸め、仕舞いに四つん這いに走っている。
狼の姿になっていた。
着ていたパジャマのズボンが脱げる。
角を曲がり、街灯に照らされて綺麗なフォームで走るアシュラだが、上半身にパジャマを着ているので、少し滑稽に思えて逢魏都は笑ってしまった。
村長さんの家の鶏小屋の傍まで行くとアシュラは一点を睨んで鼻に皺を寄せ、牙を剥き出し、唸って激しく威嚇していた。
視線の先には大きな黒い塊が、ぐるぐる言いながら、うろうろしている。
逢魏都は息を呑んで目を凝らした。
クマは動くのを止め、立ち上がってアシュラを威嚇した。
アシュラはジリジリと唸りながらクマとの距離を縮めて行く。
正面から飛び掛かって行けば、前のように手で払い除けられまた怪我をするかも知れない。
クマはアシュラに飛び掛かろうと四つん這いになって身構えた。
村長さんの母屋の方から人の気配がすると、クマはあっさり諦めて山の方に逃げて行った。
足音が近付いて懐中電灯の明かりがアシュラを照らした。
「なんだ?
悪さする前に撃ってやる!
おーい、銃を持って来い! 」
村長をしている木下さんの怒鳴る声に逢魏都は慌てた。
飛び出して行って、まだ興奮しているアシュラの身体に抱き付いた。
「お願い、撃たないでっ! 」
逢魏都は夢中で叫んでいた。
「アシュラは狼じゃ無い! 」
木下さんの奥さんがライフルを持って現れ村長さんに渡し、村長さんが照らす懐中電灯の光でアシュラと逢魏都に気付いた。
「逢魏都ちゃん? 」
「奥さん、アシュラは狼じゃ無いんです! 」
村長さんはライフルを直ぐにでも撃てるように下に向けて構え言った。
「逢魏都ちゃん、それを飼っているのかい? 」
逢魏都はその問いに我に返り、戸惑いながら頷いた。
人間と言って信じて貰えないのは明白だ。
狼じゃ無いとしたら、犬で通すしか無い。
しかし.........。
『あれ?
狼に似た犬種ってなんて名前だっけ?
なんで、こういう大事な時に思う出せないのよお!
なんだっけ.....?
えっとお......
えっとお......
あ.....』
「ポメラニアンなんです! 」
それを聞いたアシュラが小声で逢魏都に囁いた。
「逢魏都、それを言うならシベリアンハスキーだって
一文字も合ってないじゃん」
「あ.......」
静寂が流れた。
木下さんの奥さんが静寂を破った。
「ああ、聞いたことある
そういう犬の種類なんだねえ
だけど、放し飼いにしてたら、猟友会の人たちがイノシシか何かと間違えて撃っちゃうかも知れないから、ちゃんと繋いでおいた方がいいよ」
逢魏都は立ち上がるとお辞儀をして帰ろうとした。
そこへ、村長さんとこの息子が血相を変えて、飛んで来た。
「鶏が襲われた! 」
「なに!? 」
村長さんは改めてアシュラを見た。
逢魏都は固まった。
奥さんが言った。
「犬は鶏、襲わないでしょう」
村長さんが言った。
「じゃあ、なんでここに居るんだ? 」
村長さんの息子が腹立たしげに言った。
「鶏が何羽か食われてた! 」
逢魏都は慌てて言った。
「クマが......!
クマが居たんです! 」
村長さんの息子は言った。
「逢魏都ちゃん、その熊は何処に要るの? 」
「逃げたんです! 」
緊迫した静寂が暫く流れた。
奥さんがおもむろに言った。
「逢魏都ちゃんがこんなに言うんだから、本当に熊が居たのかも
明日、足跡を見れば解るんじゃない? 」
村長さんは言った。
「そうだな
今日はもう遅いし、明日の朝明るくなれば解るだろう
とにかく、犬はちゃんと繋ぐか家から出さないようにした方がいい」
逢魏都は一礼した。
「行くよ、アシュラ」
アシュラは尾を下げて逢魏都に続いた。
村長さん一家はそれを見送った。
奥さんが言った。
「あんなに逢魏都ちゃんに懐いているのに、鶏襲ったりしないでしょ」
「そうだなあ......」
村長さんは奥さんに向き直って言った。
「ポメニャンニャンてなんだ? 」
「やだ、お父さん
ポメニャミランですよ」
ここの夫婦は犬種に疎かった。
息子はその会話に疑問符しか浮かばなかった。
村の大通りに出ると、アシュラは村長さんの家を振り返った。
夜の黒い田んぼの向こう側で村長さん一家が家の中に入って行く処だった。
逢魏都もそれに気付いてアシュラを振り返った。
「狼の姿には、いつでもなれるんだね」
「お陰で、ほぼひと月この姿だけどね」
アシュラは逢魏都を見上げて言った。
「逢魏都、さっきは有り難う
コミ障なのに必死に庇ってくれた」
逢魏都は跳ねるように歩きながら言った。
「ワタシにとってアシュラは、もう家族だもん
それに助けて貰ってるしね」
「家族.......」
家族と言うワードはアシュラの心に染み入った。
アシュラは歩調を上げ、逢魏都を見ずに言った。
「それだけなの? 」
「え? 」
アシュラは逢魏都を振り返った。
「なんでも無い
早く帰ろう、コーラの炭酸抜けちゃう」
「本当だ
よし、ダイエットの為に走るか! 」
逢魏都は曲げた腕を踊るように前後させた。
「四本足を舐めると、痛い目見るよ」
「アシュラはここで百数えて」
「えええーー、なんでえ! 」
「飼い主を敬いなさい」
言うが早いか逢魏都は駆け出した。
「人種差別、反対! 」
アシュラも走って直ぐ逢魏都を追い越した。
「ずーるういーっ! 」
「どっちが! 」
通り過ぎた桜の木に、膨らんだつぼみが街灯に照されて輝いていた。
読んで戴き有り難うございます。
突然ですが、今年はコバエが多いですう。
残飯とか捨て忘れると、真っ黒になってたかっていて、ぞわーあってします。
そういう時は、キン○ョール吹き掛けて一網打尽にするんですけど、それでも何処からか湧いて飛び回ってるんですよお。
母の家も凄くて、粘着タイプのホイホイみたいのに真っ黒になってくっついてます。
ぞわわわーーぁ。
今年は、暑いですもんねえ。
虫が湧きやすいんでしょうね。
ちっちゃいから、ハエ叩きもきかないし。
洗面器に水いれて置くと、何故か入水自殺します。
あれは、何故なんだろーぉ。
ハエって何かしら、生態系に影響あるんですかね❔
無いなら絶滅して欲しいです。




