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即死属性持ちの同い年を拾った話  作者: スタイリッシュ土下座
3/10

ナチュラルに恋して愛して確かめて

 不思議だった。私の家には死神と呼ばれる霊に取り憑かれた少女がいる。しかし今の所、私の具合が悪くなったり、死に至る様な予兆は全く無い。


「どうしたです?ハクメさん」


「いや、こっちの話だから。心配しなくても」


 彼女のいた孤児院では大勢の子供が亡くなったという話だ。私も彼女と同年代であり、3日も経過した時点で影響を受けないはずがない。元気なのが逆に不気味だった。


「やっぱり今日のハクメさん具合悪いです。休んだ方がいいです」


「そうかもしれないね。休憩にしましょう」


「です」


 彼女に勧められ、軒先に置いた木の椅子に座り、一息ついた。その時ふと思ったのが、私はエイミについて何も知らないという事だ。

 彼女は孤児院で育ち、死神を背負って生きてきたと聞いてはいるのだが、それ以外の事については何も知らないのだった。


「ねえ、エイミちゃん」


「どうしたです?ハクメさん」


「エイミちゃんはさ、その特性持ってて辛くないの?」


 元気だった彼女も少しの間言葉を詰まらせた。やがて収まりがついたのか、答えてくれた。


「最初は凄く辛かったです。私に触れる人、見る人、感じるもの、全てが壊れていくのを見て、動悸まで起こしていたです」


 だろうな、と思った。あれだけ本人は元気であるのに死を振り撒いているとなるとその不遇さにこちらまで惨めな気分になった。


「お互い辛いよね」


 彼女は少し考えてから答えた。


「でもそんな私でも一番大切にしてくれた人がいたです」


「本当に?」


「本当です。名前はリンネさんって言うです」


 私は耳を疑った。誰もが死を恐れるはずであるのに、彼女に接触を求めようとするのは余程の死にたい者か、死神属性を悪用しようとする者ぐらいである。


「詳しく教えてくれる?」


「はいです。リンネさんは超優秀スーパーエリートな科学者さんだったです」


 私の中に嫌な予感が渦巻いた。


「科学者.......てことは」


「そんなに悪い人じゃなかったです!むしろ私を家族の様に大事にしてくれましたです」


「どういう事?」


 私はそのリンネという科学者について色々尋ねた。彼女の話によると、リンネは成績優秀で国の支援を受けた某超有名大学を卒業した後、とある研究の一環で孤児院に訪れていたという。


「その時初めてリンネさんに会ったです。綺麗な髪を丁寧に束ねて、立派な白衣を着てたです」


「そのリンネさんが何故エイミちゃんを.......?」


 彼女はすっと立ち上がり、紅茶を注ぎながら言った。


「最初はリンネさんの方もびっくりしてたです。そこら中に転がった死体を見て怖かったと思うです」


「うん」


「でもお話する内に段々と親しくなってきて、リンネさん自身も私を認めてくれたです。彼女も天使さんの様な存在でした」


 エイミは目をキラキラと輝かせて言った。私は終始、彼女がその科学者に悪い事をされてないかとヒヤヒヤしていたがその心配も無さそうである。


「リンネさんってどんな人だったの?」


 紅茶を一口すすり、彼女は答えた。


「凄く研究熱心な人です。私に興味をもってくれたみたいで、私の事に関して研究してたです」


「ちょっと待って」


 私の予想は外れたかもしれない。彼女が特異な霊に憑かれているのは周知の事実であるにしても、第三者までもが積極的に関わってくるのは明らかにおかしいのである。


「本当に悪い事されなかったの?」


「まさかです。リンネさんは私にかかった呪いを解こうと懸命に研究してたです」


 私はまだ納得できなかった。ここにきてリンネが彼女の呪いを研究するのには絶対に訳があるはずだった。


「エイミちゃんは不思議に思わなかったの?リンネさんの事」


「はいです!でも、私を研究し始めて一ヶ月ぐらい経った頃から、リンネさんは夜中苦しそうに洗面台の前に立っていたです。覗き見してみたですが、大量の血がシンクに流れてて不安だったです」


 私は身震いした。リンネ自身もエイミから受けた呪いの影響を受けていたという事に。ここまで話してくれた時点で恐らく彼女は既に──。


「エイミちゃん」


「どうしたです?」


「辛かったら話さなくていいよ。だけど私はあなたを引き受けた身だからできる限りの事は教えてほしい」


 彼女はティーカップに入った紅茶を全て飲み干し、鼻息を鳴らした。


「分かったです。ハクメさんは私、信用しているですから」


「ありがとう。続けて」


「リンネさんが最初に夜中血を吐き始めてから3週間程経った後、私自身を使った実験が始まりましたです。最初の内はお互いの合意の上でと私を気遣ってくれていたですが──」


「ですが」


 彼女は少し顔を暗くした。


「段々と実験内容がエスカレートしてきて、リンネさんは何かに取り憑かれたかの様に実験を重ねてきたです。私もあの時だけは怖かったです」


 彼女の悲痛な声を聞いて私は手で顔を覆った。自分自身の境遇とは比較にならないとも思った。


「私はついにリンネさんに対して負の感情を覚えてしまったです。その時でした。彼女はその場に倒れ込んだです」


 何も言えなかった。決してリンネという科学者が悪い人物の様には思えない。

 彼女には未知の存在に対する興味・関心が他人以上にある。それだけの話なのだ。


「救急搬送されたですが、血を吐きながらこの世を去ったです。私も泣いたですし、リンネさんも最後まで苦しそうにしてたです」


「うん、分かった。もう話さなくていい」


 これ以上聞けば私の精神の方が持ちそうに無かった。無常感と我が身の非力で胸がいっぱいだった。


「お休みしてたのに本当にごめんなさいです」


「エイミちゃんは悪くないよ。でも災難だったね」


 私が言うと彼女は首を横に振った。


「災難ではないです。これも運命のお導きだったです」


「どういう事?」


「初めて会った時から看取る時まで、リンネさんは私の為にずっと協力してくれましたです。結果としては私のせいで死なせてしまったですが、リンネさんのお友達から頂いたお手紙にこう書いてあったです」


 すると彼女は自分の手持ち袋から一つの便箋を取り出し、中身を広げた。


「『本人曰く、エイミと関わっていると心の底から落ち着くと述べていました。元々彼女は優秀ではあるものの心が弱い一面がある為、酷く落ち込む事も多々見受けられました。

 しかし、貴女と関わり始めてからの彼女は見違える様に明るくなっていた事を我々は覚えています。彼女の生涯が本当に幸せだったかは分かりません。

 ですが、彼女が本当に安心するきっかけを作ってくれたエイミという人物に心から感謝致します』と書いてました。私には長くて難しくて、読むだけで精一杯です」


 エイミが読んでくれたそれは私が感じるのには美し過ぎた。最初から彼女自身も分かっていたのだ。自分が死ぬ可能性を掛けられているという事を。

 それでも尚、その科学者はエイミと一緒にいる事を選んだのだ。私の頬に一滴、潤ったものが流れた。


「本当にいい人だったね。リンネさん」


「はいです!このお手紙は私の一生の宝物です!なぜなら、これを持っていたらリンネさんを近くに感じる様な気がするからです」


 彼女の健気な姿が私は一番好きだ。普通の人にとって悲劇とも思えるそれをエイミは自分なりに受け止めているのだ。私には持ち合わせていないものだった。


「そういえば、何でハクメさんには私の呪いの影響が出てないです?」


「え?」


「私の経験だと、3日も近くで過ごすと誰でも気分悪そうにしてたです。リンネさんもその一人でしたです」


「どうなんだろうね」


 そうなると不思議だ。彼女との関わりの中で一種の病気の様に体調を崩すという事は無かった。

 私自身、元気過ぎる子と絡む事自体得意でないのも謎を深めていた。


「きっとこれは運命なのです」


「へ?」


 エイミの突拍子もない一言に私はあっけらかんとした。


「私達はきっと相性が最高だからハクメさんも元気でいられるです!これはまさに運命なのです!」


「いやいや!?いきなりそんな事言われても、私の命がかかってるから!」


 否定したが、その程度で彼女の元気は収まるところを見せなかった。


「絶対そうです!リンネさんと同じぐらい、ハクメさんも大好きです!」


「だからまだハッキリとしてないし!近寄らない!死んじゃうから!!!」


 この居候は本当にひっつき虫の一種かもしれない。休憩を終え、午後の作業に戻る時にはエイミの事を少しでも知れた様な気がして、何故か嬉しかった。

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