友達たずねて三千里
自分みたいなひねくれ者になるとどうしても異世界モノ書こうとして邪道路線に引っ張られてしまいます。どうも土下座です。
今作は更新頻度落とさないように頑張りますんでどうか生暖かい目でご支援お願いします。
前世の記憶はあまりない。死因すらわからず、何もかもまっさらな状態で私はこの地に生まれついた。名前はハクメ。農家であった私の親は流行病により私が幼い頃に亡くなった。
親が死んだ後にすぐにその伝染病は過ぎ去り、今は親が遺したこの農園と共に暮らしている。
この世界に生まれ落ちてからも、決して仕事は楽では無かった。一日分のご飯をやりくりするだけでも必死だったし、農作業も慣れるまでは重労働だった。ただ、今では幸福とも不幸とも言い難い、そんな日々を過ごしている。
「よし.......と」
今日も疲れた身体を揺らしながら灯火を消し、藁のベッドに就いた。そんな日々を過ごしていた17歳のある日、私は郵便箱に入れられた一つの封筒を見つける。
「なにこれ」
差出人が書かれていないその手紙を私は恐る恐る開けた。中身は手紙の付いた紙切れである。
「養ってください.......だって」
誰もいないのに私は他人行儀になっていた。親以外に人を見かけた事が無かった私にとってはそれは未知の存在だ。私は続けてその手紙を読む。
「"家計が辛いのは分かっています。ですが私にも身寄りが無いのです。関わる人の誰もが苦しんで亡くなってしまうのです".......か。気味が悪いな」
私はその手紙を放り捨てようとしたが、段々その子が可哀想にもなってきた。このままだと誰からも見向きもされず、独りぼっちで生活していかなければならない。私だってその一人だ。その辛さは重々分かっていた。
「.......助けてあげるか」
私はその手紙に返信してあげる事に決めた。とはいえ、どんな人物か分からない相手を早々家に入れる訳にはいかない。農園があるなら尚更気をつけたい。だが、そんな心配もどうやら無用だった。
「この手紙、自動で返せるようになってる。おかしな設計だな」
手紙の付属品として返信用の切手や便箋も内封されていた。身寄りがないその子にしては少々用意が良過ぎる気もしたが、後日都合が良ければこの家の玄関前で居合わせるようにと返信した。
数週間経ったある日、突然その子はやってきた。家にはベルが無いのでドンドンとドアが鳴った。
「はぁい」
扉を開けるとそこには私と同じぐらいの女の子が立っていた。長髪はボサボサで着ている服も貧相なものだったが、何処か懐かしさを感じるものがあった。
「あなたがハクメさんです?」
「え、えぇ。そうですけど」
彼女は感極まったのか私に向かって飛びかかってきた。
「やっと会えた!よろしくです!」
「ちょっと、まだ泊めるって決めてな.......!」
私はほのかに酸味の効いた臭いがする彼女に抱きつかれ頬を舐められながら悶絶した。必死に彼女を離そうとするも私よりも力が強くて取れなかった。この生物、何処かで見た事がある。
「ひっつき虫だ」
「ひっつき虫違う!」
彼女は否定したが、何度取ろうとしてもしがみついてくるのでいっそ考える事をやめにした。こういう生物はなんか苦手だ。
「部屋の奥行っていいです?」
「あっ、待って!そっちは.......!」
彼女はリビングの方に向かい、皿の上に置いてあったパンを食べ尽くした。
「お腹減ってたのね」
「美味しいです」
挨拶が言えるだけ、偉い子なのかもしれない。彼女のお腹が収まるまで色々食べさせた後、話を聞く事にした。
「あのお手紙の差出人って事でいいのかしら」
「ですです」
「あなた、お名前は?」
「私はエイミです。都会の"コジイン".......?って所から来ました」
「孤児院、ね」
私は少し身震いした。そうか、この子も悲惨な人生を送ってきたのか、と思うとちょっと心が苦しくなる。
「どうしたです?」
「ううん、私もあなたと同じで独りぼっちなの」
「そうなんですか?でも孤児院の子達みんな優しいです!」
「エイミちゃんは辛くなかったの?」
「全然?皆慣れちゃって、お仲間がいましたから。とっても楽しかったですよ」
自分の置かれている状況も分からず能天気でいられる彼女が少しだけ羨ましく思えた。私は今までずっと色々な事を考えながら暮らしてきた分、楽観的でありたかったからだ。
「じゃあどうしてここまで来たの?そこにいる事が幸せなら来なくても.......」
彼女の顔色がうっすらと変わった。楽では無かったのだ。その後ろには少女が背負うには重過ぎる何かがあったのだ。
「皆死んじゃったです」
「死んじゃ.......え?」
「急に重くしちゃって悪いですけど.......私、即死の霊が憑いてるらしくて」
私は驚愕して椅子から転げ落ちた。それもそのはずである。彼女の背負ったその業が、彼女と共にした友人まで殺してしまったのだから。
「慣れればどうって事ないです。それに.......」
「今すぐ出てってください!疫病神!」
「やくびょ.......そこまで言う事無いじゃないですか!」
「いいから!二度と来ないで!」
私は彼女を扉の外に押し出し、鍵をかけた。震えが止まらない。そして今、全ての奇妙な出来事が繋がった。あの手紙の差出人は彼女本人ではない。
恐らく、役所か何かの代理人だろう。彼女の言う霊が本当なら、孤児院ですら手が出せない状況になっているはずである。そこで農家である私の家に押し付けた.......そうに違いないのだ。
「信じられない」
その日はすぐに床に就いたものの寝られる訳が無かった。まさか本物の死神のような存在がいて、この家に招かれたとなれば、眠れる訳がないのである。私は困惑していた。
次の日の朝、少しだけ恐怖心が抑まった私は再び農作業の続きをと玄関先へ向かった──のだが。
「おっはよーです」
「何でいるの!?」
「一晩中いました」
「だから私の家には無理って言ってるでしょ!?何でそこまで.......!」
抑えられなくなり、何の罪も無い彼女に激を飛ばした。だが、その子は単純で楽観的な子だったのだ。
「最初は皆そう言うです」
「え.......?」
「私も最初にコジインに連れて来られた時には皆から悪魔だって言われてました。でも私を仲間だと認めてくれたです」
「どうして?」
「仲間外れの辛さを知ってたんだと思うです。私の友達は未来が無いと分かっていたから私と過ごす時間だけでも全力で生きてくれたです」
「でも私にそれを要求するのは筋が違.......」
「分かっているです。その友達が全員死んだ時も、決して私に辛い顔を見せませんでした。皆『幸せだった』と言ってくれて去っていきました。私、ここを選んだのにはある理由がありまして」
「理由」
「コジインの人が調べてくれたです。『その霊を鎮める効果がある人物がいるかもしれない』って。私は二度と友達を失いたくないです」
「ちょっと待って」
私は言いたくなかったが、勇気を振り絞って口にした。
「その霊を鎮める人物って」
「そうです。ハクメさん。あなたでした」
ごちゃごちゃしていた私の中の頭のネジが全て吹っ飛んだ。何と繕おうにも苦笑いしか出てこない。
「ごめん、ちょっと5度寝ぐらいしてきていい?」
「ハクメさん!?」
とはいえ、彼女の言う事が100%本当であるとは限らない。実際にエイミの霊の力で私まで死んでは元も子もないからだ。
「だから、一週間」
「一週間?」
「一週間だけ、ここに泊めとく。それで何も無かったら正式に住んでいいよ」
「本当ですか!?」
彼女の目がキラキラと輝いた。嗚呼、なんて運命に私は身を投じてしまったのか。でも、誰もいない退屈な日々を送るよりは少しはマシになるかもしれない。
「ハクメさん!これからよろしくです!」
「まだ完全に決まった訳じゃないから!死んだら花束ぐらいは買ってよ」
「はい、約束です!」
私とエイミとの少し変わった1週間が始まった。
いかがでしたでしょうか。1話というよりはエピローグ感強めなので実質0話みたいな所はありましたね(白目)
次回からも拙い文が続くと思いますが、どうかご支援、評価の方よろしくお願いします。ご愛読ありがとうございました。