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33話 猫と17歳 4/4

『ひ……響さん……ごほっ……そ、それは本当で……』

「とりあえず走るの止めて落ち着いてください萩村さん。 ふたりとも無事なので」


息も絶え絶えになりながら「どういうことなの!?」って聞いてきてた萩村さんを落ち着かせることしばし。


『……そ、そういうことでしたか……しかし偶然響さんに助けてもらえるなんて』

「ええ、しばらく留守にしていたので本当に偶然ですね」


3ヶ月冬眠してからの今日だもんな、偶然以外に何とも言えないもん。


そうしてとりあえず安全って言うのと場所を伝えてすぐに来ることになったらしい。

逆に言うと萩村さんが来るまでは帰れないってのもまた決まっちゃったけどこれはしょうがない。


「……はい……はい、わかりました。 萩村さんが来るまでここで待機しています。 到着の直前に連絡を……はい、それでは」


「……ふぅ……」


「………………………………………………」

「…………………………………………にゃ」


あー、疲れた。

電話ってすっごく緊張して疲れるよね。


目の前で話すのならまだマシなんだけどなんでなんだろ。

流れで愛想笑いとか会釈とかしちゃうし。


「……あ、というわけでもう大丈夫です」


「ひゃいっ」

「にゅっ」


にゅ?


キャラ付けって大変そうだね……今ちょっとブレかけたし。


けど驚いた拍子に耳も尻尾もぴっと立ち上がっているのには興味をそそられる。

あとでさりげなく「お礼として触ってもいいですか?」って聞いてみようかな。


どのくらい猫のしっぽを再現しているんだろうか、あのデバイス。

動きはとても猫っぽいけど、はたして触り心地とかはいかほど。


そもそも猫になんてほとんど触ったことないけど興味はあるんだ。

だって家の近くって野良とかいないし地域猫とかさえもいないし。


かと言って猫カフェとか男が言っても変な目で見られそうでって思ってたし……そうか、今なら猫カフェに行っても変な目で見られないのか。


猫なんて最後に触ったのは旅行先で野良のをだし……触りかたがヘタだったらしくってごろごろ言ってくれていたのに急にこっちを向いたかって思ったら触っていた手に向けて猫パンチされて逃げられたし。


あれは悲しかったなぁ。


やっぱりかわいいものは外から眺めるに限る。

関係が薄い方がきっと楽なんだ。


猫パンチされたときのごとく。


……と、いけないいけない、なんか変な顔してるふたりちに教えておかないと。


「あと30分ほどで、ここの地下の駐車場に…………えっと、『この前使った車』というので来るそうです、萩村さんと今井さんが。 『見れば分かる』そうなのでおふたりなら大丈夫でしょう。 ……できればここへ直接に来たかったみたいですけど萩村さんたちも顔が知られているので面倒だそうで」


電話で話されたのを説明するけど……悪いやつから女の子を匿うとか悪いやつに見つからないように送るとかまるで映画みたいだな。


その主人公が男だったら画になるんだけどあいにく僕は幼女なわけでむしろ守られる側だ。


「タイミングを見計らってエレベーターへで地下へ行って……スマホのある僕しか連絡できませんから、おふたりを車に乗せるまでお送りすることになったので」


ぽかんと口を開けているふたりに言ってあげる。


……どうやら僕の流暢さに驚いているな?

さっきまでは押されて全然話さなかったもんね。


こうして横やりを入れられなければこんな僕だってまとまって話せるんだから。


まぁ、いつもこうだったらいいんだけど……少なくとも女性とか女の子相手だと当分は難しそうなのが厳しいところ。

だって発音が追いつかないし……せめて声量くらいは鍛えたいんだけど難しいかな、僕だし。


「……萩村くんを知っていて、連絡先まで。 しかも連絡もしてくれて全部お膳立てしてくれちゃった……さっきまでの私たちの逃げ回って逃げ回っての苦労って一体……」


それはまあ偶然って言うことで。

偶然に見えないけど実際そうなんだしな。


「さっきに続けてまたも重ね重ねですにゃ、申し訳ないですにゃ」

「いえ、乗りかかった船ですし」


こんなセリフ初めてだ……こんなシチュエーションも初めてだし大半の人はそうだろうけども。


でもこのままほっぽり出すのも気がかりだしってさっさと連絡したまでだし、これで後はたったの30分待ちさえすればいいんだから、残りはちびちび遅滞戦術をとりながら食べていればいいだろう。


口にものを入れている間は「食べるのに忙しいんだな」って思ってくれるから、相づちだって適当な会釈でしているふりをすればいいんだし。


こういうのって大学に入ったときになんとなくで参加したサークルの歓迎会とかで身に付けた技術だ。

ちなみに僕はすみっこの方でちびちびしていただけでそれっきり何にもしなかったけども。


……良いんだ、僕は人と話すのが苦手なんだから。


僕みたいに静かな人もそれなりにいたし、気負うはずはないはず。

うん。


「いやぁ……うん。 まぁ、楽に済んだって考えとこっか……なんかすごすぎて逆に落ち着いちゃったもん」

「ですにゃ。 もう1回ありがとうございますにゃ」


さりげなくさっき聞いた2人の名前……よく考えたら女の子から名乗られなかったのって多分初めてな気がする……えっと、島子さんと岩本さんだっけ?


もうどっちがどっちだかはわからなくなっているけどどうせペアだからどっちか呼べば反応してくれるだろうしどうでもいいや。


30分って言う僕にとっては長すぎる時間を耐えたらようやくに帰るんだ。


……3ヶ月ぶりに動いたのにこのハードさはきついけど、あとちょっとあとちょっと……。


「いずれのお返しっていうお礼が増えただけのことって思えば気が軽くなりますにゃ? これからどうやって帰ろうっていう心配もきれいになくなりましたし、あとはただ待っていれば助けが来るってことですからほっとしましたにゃ!」


注意して聞いているとちょくちょく「にゃ」じゃない話し方してるのは猫耳キャラとして許容範囲なんだろうか?


「でも下まで降りないといけないのよねー」

「下りる前にお店の人通じてここの上の人に協力してもらえばいいんじゃにゃいですか?」

「やだ! 頭良いわね!」


それなら僕もう帰って良いんじゃないの?


「安心してたらお腹空いてきましたにゃ! とにかくみんなでもう一品二品分け合って食べておいしそうなデザートも食べますにゃ。 ぜーたくなランチ食べますにゃ、クリスマスなのにお仕事で寂しいですし…………ですし…………」

「おいしいもの食べて忘れましょ!!!」


あー、そう言えばクリスマス……正確にはイヴだけどこの国の風習的には何故かイヴが恋人の日になってるもんね。


アイドルと言えども年頃の女の子だからやっぱりそう言うのが良いんだ。


……それ、一般人の僕の前で言っても良いの?


そう思うけど多分巻き込んだから良いよねってちょっと気が抜けてるんだろうな。


聞かなかったことにしてあげよう。

別に誰かにばらす楽しみは持ち合わせていないし。


「小皿なら3つ4つ行けちゃう?」

「あ、これ! これさっき食べたいって思ったんですにゃ!!」


ふたりでメニューを開いてあれもいいこれもいいって相談し合っているのを眺める僕。


僕は要らないんだけどなぁ……頭数に入ってるんだろうな、一応お礼ってことになってるし。


……僕のお腹、家に着くまで無事だろうか。

3ヶ月ぶりの食事がこんなに豪華だとお腹壊してもおかしくないもん。


「あ、そうですにゃ」


しゃべらないためにちみちみ食べていた僕は「食べてるからあんまりお話しできません」って顔で見上げてみると、メニューに指を指したままの緑メガネさんと目が合った。


あ、派手なマニキュア。

さすがはアイドルだ。


あと黒い髪の毛に緑色のメガネって合うなぁ……髪の毛も深い緑が混じってる感じだし。


黒に黒で暗い雰囲気のさよにもフレームだけでも変えるよう提案してみようかな。


なんなら赤系統とか似合いそうだしな、さよさんの落ちついた雰囲気的に。

人の印象なんて小物で結構変わるんだから。


かがりに無理やり着けさせられたストラップとかバッヂを見せびらかさせられながら歩いているとすごく見られるし、かなりの頻度で声かけられるしなぁ……「かわいい妹さんですね!」って。


「これとこれとこれとこれをみんなで分けて…………そういえばここに来るまでは急いでいましたし、ここに来たら来たで食べるのに夢中で『なんだか変だにゃ?』って思ったままで忘れちゃっていたんですけど、自己紹介、お互いの……まだでしたにゃ? 多分」


「あ、ほんと。 名前教えてもいなかったし聞いてもいなかったもんねぇ。 私たちのはともかく」


「どーりでなんだか声をかけにくいって思っていましたにゃ」

「えー、まっず。 暴漢から襲われていた私たちを助けてくれた恩人なのにそれも忘れていたなんて……トップアイドルとして失格になるところだったわ!」


いっそのこと名前知られない方が楽だった……ああいや萩村さんと今井さん経由で知られちゃうかぁ……。


「まー、フツーだった前と比べると今はブーストかけられてますけどにゃー。 トクベツな立場ですもんにゃー?」

「いいのよ、偶然とはいえ私たちのものだもの。 使わない手はないでしょ?」


女の子同士の会話って自分たちの世界に入るよね。

少なくとも男同士より平気で知らない話混ぜてくるって学習したもん。


「そーですけどー、知らない人たちに『ずるい』って言われるのは毎度のことながらイヤなんですにゃ……ネットで書かれるのはともかく、特に先輩方にすれ違いざまとか会話の途中にさりげなくぼそって言われるの……あぁ、思い出しただけでも向けられるヘイトで胃が……胃がですにゃ……」


「諦めなさい? 有名ってだけでなにしたってなにか言われるんだから。 むしろ守られている分そのくらいしか手出しされないんだからガマンよガマン」


「さすがは大先輩、肝の据わりようがすごいですにゃ」

「やっかみなんて浴びすぎるとかえって気持ちいいのよねー。 あ、実害出るのは事前に対処するのよ? 何かありそうだって思ったら萩村くんに言うのよ?」


さっきからポニーさん、萩村さんのこと「萩村くん」って……もしかしてこの子って萩村さんより年上だったり?


「世知辛いですにゃあ。 私、ストレス耐性ないのに」

「猫なのに?」

「猫だってストレスでハゲたりしますにゃ?」


「どれどれ……」

「いきなり後頭部かき分けないでくださいにゃっ! まだまだハゲませんにゃっ!! 誰かさんとはちがって!!!」

「私だって今はちがうわよ!? いえ、前だってまだまだぜんぜん!!!」

「汗かいてるけどかぐわしい」

「ニオイかぐなですにゃ!!」


大丈夫かな……僕って言う一般人の前で猫耳取れちゃったりしないかな……って心配になる。


けどそんなことはなかったらしく、しっかり装着された猫耳がぴんと立ったって思ったら猫眼鏡さんと目が合って、いたずらっぽい顔してたポニーさんがマジメな顔になる。


「ふぅ、堪能堪能。 えっと、えー、こほん。 改めまして、私が岩本ひかりね」


茶色ポニーさんが岩本ひかりさん。


「わたしが島子みさきですにゃ!」


緑メガネさんが猫……じゃなくて、島子みさきさんと。


◆ ◆   ◆

そういえばそんな名前だった気も…………………………◆  ◆◆


       ◆◆◆◆           ◆◆  ◆◆◆            ◆◆ ◆               ◆


――――――あれ。


この感覚……つい最近感じたような◆◆◆が、僕の、目の前…………、いや◆、頭の中で…………………………◆◆◆?


ざりざり。


じゃりじゃり。


ちみちみ。


正常なのに異常、そんな変な既視感……っていうのはおかしいけど、そんな感覚がどこからか蘇ってきて。


それで、目の前にも、なんだか砂嵐のようななにかが◆◆◆◆◆◆◆◆◆。


こめかみが、ちりちりぢりぢりする。


――何だ、これ。


「あ、もしかして萩村◆◆と、よく連絡取っているなら◆◆ ◆」

「! そうですね、きっと◆◆◆◆◆◆はずですにゃっ」


 ◇   ◆◆        ◆◆◆ ◆◆◆     ◆◆◆         ◆


「なら、◆◆   ◆   ◆ ◆◆◆ ◆◆ ◆◆◆ ◆◆    ◆」


頭の中がざぁーっとしてくる。


だんだんと現実が現実でなくなってくるような、そんなイヤな感覚。


そしてあの……得体も知れないようなどこかを通ってどこかへ行ってしまうような、そんな感覚。


これはあの夢の中での。


「…………………………、私はアイドル活動と同時に、――――――――――――――――として、――――――――――――――――もやっていまして」

「……それで、私は――――――――――なんですにゃっ」


「――――――――――――――――」

「――――――――――――――――」


どんどん、ふたりが、空間が遠のいていく。


――間違いない。


この感覚は昨日の夢の――この3ヶ月、昨日から今日のひと晩な3ヶ月の原因かもしれない、あの夢のとおんなじ。


目の前が薄れていく。

くらくらしていく。

もはや手の感覚がなくなっている。


……まずいまずい、よりにもよって外出先で初対面の人と話しているようなこのタイミングで?


ちりちりちりちりとあのイヤな感覚が止まらない。


拡大していく。


…………………………こ◆  ◆◆  ◆ ◆ ◆◆                ◆◆◆◆  ◆


このままじゃ、また体は完全に寝ちゃって意識はあの夢の世界だなんて。


魔法さんが原因なんだろうこれ――なんとかしないと大変なことになる。


外出先で昏睡。

意識を失った幼女。


――スマホを指紋で開けられちゃえば、叔父さんに連絡が。


僕が説明できない今、意識が無いままじゃ僕が犯罪者ってことに。


それだけは絶対に――――――。

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