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29話 「お姉ちゃん/姉さん」 3/3

初対面の女の子のこと「姉さん」とか言っちゃって恥ずかしい。


この歳にもなって……いや幼くなってるけど。


でも年下の子をお姉さん呼ばわりしちゃうとかいう小学校とかで先生を「お母さん」呼びしちゃうのに近い……いや歳が上な分、より深刻な過ちだ。


ここが夢で良かった。


夢じゃなかったらのたうち回るくらいじゃ済まない恥ずかしさだ。


この子自身がお姉さん風を吹かしていたし別に問題はないだろうって思ってしのいでおく。


むしろ喜んでくれるんじゃないかな。

そうだ、きっと。


僕よりもずっと年下……今の僕よりは年上なのはもちろんだけど、まぁ僕を成長させた姿だし?


頼れる人が父さんたちがいなくなったあの日からずーっといなかったんだから、こうして妄想の世界でくらいは精神的に頼れる存在がいてもいいんじゃないかな。


そう思い込んでおく。

思い込むのは得意なんだ。


「え、『響』? 今なんて……じゃないわ!!」


頭にこつんと痛い感覚。


ぽかりとされたらしい。

感覚的にげんこつじゃないけど軽いおこだ。


でも夢の中の被創造物から反逆された僕は、抗議の意味を込めてわざと頭をさすりつつアメリの顔を見てやる。


ぷんすかって感じのふくれっぷりがそこにあった。


……なるほど、今の僕がこうしてみせると一応は怒っているってニュアンスを表せるって感じか。

でもなぁ……とっても、見た目以上に子どもっぽく見えてるからちょっとなぁ……。


「そこは『姉さん』なんてのじゃなくって『昔』みたいに『お姉ちゃん♥』のほうが嬉しいかな!」

「そこに感情を込める理由は?」


「私が嬉しいのよ!」

「僕の気持ちは?」


「それに『響』はまだちっちゃいんだからもっとかわいい言葉づかいしないと!」

「僕の気持ちは?」


「せっかくのちっちゃくてかわいい体なんだし、『2回目』なんだから楽しまなきゃダメよ! ほらほらー、お姉ちゃんに甘えなさい? なんだったらっ◆◆◆◆  ◆◆◆◆◆◆◆ ◆!」


「……………………………………………………………………………?」


◆◆ ◆  ◆◆◆  ◆   ◆ ◆


ざざっと目の前が色あせていく。


そう言えば最初はモノクロだったけど色つきになって、匂いとか音とか感触とかのどごしまで感じるようになってたんだなーって今さらながらに気がつく。


「大切なものを失ってから気がつく」とか言うと格好いいけど、これ、目が醒めようとしているんだろうな。


どや顔って感じの表情を浮かべつつ何かを披露しているらしいんだけど、いよいよと起きられるっていう安心感で生暖かい視線を投げておく。


目の前にはフィルターが掛かったみたいな、ざーっというかぽつぽつというかしびしびというか五感に訴えかけてくるような、そんなもやもやとしたなんとも表現しがたい感覚。


だけどやっぱりいちばん適切な表現としてはすり切れてくるまで何十回も繰り返しビデオを見ているときみたい。


まだ低学年くらいのころに家にあったビデオデッキで、古いテレビで観ていたあれ。


ふと思い出したとき、ゆりかたちにあの現象について言ってみたことがあるんだけど現役JCたちには通じなかったのを思い出す。


ゆりかとさよって言うちょっと前のこともなんとなーく知っている子たちは反応こそしていたけど、現物を自分で使った記憶がないしそこまでじゃなかったしなぁ。


まぁ僕だって少し年上からしたら「そんな世代なんだね」って感じなんだろうけども。


時間っていうのは残酷だ。

まぁムダにした僕にそれを言う権利はないけど。


「◆◆  ?   ◆、◆◆ ◆——————————っ」


だんだんと薄れていく明晰夢の向こうの子。


話している声は聞こえているんだけどそれを認識できていないない感じ。


なんだか変な感じ。


「◆————————————————◆◆!?」 ◆◆——……◆ ? ……………………!!「


声っていう信号がぶつぶつ切れかかっている。


意識はぼんやりしてこないのに五感がぼんやりしてくるっていうまたまた新しい感覚を味わっていると、とうとう声自体も聞こえなくなってきて体の感覚も薄れてきているらしい。


寝不足気味だったり疲れていたりして、でもまだ寝たくはないけどだるいからって横になって意識が途切れる瞬間の感覚に似てるかも。


そんなのを意識している今に至っては、もう僕が夢の中で体を持っているっていう……目が覚める前の体の感覚なんだろうか……そういうのがなくなってもいるし。


とっても必死な感じになっているアメリをみているとなんだか申し訳ない気になってくるんだけど、夢っていうのはもともとコントロールできるもんじゃないんだからしょうがない。


あっちから僕はどう見えているんだろうね。


もう関係なくなることだけど。


……でも、いつか。


いつかこの明晰夢を自力で見られるようになったら、また会えるんだろうか。


黒のアメリと金のノーラと赤のタチアに。

あとソニアって名前も聞いたかもしれないけど結局会わなかったな。


……いや、これがストレスの結果とか酔い潰れた結果だったりしたら、もう見ないほうが僕にとってはいいのかもしれない。


ただのセルフセラピーな空間なのかもだもんな。


「————————————————!!」


ぼーっとしていたら視界がゆさゆさとしている。


黒アメさんがなにかを話していてすぐそばにいて。


……たぶん肩をつかまれてさっきみたいに揺すぶられているんだろう。

そのせいで視界が上下して余計に周りが見えづらいし見えなくなってくる。


…………………………。


………………………あ。


遠くのほうでクレーンの…………先から赤髪の子と金髪の子。


タチアとノーラ。

もうじきに忘れるはずだった子たちが隅のほうから走ってきていてぎりぎりで間に合わなくって。


……?


もうひとり、誰かがいる?


誰かが走ってくる?


ざらざらになった視界の中でがんばって目を凝らす。


――その後ろからおなじように走ってくるのは彼女たちと同い年くらいで。


————銀色の髪の毛をぱさっと振りまいていて、最近お手入れを怠っているのかわりとぼさぼさとしている感じで、だけどなんだかムダにきらきらと輝いていて、体力がないのかそれとも不摂生なのかはわからないんだけどともかくインドアっぽいノーラよりも疲れた様子で。


それでも年相応に中学生くらいの年齢相応の走り方をしていて、みんなとおんなじように硬そうだけど軽そうな服を……ちょっとばかり装飾が派手だけど……を着ていて。


きっとかちゃかちゃ鳴っているんだろう装飾と、服のせいか女らしさはうかがえない……女の子の域を出ない見た目で、でもよく見てみれば顔からは幼さが抜けていなくって、目を見開いていても眠そうで、つまりあの姿は


◆◆ ◆      ◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆  ◆◆◆  ◆ ◆ ◆ ◆◆ ◆   ◆◆  ◆ ◆◆                   ◆





「…………………………………………………………………………………………………………ん」


薄い日の光が差し込んでいる僕の部屋の天井にぶら下がっているライト。


「…………んぅ」


横を向いてみれば、枕の横に置いている机の上の時計とかスマホとか読みかけの本とか。


「…………んー」


反対側を見てみれば、今日着るために用意していたらしい……酔っていてもちゃんとできたらしいな……今日に着るはずの服が、上下、鏡の上に掛けられていて。


――今の僕になってからの目が覚めて最初に見る光景が広がっている。


「……………………………………」


僕の呼吸の音しか聞こえない静かな空間。


僕の部屋。


僕の匂い。


前の僕と今の僕のが混ざって、でもほとんど今の僕の……小さい女の子の匂いになっている部屋の香りに包まれていて。


がばっと起き上がってみれば、たしかな僕の体の感触。


サイズは……変わっていない。

どうやら夢の中で危惧した事態は起きていない様子。


そのまま着ていた白のワンピースのふっりふりも一切変わっていなくって、だから今この瞬間は僕が寝た次の時間って確定したわけで。


だけど、ちょっと………………ほこりっぽい?


気のせいかな。


「……けほっ」


喉が、いがいがする。


壁に片方をくっつけているベッドも……お気に入りだったけど今の僕にとっては大きくって、けどいつのまにか慣れていた枕と、ベッドの反対側に……地震が来てもぎりぎりベッドと机のそばなら無事って感じにアレンジしてある本棚と、机の上の日記帳とパソコンとその上のカーテンと窓と。


「……ぼくのへや」


ちょっともぞもぞしていたらなんだか肩周りとかがきつい気がする。


「……もしや」


よく見てみると、なんと!


……裾はワンピースなのにその上からパジャマを来ている形になっている。


なんでふりふりの上にパジャマを着ているんだろ。

おんなじ色だからぱっと見てわからなかった。


それほどまでに酔っていたんだろうか。

覚えていないけど、たぶんそうなんだろうけど、寝る前に着替えるって言う本能は作動したらしい。


でもおかげで……あ、ズボンはあいかわらず履いていないのか。


……でも、ズボン?


「……………………………………………………!!!」


あわてておまたに手をやる。


「…………………………ほっ」


冷たくも温かくもなっていない。

人肌のぬくもりの股ぐらだ。


よかった……本当に良かった。

粗相はしていない様子だ。


さすがにこの年でしちゃったら立ち直れない気がするし、本当によかった……。


肉体年齢と性別とで、あと昨夜の大量飲酒とで栓が緩そうだから心配だったんだけど助かった。


ついでに生えていなかったのには喜ぶべきなんだろうか、それともがっかりしないといけないんだろうか。


……いや、まぁ明晰夢を見た程度で魔法さんが諦めてくれるとも思えないしな……知ってた。


「はぁ………………」


現状確認って言う喫緊の課題をクリアした途端にさっきまでの余韻が戻って来る。


僕にしてはすっごく珍しくまるまる覚えている夢の内容。


……夢とは言っても、昔のことを思い出したり動いたりしているときに僕の子供のころの体じゃなくって、この幼女な僕の今の僕の体だったことを考えるとあらためて自意識が汚染されてる気がするなぁ……。


もうすっかり今の僕を受け入れちゃっているんだなっていうのを痛感する。

だって違和感は感じこそしたけどその程度だったんだし……。


……おまけに精神年齢的には年下のはずの子に悩みを打ち明けちゃうとかさぁ……やっぱり少しメランコリックになって弱っていたんだろうか。


きっとそうだ。


……あれを思い出すとすぐに恥ずかしさがこみ上げてきて顔がちょっと熱くなってくる気がする。

きっと人から見たら普段通りの顔なんだろうけど恥ずかしいものは恥ずかしい。


でも……ついに深層心理まで本物の幼じ、女の子になりつつあるのか。


否定していたかったんだけどこうもはっきりとした夢見ちゃうと改めてやばいなぁ。


やっぱり山に行くべきか。

あ、山にはもう行ったんだった。


それにしても変な夢だったな。

普段夢を見ないからわからないけど、でもきっと普通じゃない夢だったはずだ。


はっきりと、まるで昨日のことのようにくっきりと覚えている夢なんてそうそう無いもの。

朝ごはんを食べたら日記帳に書き留めておこう。


その前に忘れるんならその程度なんだ。


夢の中では大冒険をした気になってもすぐに忘れるのが夢なんだから。


――黒髪のアメリ、赤髪のタチアと、金髪のノーラ。


そんな今の僕をアレンジしたような姿の子たちと、目が覚めるまでのほんのひとときを過ごしただけの時間。


あともうひとり、銀髪の◆◆◆も居たけどあの子は遠目で見ただけだし……でも、気晴らしにはなったかなって思う。


「夢ってすごい」


もそもそと布団にうずくまり直す。

それに合わせて髪の毛が上に引っ張られていく、いつもの慣れ親しんだ感覚。


「でも寒い……」


寒いから出たくない……寝起きだからかな。


「…………………………」


夢のことを、覚えている範囲で思い出してみて思う。


昨日おとといと割と、僕基準ではかなり大変な目に遭っていたから癒やされた。


自分で見た夢ではあるんだけど、もちろん偶然のおかげだけど、でもちょっとだけ癒やされたし、心もぐーっと楽になっている気がする。


……けど。


「うーん?」


髪の毛がわさわさする感覚を頭皮で感じつつ、顔だけ布団から抜け出して……見慣れたはずなんだけどちょっとだけ違う印象の僕の部屋を見回してみる。


……なんで僕の部屋なのに、なんだかほんのちょっとだけ違う感じがするんだろ?


夢の中にずいぶん長いこといた気がするから、かなぁ?


「……くぁ」


ま、いっか。


その内眠気が取れたらうじうじしたのもなくなるだろうし。


――そうしてベッドの上で毛布をもふもふしていた僕の周りは、家は、町は。


厚く積もった雪の中にあった。


その年、珍しく雪が積もりに積もった12月のある日。


9月のある日に眠ったはずの僕は目を覚ましたんだ。

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