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20話 下条かがり(1) 6/6

とんとんとん。


机の上に良い感じの音が響く。


「響ちゃんはマジメさんなのねぇ。 どうせ明日も使うのだからそのままで良いのに……」


今日終わった分の宿題とか使ったものとかを整える僕にケチを付けるかがりさん。


こういう分かりやすい演技とか儀式みたいなのは達成感を感じるためには必要だって聞いたことがあるんだ。


わざとらしいのもいつもじゃなければメリハリとなる。

らしい。


僕は普段からこんなことはしないけど……この子が心配だからなんとなくでしてみた。


「おつかれ。 君が今日がんばったおかげでこれだけの、……」


……別に多くはないかなぁ。

効率が良いとは言えない感じのノートの使い方をぺらぺら見ながら考える。


夏休みって言うか同じ学校の同級生なゆりか情報だと、ここをやっておきなさいっていうのは期末試験が終わったときに言われてたらしいから、実際には2週間程度じゃなくて1ヶ月くらい経ってる宿題。


その1ヶ月のあいだ1行もやってなかったのが今日だけでこの量。


そう思うとすごい。

えらい。


それをとっくに終えてるゆりかとか、さらに言えば高校受験のためにがんばってる子とかはもっと偉いんだけど……こういうのは人と比べちゃ駄目って知ってる。


こういうのはその子を基準にしなきゃいけない。


僕だって学生の頃先生から「今日はとっても学校で人とおはなしできていましたね。 でも他の子はあなたの何倍の時間楽しそうにしていたから明日からもっとがんばりましょうね? お友だちはたくさん作りましょうね?」とか言われたら不登校になってただろう。


だから人と比べちゃいけないんだ。

ニートって言う人と比べられない存在な僕だからこその配慮でもある。


「問題集系の……3割近くを片づけられた。 初回でこれは大戦果だね。 基礎とはいえ、このペースはいい。 この調子だよ」


これでもかというくらいに褒めちぎる。


まぁ今日はこの子が「これならやってみても……」って言うところだったし簡単なところだったしで他の日はこうは行かないだろうけども。


でもけなすよりは褒める。


よっぽどバカにした褒め方じゃなければ誰だって褒められる方が良いよね。


ああいや、でも世の中にはなじられる方が嬉しいって人もいるのか。

今の僕みたいな子供にバカにされたいって言う人もいるくらいだもんね。


この子も僕から「ばーか」とか言われて喜ぶんだろうか。


……喜びそうだからやめとこ……毎回罵倒を希望されたら僕が困るし……。


「ふぅ………………………………」


はいつくばるようにして机に乗っかりながらだるだるしているかがり。


でも完全には体重を乗せきれないらしくって微妙に浮いている上半身。

胸があると大変そうだなぁ……ベッドに寝そべってスマホとか漫画とかつらそう。


僕にはこれっぽっちも縁のないことではあるけど。

うつ伏せに寝るときには男のときと全くおんなじだからこの上なく便利だからいいけどさ。


「………………………………」


「学校とかでお友だちからそういう目されるのよ。 なんでかしらね?」


僕の目線に気がついたらしいかがりは、特段に隠すわけでもなくだるーんとしている。


メロンさん。


胸。

おっぱい。


どのくらいが良いかって言われたらやっぱりちょっとは欲しい。


だって僕の心は男だもん。


邪心がなくたって目の保養ってやつなんだから、かがりほどはいらないけど欲しいものでしょ?


せめて目で楽しめて手で楽しめるくらいには。

こんな不便な代償が小数点以下は悲しすぎる。


女の子にさせられている以上、せめて下に無い分を補えるくらいには特典が欲しいんだ。

だってなんか寂しいし。


なまじ整いすぎてる顔とか幼児な体とか強い光で発光してるように見えちゃう長い髪の毛とかは、誰にも注目されないで静かに生きたい僕には不要なんだもん。


ちょっとくらいの特典くらいいいじゃない?


「でも響ちゃんってほんとうにスパルタね……思っていたより厳しいわぁ」


そう?


塾とかで教えてたときの僕はもっと厳しかったよ?

だってお金も責任も絡むんだもん。


今みたいに学生同士って立場だからこそのいい加減さだ。


まぁ僕、学生でも社会人でもないニートだけど。

職業欄には「無職」だ。


「嫌か? 嫌なら」

「もちろんそう頼んでいたのだから文句はないのよ?」


文句があったらこれっきりにしたかったのにな、残念だ。


「ないのだけど、でももう頭と動かしていた指が動かないの……学校の外での勉強ってこんなに大変だったのね……」


そりゃあ授業とは違ってひたすら問題解いてもらったからね。


集中力をなんとかして続かせて、そのあいだずっと書き続けてもらったから。


でも毎日10分ずつとかだったらすんごく楽だったんだよ……?

1時間でも30分でもなくって、たったの10分で良かったんだよ……?


「私、受験のときはこんなに大変だったかしら……」


くるん?としているくるんさん。


一応の受験生だったらしい。

そういうのを雑談のあいだに聞いた。


さぼることをあんまり知らない小学生だったからこそがんばれたのもね。

受験の初めてが高校じゃなくて良かったタイプの子だ。


けど、なんだかんだで夕方。

朝からなんだから、そりゃあ誰だって疲れる。


逆に言えばこの子だって、がんばりさえすればこのくらいできるということだ。

普段はがんばらない、がんばれないだけなんだ。


基礎的なスペックはこのくらいあったとしても勉強って体力が無いと難しいよね。

単純に机に向かう体力とヤなこと続ける体力と、見られてなくても自分でやる体力。


心の体力。

MP的なものだ。


それが足りないとどれだけがんばってもいつもの僕みたいにだるーっとなるのはしょうがない。

筋トレとおんなじで地道にやるしかないんだ。


たったの1日だけだけど、それでもこれだけやれた達成感はあるはず。


これが君の今後に効く……と良いね。


なぁに、まだ中学2年生だ。

世の中大人になってから本気出す人もいるからなんとでもなるよ。


僕だってまだまだ本気出してないからニートなんだし。


「君の場合はこれっぽっちも手をつけていなかったのが原因。 これからはがんばるんだ」

「うぅ……反省しているって……」


なんか僕の認識外でぶつぶつ言ってたから責任の所在は明確にしておく。


10も年上の生産性なんてないニートには言われたくはないだろうけど、そのニートに教えられてるんだからこれくらいは良いよね。


「響ちゃんは厳しかったけど、おやつをエサに釣られた気がするけれど……ありがとう。 おかげでなんとかなりそうって思えてきたわ!」

「そうか、よかったな」


そうじゃないと困るもん。


この子も僕も。


最後の方なんか机に突っ伏しながらだったくらいのだるだるだったから、気力をなんとかするために1ページでひとつまみのお菓子をあーんとかしてあげたからね。


この子の方から「してくれないとやだ」って言ってたから事案じゃない。

なんでか知らないけど僕の指まで食べようとしてたのは幼女じゃなければ事案だった。


やっぱり女の子はスキンシップが好きらしい。

僕の指でお菓子をつまんでできるたびにご褒美として直接口に入れて欲しいって……子供か。


ただ手渡すのとじゃやる気の上がり具合がまるで違ったし、ある意味安上がり。


でも僕結構に潔癖だから早く指を消毒したくて困ってるんだ。


だけど人の口の中ってけっこう熱くって唇って柔らかいんだなって思った。


この歳になっての初体験。


「……響ちゃん、そのぉ」


お願いをするときの声の出し方になって、上目遣いになって体を傾けてのぞき込んでくるくるんさん。


……この子のこういうのはあざといとかじゃなくて天然のもの。


オーガニックで有機栽培なんだ。


勉強なんかできなくたってなんとかなるだろうって気がする。

愛嬌って大事だよね。


「できたらまた、明日とかあさってとか……いえ、響ちゃんに合わせるわ! でも、その、えっと……ま、また今日みたいに……お願いしたいんだけれど……」


今日の戦果が相当に嬉しかったらしい。


綺麗に積んであげた宿題の山をちらちら見ながらせがんでくる、これまた珍しくしおらしいくるん未満さん。


「…………あたりまえだろう」


でも、この子は甘くし過ぎるととダメなのは分かってる。

僕みたいにほっといたら堕落するタイプなんだ。


第2第3のニートを再生産するわけには行かない。


僕は心を鬼にする。


「響ちゃん! それ、女の子がしちゃいけない顔!!」

「知らないね」


なんか気合を入れたらそれっぽい顔になったらしい。


でも僕は女の子じゃないから平気。

男だし幼女だし。


……ん?


そういえばこの体になって真剣な顔をしたのは初めてかもしれない。

そういえばそういえばで鏡とか見るのは髪の毛が綺麗かどうかとか服がよれてないかとかだけ。


後は体を観察するときくらい?


今の僕自身の表情とか気にしたことなかった気がする。


……帰ったらいつもの眠そうな顔がどうなっているか確かめてみよう。


だって、いつもならイヤだっていう意思表示をしても「あら響ちゃん、眠いの?」って誤解されるんだし。


「なら目が覚めるようにちょっと離れたところのお店に行きましょう」だとか「なら目が覚めるようにいろいろなファッションを試してみましょう」だとか屁理屈をこねられることになるんだ。


だからこそこれだけの苦労をしているわけだ。


だからメモリーに残ってるはずの表情を再現してこのくらいなら眠くなさそうって見てもらえるようになりたい。


「とにかくだ」


指を立てて集中させるテクニック。


「明日から連続……は疲れて効率が悪くなるだろうから、毎日ではなくても明日を含めて来週までに3日くらい。  その3日で集中して片づけないと残りの宿題がすべて白紙になってもおかしくない。 もちろん今日みたいに見てあげるとも」


この子はちょろい。

おだてたらなんでもしてくれるのは分かってるんだ。


だから気分が乗ってるだろう近いうちに……学校の先生がため息をつかない程度に「なつやすみのしゅくだい」をさせておいてあげるんだ。


僕なりの優しさだよ?


「……響ちゃん、ちょっとはその……私のこと信用してくれても」


信用……?


いやいや、絶対しないでしょ。


もし自主的にするんだったらこんなに残念なことにはなってない。


「まずは明日だね。 明日も空いているよね?」

「え、ええ……あ、待って頂戴明日は」

「さっき君自身が予定なんて無いと言っていたから大丈夫だ」


さっと目を逸らして早速に明日がめんどくなった様子だからたたみかけよう。


「朝のもっと早くからじゃないと間に合わないかな。 なら朝食のあとすぐに向かおう」

「で、でも、それだと響ちゃんに悪いし」


「それから休憩を挟みながらこのくらいの時間までやろう」

「でも、響ちゃん病み上がりだって」


「大丈夫だよ。 ここまでの道は覚えたし、僕は朝は強いんだ。 僕が遅れることはないはずだから安心してくれ」


でもでもだってだってやっぱり。


大人な僕にその手は通用しない。


「でも私が寝坊とかしてしまったら迷惑を」

「ああ、しっかりアラームで起こしてあげるから心配はないよ。 寝坊したらインターホンで起こしてあげるから安心していい」


遅刻の可能性を事前に言えるのは偉いね。


でもすぐに遊ぼうとするのは……お兄さん、良くないって思うよ?


「あぁ、親御さんにはきちんと伝えておいてくれ。 僕が教える格好になっているんだから菓子折とかは必要ないよね?」


確か友だちの家に行くときには相応の手土産が必要だった気がする。


最後にお邪魔したのは多分中学生も最初の頃くらいだったから全く記憶にないんだけど、きっとそうだ。


礼節ってやつは大切。

丁寧に越したことはないもんな。


でも今回はこの子のためだってご両親も理解してくれるだろうからいいや。

何よりこの後にわざわざ買いに行くのだるいし。


「後は、……このくらいでいいか。 でもかがり、今言ったことを忘れたりしないか……? あとでメッセージで再確認したほうがいいか……? 今ここで適当な紙に書き出してあげた方が」

「ひどいっ!? 私、そこまで忘れっぽくはないのよ!?」


ひどくない。

あたりまえのことを確認しているに過ぎない。


「それに響ちゃんって、どうしてこういうときだけ饒舌なの!? いつもはさよちゃんとおんなじように可愛らしく静かにお話しするのに⁉」


さよちゃん?


……文学少女さんか。


なるほど、この子にとってはぽつぽつとかたどたどとかで抑揚のない話し方は小動物的に映っているのか。


まぁ確かにあの子は庇護欲をかきたてる感じだもんな。

庇護欲を他人に対してすぐに覚えそうなりさりんさんとは大局的な存在だ。


僕もこの見た目で僕から会話しないからきっと似た印象なんだろう。


「これが僕の普通だよ。 厳しくも甘くもない。 君だって普段、服とか恋とか友人のいろいろについて話すのが止まらないだろう? それだけ僕も熱心なんだ」

「でも……」


「それに、次の試験で赤点を取ったりして塾に通わせられたいか?」


「……塾の話は嫌いなの。 私、どうにかして……受験当日もたまたま得意な問題がたくさん出て。 だから運が良くってたまたま今の学校に入ったくらいには勉強が」

「そのいいわけは通用しないよ。 運だって最低限の地力がなければ通用しないんだから」


僕は調べた。

この子たちの学校のこと。


中高一貫の私立。


特別に名門というほどじゃないけど、それでもある程度の学力がないと入れないところなんだって。

たまたまだろうとなんだろうと入ったからにはその程度以上の頭はあるはずだって。


「……宿題、きれいに終わらせられたら何かお礼をしないといけないわね!」


……ぱっと顔が明るくなったと思ったら唐突に抜かすくるんさん。


もう先延ばしにするのは諦めたらしく、その次にしたいこと考え出したらしい。


便利な頭してるよなぁ。


「なにがいいかしら……響ちゃんが喜びそうなもの……」

「僕は別にいらないよ?」

「そういう訳にはいかないわ?」


だって僕、ほんとうになんにもしてないしな。

ただごろごろ漫画を読んでただけだ。


ただこの子の都合に合わせてこの子の家の子のこの部屋でこの子の目の前で監視される……勉強を監視しているのは僕の方だけど、実際にはこの子が誰かに傍にいて欲しいだけだもんな……それだけだもん。


「ふむ……」


そう考えてみると。


普段みたいに連れ回されてからの服屋で店員さんと一緒になって脱がされて着させられてまた脱がされてまた着させられてだったり、お昼とかを食べた後でのカフェとかで女の人だらけな空間でスイーツとかを甘いものをたくさん食べさせられてうんざりするよりも、そのあいだずっとひたすらにとめどなく話をされるよりも……ずーっと幸せなんだって気がつく。


寝転がっていられるし人目にさらされないし天国と言っても過言じゃないかも。


「………………………………あっ! そうだわっ!!」


そう唐突なボリュームで叫んだくるんさんの表情がいつもの……僕をかわいく仕立てようとしているときのものに戻ってしまっている。


なぜだ。


一瞬前までは確かに、平穏で安寧で天国みたいな状態になっていたのに。


僕の中に一気に緊張が走る。


じわっとにじむ手汗。


「いつも思っていたのよ! 響ちゃんって、せっかくのそのきれいで長ーい髪の毛……きっとお母さんとかお家の人にお手入れしてもらっているのよね? ときどき響ちゃん自身がだらしなくしているとき以外は痛みとかもなくって嫉妬する気にもなれない、その美しい銀色の髪の毛!」


口の回転が速まっている。

非常によくない兆候だ。


なんとかしなければならないことだけが理解できる。


「かがり」

「響ちゃんを響ちゃんたらしめているその輝いている髪の毛!」


「かがり」

「いっつも下ろしたままだし恥ずかしがって隠しちゃうくらいだし……そんなのもったいなさ過ぎるって思っていたのよ!!」


机をばんっとされてびくっとなった。


こわくないけどこわい。

脅すつもりがないのが分かっていてもこわいものはこわい。


ニートと幼女を舐めないで欲しい。


「だからかがり」

「お家にもきっとかわいいリボンとかいっぱいあるんでしょうけど!」


そんなのないよ?


「だって響ちゃん自身がかわいいものね、それに似合うし、だけど今はせっかく私と一緒にいるんだからこういうときくらいたまには結ってみたり髪留めとかつけてみたりしてくれてもいいんじゃないかしら! お母さんとかメイドさんとかとはきっと違うセンスで可愛らしくしてあげられるって思うしその自信はあるのよ響ちゃん!」


「かがり、落ち着」

「大丈夫よ! 心配しなくたってお嬢さまっぽい髪型とかにはしないわ! 響ちゃんはそう言うのが苦手だってこの前言っていたものね! 大丈夫、ちゃんと覚えているわ! 他の子の髪の毛を上手に整えてあげるの好きなのよ私! まかせて!!」


任せたくない。


「……そうよ! まずは今日の分のお礼が必要よね!」


「かがり、僕は何も要らな」

「少し待って頂戴! 今すぐに試してみましょう! 大丈夫、私のがあるからいっぱい試せるわ!」


対話を試みるも僕の頭と口の回転がかがりのそれに遠く及んでいない。


……違う、僕はそんな心配なんてしてないんだ。


だからにじり寄ってこないで。

お願い。


僕自身の性格と体格差とで目の前に来られると動けなくなっちゃうの。


「かがり……頼む、僕の話を」

「心配は要らないわ! 今の響ちゃんが響ちゃんらしく……そうね、わたしが知っている響ちゃんに似合う髪型とかを一緒に探してあげるわ! 待ってて! 今すぐだから!」


唐突すぎてぼけっとして動けなくなっている僕を置いてきぼりにして……彼女は僕の両肩に体重を乗せて僕を縛り付けて。


「待っていて頂戴?」ってぼそっと言い含めるとさっきの本棚の雑誌のところをごそごそと漁り始める。


何冊かをぱっと出してぱらぱらと眺めてなにやらとぶつぶつしながら吟味している。


……かがり、それは僕のためとかお礼のためなんかじゃなくって、いつもどおりに君がしたいことじゃないの……?


なんでお礼とか言いながらもうその趣旨を忘れちゃってるの……?

鶏さんに負けてるの……?


……ただでさえ女物には半分くらいしか慣れていなくて外では恥ずかしいのに髪の毛まで……かがり基準で「かわいい」感じにされて覚えさせられて「次からはその髪型で来てちょうだい?」とか言われたらどうしよう……?


「響ちゃんはせっかくの長髪を活かさないともったいないわ。 だからミディアムまでのは参考にしなくて良いから……」


不穏な単語が聞こえてくるし……やっぱり勉強見てやるの止めよっかな……?


ちょっといいかなって思ったくらいの僕へのメリットを羞恥心っていうデメリットが飛び越えそうだし……でもなんとなくだけど口約束でも1回約束したのを「やっぱやめた」っていうのはやだし……。


「響ちゃんっ!」

「………………」


最近覚えた「どや顔」というやつをしている彼女はたいそう満足げ。


そうして雑誌を何冊かと髪留めとやらが入っているらしきでかいポーチを両腕と両方のお胸を使って包み、ぺたりと座り込んでいた僕の頭上から僕にとっての死の宣告をする。


スカートの裾から見えそうなのも気にしない彼女は仁王立ち。


そうして「ふんっ」と意気込んだかがりの胸元から1個のポーチがぽとりと落ちてくる。


「…………………………………………」


それは僕の、最近のクセで女の子座りをしていたふともものあいだの形に凹んでいるスカートの上に綺麗に収まっていて、僕は失敗したことを悟った。


……僕、これ以上女の子になっちゃったら戻れなくなるからほどほどにお願いね……?


僕はそう願って意識を放棄してされるがままのお人形さんと化した。


後のことは無事に家に帰ることができたら考えよう。

お人形さんなあいだは適当なことを考えておこうって。


大丈夫、なんにも見なかったことにするのは得意だから。


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